私たちの身の回りにあるテレビやノートパソコンにはLCD(液晶ディスプレー)が使用されています。LCDはマイコンやメモリーのような半導体とは異なりさまざまな部品で構成されるいわばモジュール品です。それゆえにさまざまな品質トラブルが発生する扱いの難しい電子部品となります。本記事ではLCDの基礎技術を解説しつつ、実際にあった品質トラブル事例に触れていきたいと思います。
1. LCDとは
LCDとはLiquid Crystal Displayの略称で、「液晶パネル」あるいは単に「液晶」といった呼び方をします。
以下ではTN型液晶を例にLCDの基本的な動作原理を解説します。
LCDの動作原理
図のように細かい溝を掘った2枚の板で液晶分子を挟むと、溝の方向に沿うように液晶分子が綺麗に並びます。溝は上下の板同士で直行するように90度向きを変えており、それにより板の上側/下側で液晶分子の向きも90度ねじれた状態で並びます。正確にはガラス板に「配向膜」と呼ばれる透明な膜が貼り付けてあり、この膜に溝が彫られています。

図1. 液晶分子の挙動
液晶分子は電圧を加えることで並び方が変わる性質を持ちます。
電圧を加えることで配向膜の溝に沿って並んでいた液晶分子が垂直に立ち上がり同じ方向に揃います。
ガラスにはX方向/Y方向の透明電極が直交するように配置されており、交点にスイッチとなるTFTが配置されています。
このTFTのON/OFFを切り替えることで液晶分子への電圧印可を行っています。
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図2. X/Y電極とTFT構造図(断面)
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図3. X/Y電極とTFT構造図(正面)
LCDを構成する上で欠かせない部品の1つとして偏光板があります。
偏光板とは一定方向の光のみを通過させるシャッターのような役割を持った部品です。偏光板には細かいスリットが並んでおり、一定方向の光のみがスリットを通過することができ、それ以外の方向の光は偏光板を通過できません。

図4. 偏光板の原理
ここまで説明した原理を応用することでLCDは点灯・消灯を切り替えています。
まず、1枚目の偏光板を通った光は一定方向の光のみが液晶層に到達します。光は液晶分子の隙間を通過するため、TFT OFFの場合は液晶分子に沿って光も90度ひねられて通過し、人間の目にも光が届きます。一方で、TFT ONの場合は液晶分子が垂直に立ち上がり一定方向を向いているため、偏光板を通過してきた光は向きを変えずにそのまま液晶層を通過して2枚目の偏光板に到達します。この光は偏光板の吸収軸と同じ方向の光のため、偏光板を通過できず人間の目には光が届きません。

図5. LCDの動作原理
LCDの基本構造
LCDを分解するとおおまかに図6のような構造となっています。LCDにはLEDを使ったバックライトユニットが内蔵されており、拡散板や光学フィルムなどと組み合わせることでバックライト光をセル背面に対して均一に照射させています。
バックライトユニットには白色LEDを使用するため、バックライト光自体に色は付いていません。そのため、図7のようにフィルターと呼ばれる赤、緑、青色のレジストが付いたフィルターを通してバックライト光を見ることで人間の目には色が付いて見えるようになります。

図6. LCD分解図

図7. セル断面図
2. LCDの不具合事例
LCDはさまざまな半導体や光学部品を使用しているため、不良率がひときわ高く不具合原因も多岐に渡る電子部品になります。ここではLCDでよく話題に上がる不具合事例3点をご紹介致します。
- 焼き付き
- 輝点/滅点
- 縦線(Vライン)/横線(Hライン)
「焼き付き」とは
お客様から「焼き付き」という症状についてお問い合わせを頂くことがあります。焼き付きとはLCDに長時間同じ映像を表示し続けた際に、表示画面がそのまま残り続け画面を消しても表示が消えなくなる症状のことを指します。

