ECU(電子制御ユニット)設計の現場では、「IC入力端子のプルアップ・プルダウン抵抗値」をどう選ぶべきか、悩んだ経験はありませんか?
本記事では、IC入力端子のプルアップ・プルダウン抵抗値の決め方について、初心者の方にも分かりやすく、実際の設計現場で役立つ知識とともに解説します。前回の記事でご紹介した「なぜ端子処理が必要か」に続き、今回は“抵抗値の選定”という実践的なテーマに踏み込みます。
前回の記事: ECU設計で失敗しない!IC入力端子のプルアップ・プルダウン処置と実験で学ぶ安定設計
プルアップ・プルダウン抵抗値が回路に与える影響
IC入力端子に取り付けるプルアップ・プルダウン抵抗は、単なる端子処理以上の役割を持っています。
たとえば、抵抗値が大きすぎると、消費電力は抑えられるものの、外部ノイズに弱くなり、ちょっとした静電気や漏れ電流で端子の電位が簡単に変わってしまいます。
逆に抵抗値が小さすぎると、ノイズには強くなりますが、スイッチON時に流れる電流が増えすぎてしまい、ICや基板の許容電流を超えてしまう危険性もあります。
このように、プルアップ・プルダウン抵抗値の選定は安定動作と安全性のバランスを取ることが重要です。
抵抗値の決め方と計算方法
IC入力端子のプルアップ・プルダウン抵抗値を選定する際、まず基本となるのがオームの法則です。
オームの法則
ここで、Vは電圧(V)、Iは電流(A)、Rは抵抗値(Ω)を表します。この式から、電圧Vが一定の場合、抵抗Rを大きくすると流れる電流Iは小さくなります。
抵抗値を極端に大きくした場合
例えば、プルアップ抵抗値を100MΩという非常に大きな値に設定すると、電源Vccが5Vでスイッチがオープンのときには
しか電流が流れません。
プルアップ抵抗値が大きすぎるとほとんど電流が流れない
この電流はICにとって「ほぼ流れていない」のと同じであり、入力端子の電圧は外部ノイズや静電気の影響を受けやすくなり、不安定な状態になります。
つまり、抵抗値が大きすぎるとプルアップしたつもりでも、実際には端子電圧が安定しないことになるのです。
抵抗値を極端に小さくした場合
逆に、抵抗値を0.1Ωという極端に小さな値にした場合、Vccが5Vでスイッチがクローズの時には
もの大電流が流れます。
これは通常のプリント基板の配線定格(1mm幅で約1A)を大きく超えており、最悪の場合は基板がショートして破損・発火する危険性があります。
プルアップ抵抗値が小さすぎるとほとんどショート状態になる
プルダウン抵抗の場合も同様
プルダウン抵抗についても同じ考え方が当てはまります。
このように、プルアップ・プルダウン抵抗の値は大きすぎても小さすぎてもICを正しく安定動作させることができません。適切な抵抗値を選ぶことで、ノイズや静電気による誤動作を防ぎ、過大な電流による部品や基板の損傷も防止できます。
実際の設計現場での選定ポイント
設計現場でよく使われる抵抗値
設計の現場では、10kΩ~100kΩ程度の抵抗値がよく使われますが、用途やICの仕様によって最適値は異なります。消費電力を抑えたい場合はやや大きめ、ノイズ耐性を重視する場合はやや小さめの値を選ぶのが一般的です。
ロジックIC・一般デジタル入力向けでよく使われるプルアップ・プルダウン抵抗値を、用途と使用環境別にまとめました。
用途と使用環境別のよく使われるプルアップ・プルダウン抵抗値(ロジックIC・一般デジタル入力向け)
| ICの用途・使用環境 | よく使われるプルアップ・プルダウン抵抗値 | コメント |
|---|---|---|
| 汎用(バランス型) | 10kΩ~100kΩ | ノイズ耐性と消費電力のバランスが最も良い。実務で最も一般的。 |
| ノイズがやや大きい環境 | 4.7kΩ〜10kΩ | 強く効かせたい場合。EMI対策として定番。 |
| ノイズが非常に大きい環境 | 1kΩ〜4.7kΩ | ノイズにシビアな環境で使用。ただし電流増加に注意。 |
| 省電力(バッテリー駆動) | 47kΩ〜100kΩ | 抵抗を介した消費電流を抑える。CMOS入力などリークの小さい IC 向け。 |
| 特に制約なし(一般 CMOS ロジック) | 10kΩ〜100kΩ | CMOS入力はリークが非常に小さいため、幅広いICで使用される。 |
ICの入力容量と立ち上がり時間を考慮する
プルアップ・プルダウン抵抗値の選定にあたっては、ICの入力容量や立ち上がり時間も考慮しなければなりません。高速な信号伝送が必要な場合、抵抗値が大きすぎると信号遅延が発生し、タイミング不良の原因となるため、入力容量と立ち上がり時間も考慮する必要があります。
さらに、前の章で説明したように、抵抗値の選定では極端な値を避けることも重要です。
では、実際にどのくらいの抵抗値が適切なのでしょうか?
