はじめに
電気回路設計において、音や光など人間が感じる情報は「アナログ」ですが、マイコンなどの制御機器は「デジタル」情報しか扱えません。
このギャップを埋める技術を理解することで、より高品質な製品設計が可能になります。
この「アナログ」と「デジタル」の橋渡し役となるのが、以下の2つのコンバーターです。
- ADコンバーター:アナログ情報をデジタル情報に変換
- DAコンバーター:デジタル情報をアナログ情報に変換
今回は、この中でDAコンバーターにフォーカスして、主要なSPEC(仕様項目)について解説します。
主要SPECについて
SPECの種類
SPEC(仕様項目)は大きく2種類に分けられます。各々代表的な項目を記載します。
静的誤差
(Static Error)
主にDC特性(直流的な特性)に関係し、理想的な出力値とのズレを示します。
- 分解能(Resolution) : どれだけ細かくアナログ値を表現できるか
- オフセット誤差 (Offset Error) : 理想的なゼロ入力でゼロ出力にならないズレ
- ゲイン誤差 (Gain Error) : 全体のスケール(傾き)が理想値と異なるズレ
- 積分非線形性 (INL) : ある範囲でのコード値と出力値のズレ
- 微分非線形性 (DNL) : 隣接するコード間の出力電圧ステップのズレ
動的誤差
(Dynamic Error)
主にAC特性(時間的に変化する信号への追従性)に関係します。
- セトリング時間(Settling Time) : 出力が新しい値に切り替わった後、一定の誤差範囲内に収束するまでの時間
- グリッチ(Glitche) : デジタルコードを切り替える瞬間に発生する一時的なノイズやスパイク
- 高調波歪 (Harmonic Distortion) : 信号に不要な倍音成分が混じること
- ノイズ (Noise) : ランダムな電気的雑音
各項目について、詳細を説明していきます。
静的誤差 (Static Error)詳細説明
分解能(Resolution)
どれだけ細かくアナログ値を表現できるかは、「分解能」という指標で決まります。分解能が高いほど、出力を細かく調整できる能力が高くなります。
下の図は、分解能が2ビットと3ビットの場合の入出力特性を示しています。理想的には、入力と出力が赤線のように一直線で比例するのが望ましいですが、実際には青線のように、分解能によって表現できる入力デジタル・コード数に応じて階段状の特性になります。
この階段の最小ステップ(緑の矢印)が「1LSB」と呼ばれます。原理的に、赤い理想線に対して1LSB/2分だけ出力アナログ値に誤差が必ず発生します(黄の矢印)。この誤差を「量子化誤差」と呼びます。
量子化誤差は分解能を上げるほど小さくなりますが、分解能が高くなるとコストが上がったり、データ通信量が増えたりするデメリットもあります。そのため、用途に応じてバランスを考え、最適な分解能を選ぶことが重要です。
オフセット誤差 (Offset Error)
入力デジタル・コードが「0」の場合、本来は出力アナログ電圧も0Vになるべきですが、実際にはわずかな電圧(正または負)が出力されることがあります。このズレを「オフセット誤差」と呼びます。
オフセット誤差は、入力デジタル・コードの値に関係なく一律に加わるため、誤差の量が分かれば、入力デジタル・コードをその分だけ逆方向にずらすことで、比較的簡単に補正することができます。
ゲイン誤差 (Gain Error)
入出力の比例関係は変わりませんが、出力の傾き(増え方や減り方)が理想と異なる場合、これを「ゲイン誤差」と呼びます。
オフセット誤差と違い、ゲイン誤差は入力デジタル・コードの値によって誤差の大きさが変化します。そのため、補正する場合は複数のポイントで実際の出力値を測定し、理想の直線との傾きの違いを求めて補正する必要があります。
微分非線形性 (DNL)
DNL(微分非線形性)は、隣り合うデジタル・コード間の出力ステップ幅が、理想的な1LSB(最小ステップ幅)からどれだけズレているかを示す指標です。イメージとしては、階段の段差がすべて同じ高さになっているかどうかを確認するようなものです。
オフセット誤差と違い、DNLはデジタル・コードごとにランダムに発生するため、簡単に補正することはできません。
通常は、入力デジタル・コードが1つ増えるごとに出力アナログ電圧も一定量ずつ上昇します。しかし、DNL誤差が1LSB以上ある場合、入力デジタル・コードを1LSB変化させても出力アナログ電圧が変化しない、または逆に下がってしまうことがあります。これを「ミッシングコード」と呼びます。
ミッシングコードが発生すると、その部分の出力電圧の変化が信頼できなくなります。