図8. 焼き付きのイメージ図
前項で説明した通り、LCDは液晶分子に電圧を加えて向きを変えることで光の透過/遮断を制御しています。
しかし、同じ映像を長時間表示し続けると液晶層の中で寄生容量の増加を引き起こし、帯電した直流電圧は液晶分子の向きを制御する際の妨げとなります。これにより液晶分子が本来あるべき角度に調整できず、表示がOFFにできなくなることで焼き付きが発生します。軽度の焼き付きであればしばらく電源をOFFにすることで解消することもありますが、重度の場合は電源をOFFしても解消しないケースもあります。
そのため、アプリケーションの設計段階から焼き付きの防止策をメーカー様で検討頂くことも重要となります。ユーザー側に連続使用時は一定時間電源をOFFにして貰ったり、LCDを使用しない時は動画を流すといった方法が典型的な対策になります。身近な例では、パソコンのアニメーション付きスクリーンセーバーが焼き付きを防ぐ役割も担っています。
「輝点/滅点」とは
LCDの画素のことをピクセルとも呼びます。1ピクセルは赤/緑/青のサブピクセルで構成されており、カラーフィルター内にはサブピクセルが規則正しく並んでいます。LCDはこのサブピクセル毎にTFTをON/OFFすることで色を表現しています。
これらピクセルには輝点/滅点と呼ばれる異常点灯をするものが含まれていることがあります。常時点灯している点を輝点、光らない点を滅点と呼びます。これらはLCDの前工程においてガラス内に残留した異物などによってTFTのスイッチングが正常に行えなくなることが原因で発生します。
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図9. ピクセルイメージ図
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図10. 顕微鏡で見た実際のピクセル
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図11. 輝点が発生したパネル
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図12. 滅点が発生したパネル
製造工程における異物やゴミを完全に無くすことは不可能なため、輝点/滅点も完全に無くすことは困難です。
そのためLCDメーカー各社は検査基準を設けており、「輝点/滅点が〇個以下なら良品判定とする」といった方針を取ることが多いです。また、輝点/滅点と言っても大きさがさまざまなため、大きさについても基準を設けており非常に小さいものは数にカウントしないといった定義にしているメーカーもあります。
輝点/滅点は使用されるアプリケーションによっても目立ちやすさが変わってきます。
医療ドラマなどで黒い画面に映った心電図を見たことがあると思いますが、表示するUIが全体的に黒い画面のアプリケーションだと輝点も目立ちやすくなります。そのため、黒画面を表示することが多いアプリケーションにおいては極力輝点の少ないLCDをご要求頂くといったこともあります。
ただし、前述した通り輝点/滅点を無くすことはできないため、LCDメーカーが発行する検査基準書をよく確認して、輝点/滅点の定義がどうなっているかユーザー側で確認頂くことも大切です。
「縦線(Vライン)/横線(Hライン)」とは
画面の縦あるいは横に線が表示される症状がありますが、こうした異常表示を縦線(Vライン,Verticalライン)/横線(Hライン, Horizontalライン)と呼びます。画像のように1本だけ異常表示となるケースや、太い帯のような表示異常になるケースもあります。これらは症状としては似ていますが原因は大きく異なってきます。

図13. 画面下部に横線が発生したパネル
縦線(ソース線)/横線(ゲート線)を駆動しているのはそれぞれソースドライバーIC/ゲートドライバーICとなります。
そのため、仮に横線が発生した場合はゲートドライバーICの端子やそこに繋がる配線箇所などに何らかの異常が発生している可能性が高いです。一方で縦線が発生した場合は、ソースドライバーICやそこに繋がる配線箇所から疑うことが多いです。

図14. ソースドライバーIC/ゲートドライバーIC
ただし、冒頭に述べた通り、同じ横線でも1本線のケースと帯のように太い線が出ているケースでは状態が異なります。太い帯のような線が見えている場合、複数のゲート線にまたがる形で異常が発生していることになるため、製造時のゲートIC圧着が不十分だったり汚れなどが複数端子に跨って付着していたりする可能性があります。
逆に横線が1本だけ見えている場合、特定の端子部分のみに汚れなどがピンポイントで付着するケースはドライバーICの端子ピッチなどを考慮すると考えにくいです。そのため、LCD製造時に配線を断線してしまっていたりといったケースなどがあり得ます。
3. まとめ
LCDは、液晶材・偏光板・バックライトなどで構成された精密なモジュール製品です。
その性質上、焼き付き・輝点/滅点・縦線/横線など、さまざまな品質トラブルが発生する可能性があります。本コラムでは、液晶の基本構造から品質トラブル事例までを解説しましたが、同じ症状の品質トラブルでも原因は全く異なることもあるため、LCDの構造や原理を正しく理解することが重要となります。
弊社では豊富なLCDラインナップを取り揃えておりますので、LCDの選定や品質課題でお困りの際はぜひ弊社までお気軽にお問い合わせください。
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