ここで重要になるのが、ICのデータシートです。データシートには、入力端子のHigh/Low判定に必要な電圧や、許容されるリーク電流、入力容量などが記載されています。これらの情報をもとに、抵抗値を計算で求めることができます。
参考までに、CMOSロジックICのデータシートでは、入力Highレベルのしきい値と入力リーク電流の仕様は以下のように定義されています。
| Symbol | Parameter | Condition | Min | Max | Unit |
|---|---|---|---|---|---|
| Vih | High level input voltage | Vcc = 4.5 ~ 5.5 V | 0.7 * Vcc | - | V |
| Iin | Input leakage current | Vi = 5.5 V or GND; Vcc = 0 ~ 5.5 V | - | ±1 | uA |
ICのデータシート(抜粋)
静的条件からのプルアップ抵抗の上限の決め方
まずはデータシートの静的電気的特性の情報から、プルアップ抵抗の上限を決めます。プルアップ抵抗の上限は、主にIC入力端子が確実にHighレベル(論理High)として認識されること、ノイズや外乱の影響を受けにくいことを基準に決めます。
基本的な考え方
-
1. ICの入力リーク電流を考慮する
ICのデータシートに記載されている最大入力リーク電流IIN(max)を確認します。 -
2. Highレベルのしきい値VIH(min)を満たすこと
入力端子が確実にHighと認識されるためには、プルアップ抵抗を通じて十分な電圧が入力端子にかかる必要があります。 -
3. 計算式
オームの法則を使い、次のように上限値を求めます。
Vcc:電源電圧
VIH(min):ICがHighと認識する最小電圧
IIN(max):最大入力リーク電流
計算例
例として、入力端子の電気的特性が「電源Vcc=5V、VIH(min)=0.7 x Vcc、IIN(max)= 1uA」の場合に必要なプルアップ抵抗を考えてみます。VIH(min)はHigh電圧閾値で、入力端子が確実にHighレベルを判定できる入力電圧です。Vcc電圧レンジによって特性が変わるため、Vcc電圧に応じた値を使用します。IIN(max)は最大入力リーク電流で、IC入力端子の内部構造により本来流れないはずの状態でも、わずかに流れてしまう電流です。 プルアップ抵抗が設置された入力端子に、IIN(max)の入力リーク電流が流れており、入力電圧がVIH(min)になるための抵抗値Rmaxを計算してみます。
計算結果より、プルアップの抵抗値を最大1.5MΩとすれば、ICは入力端子をHighと認識してくれることがわかります。
リーク電流とHighレベルしきい値からプルアップ抵抗値を求める
動的条件からのプルアップ抵抗の上限の決め方
IIN(max)と VIH(min)から求めたプルアップ抵抗の上限Rmax 1.5 MΩ は、あくまで静的条件で High
を判定できるための上限値です。しかし、実際の回路では入力端子には 入力容量Cin
が存在するため、信号の立ち上がりは緩やかになります。プルアップ抵抗の選定にあたっては、信号の立ち上がり時間を決める、入力容量Cinと組み合わせた RC
時定数(τ=R∙Cin)が重要な要素になります。
プルアップ抵抗を備えた入力端子の電圧は、スイッチがオープンされた瞬間にすぐ High になるわけではなく、RC 充電曲線に従ってゆっくりと上昇します。
この立ち上がりが遅すぎると、以下の問題が発生します。
- 信号の立ち上がりが緩やかになり、ICが論理値Highを判定するのに時間がかかる
- ノイズが乗りやすく誤判定の原因になる
- 高速信号ではタイミング不良を引き起こす
一般に、デジタル入力が安定して High と認識されるには 3〜5τ 程度 が必要とされます。多くのマイコンやロジック IC の入力容量は 5〜20 pF 程度です。
