AI技術の飛躍的な進化を支えているのは、膨大なデータを高速かつ効率的に処理できる“高性能メモリー”です。AI開発の現場では、メモリー性能がシステム全体のパフォーマンスを左右する重要な要素となっています。今後どのようなメモリー技術が未来を切り拓く鍵となるのでしょうか。本記事では、AIプラットフォームの性能を左右する「LPDDR」、「HBM」、「GDDR」など最新メモリー規格の特徴や進化のポイントを、エンジニア視点で徹底解説します。
AIの進化を加速するメモリー技術とは
AIの進化には、高性能かつ広帯域なメモリー技術が不可欠です。特にGPUやプロセッサーの性能を最大限に引き出すためには、最新メモリー規格の理解と導入が重要となります。本記事では、AIプラットフォームに最適な最新メモリー技術について、規格ごとの特徴を解説します。
メモリー規格ごとの概要、比較
メモリー技術には、用途や性能要件に応じてさまざまな規格が存在します。特にAIや高性能計算分野ではDRAM系メモリーの選択がシステム全体のパフォーマンスを左右します。まず、代表的なメモリー規格である「DRAM」「NAND型フラッシュメモリー」「NOR型フラッシュメモリー」の特徴を比較しそれぞれの特徴や用途を解説します。
DRAM
- パソコンやスマートフォンのメインメモリーとして広く採用される揮発性メモリー。
- 近年ではAI・HPC用途でもDRAMの高速化・大容量化が進行。
- 電源を切るとデータが消えるため、一時的なデータ保存に適する。
- 高速な読み書きが可能で、CPUとの連携に優れる。ただし常に電力供給が必要。
NAND
- SSDやUSBメモリー、SDカードなどに使われる不揮発性メモリー。
- 大容量かつ安価なためデータ保存用ストレージに最適。
NOR
- 組み込み機器やマイコンのファームウェア保存に使われる不揮発性メモリー。
- 信頼性が高く、読み出し速度も優秀。
- 容量は小さいが、書き換え耐性が高く長期保存に適する。
AIや高性能計算で重要となるDRAMの主な種類を比較表で整理します。
表1 主要DRAM規格の比較
| 種類 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| SDRAM | クロック同期型。CPUと同期して動作するため高速 | 古いPCや組み込み機器 |
| DDR SDRAM | クロックの立ち上がりと立ち下がりの両方でデータ転送 | 一般的なPCやノートPC |
| LPDDR | 低消費電力版DDR。モバイル向け | スマートフォン、タブレット |
| HBM | 高速・高帯域・省スペース。3D積層構造 | ハイエンドGPUやAI処理向け |
| GDDR | GPU向けに最適化された高速メモリー | グラフィックカード |
この比較表の中で特にAIの発展に大きく関係するLPDDR、HBM、GDDRの3つの最新メモリー規格について次項から詳しく解説していきます。
LPDDRとは
LPDDR(Low Power Double Data Rate)は、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどモバイル機器で広く採用されている、低消費電力向けのDRAM規格です。LPDDRは世代を重ねるごとに、高速化・低電力化・信号品質の向上が進み、最新世代では従来比で大幅な性能向上と省電力性の両立を実現しています。
表2 LPDDR規格の世代別比較
| 発表年 | 名称 | JEDEC規格 | データレート |
|---|---|---|---|
| 2006 | LPDDR | JESD209 | ~533Mb/s |
| 2009 | LPDDR2 | JESD209-2 | ~1066Mb/s |
| 2012 | LPDDR3 | JESD209-3 | ~2133Mb/s |
| 2014 | LPDDR4 | JESD209-4 | ~4266Mb/s |
| 2017 | LPDDR4X | JESD209-4改訂版 | ~4266Mb/s |
| 2019 | LPDDR5 | JESD209-5 | ~6400Mb/s |
| 2021 | LPDDR5X | JESD209-5改訂版 | ~8533Mb/s |
| 2025 | LPDDR6 | JESD209-6 | 10667Mb/s~ |
現在の主流はLPDDR5およびLPDDR5Xで、最大データレートは8533Mbpsに達します。これによりAI処理や映像処理など高速なデータ転送が求められる最新のスマートフォンやAIエッジデバイスに広く採用されています。2025年には、半導体標準化団体JEDECによって次世代規格LPDDR6が正式発表され、さらなる高速化と省電力化が実現されています。LPDDR6は、データバス幅が従来の16bit幅から24bit幅へと拡大され、データ転送効率が大幅に向上しました。また、ピン数が削減されたことで基板スペースを節約でき、高密度実装やデバイスのさらなる小型化にも貢献します。今後、AIエッジデバイスやIoT機器など、幅広い分野での導入が期待されています。