冒頭で「分解能」がアナログ出力の性能を決めると説明しましたが、例えば分解能が14ビットでもDNL誤差が3ビット分ある場合と、分解能が12ビットでDNL誤差が1ビット未満の場合では、後者の方が実質的なアナログ出力の性能は高くなります。
このように、分解能と同じくらいDNLも重要なSPEC(仕様項目)です。
積分非線形性 (INL)
INL(積分非線形性)は、出力アナログ電圧が理想的な直線(基準線)からどれだけ離れているかを示す指標です。イメージとしては、階段全体がまっすぐな直線に沿っているかどうかを確認するものです(図7参照)。
ゲイン誤差と違い、INLはデジタル・コードごとに傾きが変わるため、簡単に補正することはできません。
動的誤差 (Dynamic Error)
セトリング時間(Settling Time)
セトリング時間とは、DACの出力が新しいデジタル・コード値に切り替わったあと、出力アナログ電圧が目標の値(所定の電圧)に安定して収まるまでにかかる時間のことです。
このセトリング時間は、入力デジタル・コードの変化量が大きいほど長くなります。たとえば、4ビットの最小値(0000)から最大値(1111)まで一気に変化させた場合が、最も厳しい条件になります。
サンプリング周期(測定の間隔)に余裕がある場合は、十分に待ってから安定した出力電圧を測定すれば問題ありません。しかし、高速でサンプリングする必要がある場合は、セトリング時間が短い「電流出力型DAC」など、応答性の高い方式を選ぶことが重要です。
グリッチ(Glitch)
グリッチとは、DACのデジタルコードが切り替わる瞬間に発生する、短時間のスパイク状の誤差電圧のことです。
特に、入力デジタル・コードの最上位ビット(MSB)が切り替わるときには、2進数のすべてのビットが0→1や1→0に一斉に変化します。このとき、DAコンバーター内部の複数のスイッチが同時に切り替わりますが、スイッチごとに切り替わるタイミングにわずかなズレが生じるため、グリッチが発生します。
グリッチを抑える方法としては、出力にアナログのローパスフィルタ(LPF)を追加してノイズ成分を減らす方法があります。また、DAコンバーター内部でMSBが切り替わる際に、入力デジタル・コードがすべて反転しないように工夫された製品もあります。
高調波歪 (Harmonic Distortion)
DAコンバーターに正弦波(サイン波)を入力した場合、本来はその周波数だけが出力されるべきですが、実際には入力周波数の2倍、3倍、4倍…といった余分な周波数成分も出力されてしまうことがあります。この余分な成分を「高調波歪(こうちょうはひずみ)」と呼びます。高調波歪は、DAコンバーター回路内部の非線形性が原因で発生し、静的特性で説明したDNLやINLとも関係が深いです。
高調波歪の大きさを表す指標として、「THD(Total Harmonic Distortion:全高調波歪率)」があります。THDは、基本となる周波数(基本波)に対して、どれくらい高調波が含まれているかを示します。特に音質に影響するため、オーディオ用のDAコンバーターでは重要な項目です。
また、似たような指標に「SFDR(Spurious Free Dynamic Range)」があります。THDが基本波と高調波の比率を示すのに対し、SFDRは基本波と、基本波以外で最も大きい不要な周波数成分との比率を示します。SFDRは高調波だけでなく、その他の不要な信号成分も含めて評価するため、通信向けのDACなどで重視されます。
ノイズスペクトル密度(NSD)
DAコンバーターのアナログ出力に含まれるランダムノイズの周波数分布を表す指標として、「ノイズスペクトル密度」があります。一般的には、電圧スペクトル密度として「V/√Hz」という単位で示されます。
このノイズスペクトルは、いくつかの要因が組み合わさって形成されます。
- 熱雑音(サーマルノイズ):抵抗器などの受動部品や半導体の接合部で発生する、基本的なノイズです。
- 量子化ノイズ:デジタル信号を限られたビット数で表現する際に生じる、丸め誤差に起因するノイズです。
- 1/fノイズ(フリッカーノイズ):低い周波数で目立つノイズで、周波数が低いほどノイズパワーが大きくなります。
- クロックジッタ:サンプリングクロックのタイミングが揺らぐことで発生するノイズで、特に高周波数の出力信号で影響が大きくなります。
- 電源/GNDノイズ:電源やGNDラインを通じて外部から混入するノイズです。
さいごに
以上、DAコンバーターの主要SPECについて解説しました。
各仕様項目を正しく理解し、用途に応じて最適な製品選定・設計を行うことで、電気回路設計の品質向上やトラブル防止につながります。
さらに詳しい技術情報や関連製品については、下記の関連コラムやお問い合わせフォームをご活用ください。
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