ここでは代表値として Cin = 10 pF を用いて、プルアップ抵抗値を1k~1MΩの範囲で変化させたときの信号の立ち上がり時間を計算します。
| 抵抗値 | 時定数 | |
|---|---|---|
| R | τ | 5τ (ほぼ安定) |
| 1 MΩ | 10 µs | 50 µs |
| 100 kΩ | 1 µs | 5 µs |
| 10 kΩ | 0.1 µs | 0.5 µs |
| 1 kΩ | 0.01 µs | 0.05 µs |
抵抗と時定数の関係
プルアップ抵抗が1 MΩ の場合、立ち上がりが 50 µs もかかり、ノイズの多い環境や高速信号では不安定になります。一方で、10 kΩ 程度であれば 0.5 µs
程度で安定し、多くの ECU やデジタル回路で十分な応答速度が得られます。
IIN(max)と VIH(min)から求めたプルアップ抵抗の上限Rmaxは1.5 MΩ でしたが、RC
時定数による立ち上がり時間を考慮すると、実務的には 10k〜100 kΩ
程度が上限になります。特にノイズが多い環境では、入力端子のインピーダンスを高くしすぎると外来ノイズの影響を受けやすくなるため、さらに余裕を見て1k〜10 kΩ 程度が選ばれることが多くなります。
プルアップ抵抗の下限の決め方
プルアップ抵抗の下限は、主にスイッチやICがON(Low)になったときに流れる電流が、ICやスイッチの許容値を超えないことを基準に決めます。
抵抗値が小さすぎると、スイッチON時に流れる電流が大きくなりすぎ、ICやスイッチ素子、さらにはプリント基板の配線定格を超えてしまう危険性があります。
基本的な考え方
-
1. ICやスイッチの許容電流を確認する
データシートで「最大入力電流」や「最大シンク電流」などの項目を確認します。 -
2. 最大電流から抵抗値の下限を計算する
オームの法則 を使い、以下の式で求めます。
計算例
例として、入力端子の電気的特性が「電源Vcc=5V、Imax= 5
mA」の場合に必要なプルアップ抵抗Rminを考えてみます。I
maxは端子許容電流で、IC入力端子に流し込むことができる最大の電流値でこれ以上流すとICが破損してしまう値です。
抵抗値Rminを計算してみます。
この場合、Rminを1kΩより小さい抵抗値にすると、スイッチON時に5mAを超える電流が流れてしまい、ICやスイッチの損傷リスクが高まります。 その他にも、プリント基板の配線の電流定格も考慮する必要があります。また、消費電力も増えるため、抵抗値が小さすぎると発熱や電力ロスの原因になります。
プルアップ抵抗は上限と下限の範囲内で設定する
プルアップ抵抗の値は、ICやスイッチの許容電流から求めた下限値と、入力リーク電流やHighレベルしきい値から求めた上限値、この2つの値の範囲内で設定することが重要です。
この範囲内であれば、回路の安定動作と安全性の両立が図れます。実際の値に落とし込む際は、システムの要求仕様と安全設計のトレードオフで決定します。
このように、プルアップ・プルダウン抵抗は大きすぎても小さすぎても安定動作しません。
実際の設計現場では、こうしたことを意識しながらデータシートを読み、
- ICの仕様(判定電圧・リーク電流・入力容量など)
- 回路の用途や動作環境(ノイズ源の有無、配線長など)
- 実験やシミュレーションによる検証
を総合的に考慮して抵抗値を選定することが大切です。
データシートの推奨値だけでなく、実際の回路動作や周辺環境も考慮し、最適な抵抗値を選びましょう。
まとめ
IC入力端子のプルアップ・プルダウン抵抗値の選定は、安定したECU設計の基礎です。
「なぜその値が必要なのか」「どんな場面で役立つのか」を理解し、理論と実践の両面から最適な値を選ぶことで、誤動作やノイズの影響を防ぎ、信頼性の高い回路設計が実現できます。
今後の設計業務や製品選定の際に、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。
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