低消費電力デバイス
HBMとは
HBM(High Bandwidth Memory)は、複数のDRAMチップ(ダイ)を垂直方向に積層し、超高速かつ広帯域なデータ通信を実現した次世代メモリーです。従来のDDR系メモリと比べて、HBMはこれまでの数倍以上のメモリー帯域幅と高密度実装を実現し、AIや高性能コンピューティング(HPC)分野でのメモリー帯域ボトルネック解消に貢献します。HBMは世代ごとに帯域幅や容量が大きく向上し、現在ではHBM2、HBM2E、HBM3、HBM4といった規格が登場しています。
表3 HBM規格の世代別比較
| 発表年 | 名称 | JEDEC規格 | データレート |
|---|---|---|---|
| 2013 | HBM1 | JESD235 | 128GB/s |
| 2016 | HBM2 | JESD235A | 256GB/s |
| 2019 | HBM2E | JESD235B | 410GB/s |
| 2022 | HBM3 | JESD238 | 819GB/s |
| 2025 | HBM4 | JESD270-4 | 2TB/s |
2025年4月にJEDECが発表した最新のHBM4は、2TB/sという圧倒的な帯域幅と大容量を実現しています。これによりAIモデルのトレーニングや大規模データ解析など膨大なデータを高速に処理する用途で高いパフォーマンスを発揮しシステム全体の処理効率を大幅に向上させます。
HBM積層イメージ
GDDRとは
GDDR(Graphics Double Data Rate)メモリーは、グラフィックカードやゲーム機、HPC、AI分野で広く利用されています。高速なデータ転送能力と低レイテンシ(遅延の少なさ)が特徴で、リアルタイム処理や高解像度映像処理に適しています。
表4 GDDR規格の世代別比較
| 発表年 | 名称 | JEDEC規格 | データレート |
|---|---|---|---|
| 2003 | GDDR3 | JESD79C | 4Gbps |
| 2005 | GDDR4 | JESD79D | 4.5Gbps |
| 2007 | GDDR5 | JESD212 | 8Gbps |
| 2016 | GDDR5X | JESD232 | 14Gbps |
| 2018 | GDDR6 | JESD250 | 16Gbps |
| 2024 | GDDR7 | JESD239 | 36Gbps |
GDDRは世代ごとにデータ転送速度や効率が大きく向上しており、最新世代ではAIや次世代ゲーム機の要求にも十分対応できる性能を備えています。2024年3月にJEDECが発表したGDDR7は、従来のGDDR6と比較しデータ転送速度や効率が大幅に向上した最新のGDDRメモリー規格です。GDDR7はGDDR6と比べてデータ転送速度が2倍以上に向上し、より高い帯域幅と効率を実現しています。これにより次世代ゲーム機やAI推論、高性能PCなど膨大なデータ処理が求められる用途に最適です。
応用例、導入事例
現在高性能メモリーは、AI、自動車産業、ゲームなど幅広い分野で、システムの処理能力向上やリアルタイム性の確保といった課題解決に貢献しています。ここでは、代表的な導入事例を紹介します。
データセンター:AIモデルの学習や推論を高速化するサーバー機器
AIモデルの学習や推論を高速化するために、高帯域・大容量メモリーを搭載したサーバー機器が導入されています。これにより、大規模AIサービスの応答速度や処理効率が大幅に向上しています。
ADAS(先進運転支援システム):膨大なセンサーデータをリアルタイムで処理する車載機器
自動車の各種センサーから得られる膨大なデータをリアルタイムで処理するため、高速メモリが不可欠です。これにより、衝突回避や自動運転などの高度な機能が実現されています。
グラフィックカード:高解像度映像処理やAI推論を高速化するためのGPU搭載カード
高解像度映像処理やAI推論を高速化するため、GDDRやHBMなどの高速メモリを搭載したGPUカードが利用されています。これにより、ゲームや映像編集、AI推論処理などの分野で高いパフォーマンスが発揮されています。
まとめ
AIや次世代デバイスの性能を最大限に引き出すには、用途に応じた最適なメモリー規格の選定が不可欠です。LPDDR、GDDR、HBMといったメモリー規格は今後も進化を続け、AIや大規模データ解析の現場で重要な役割を担い続けます。
一方、各メモリー規格には、データ転送速度、省電力性、容量拡張性などそれぞれ独自の強みがあります。そのため用途やシステム要件に応じて最適なものを選択することが重要です。
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