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技術コラム
大電流DCDC技術コラム

大電流DCDCコンバーターの課題と解決策

目次

近年、SoC、CPU、GPU、FPGAなどの進化により、アプリケーションの高性能化が急速に進んでいます。
それに伴い、電源(DCDCコンバーター)に求められる電流供給能力も大幅に増加しています。このような大電流化により、以下のような課題が顕在化しています。

  • 部品の大型化による実装面積の増加
  • ノイズの増加
  • 発熱による熱設計の複雑化

本コラムでは、これらの課題に対する具体的な解決策についてご紹介します。

1. マルチフェーズ方式

課題解決策の一つとして、出力を並列接続で結合する「マルチフェーズ方式」があります。
図1および図2に、降圧DCDCコンバーターのシングルフェーズ方式とマルチフェーズ方式の例を示します。

図1 降圧シングルフェーズ方式

図2 降圧マルチフェーズ方式

マルチフェーズ方式では、各出力のスイッチングのフェーズ(位相)をずらして動作させます。
例:2フェーズ:180°、3フェーズ:120°、4フェーズ:90°、6フェーズ:60°、8フェーズ:45°、12フェーズ:30°
2フェーズおよび4フェーズのスイッチング波形を図3、図4に示します。

図3 2フェーズ動作

図4 4フェーズ動作

シングルフェーズ方式の課題

大電流DCDCコンバーターをシングルフェーズ方式で構成した場合、以下の課題が生じます。

部品の大型化

電流増加に伴い、インダクタやFETも定格の大きい製品となり、サイズが大きくなります。
これにより実装面積が増加し、重量増によるマウンタの制限や筐体の高さ制限、振動対策の必要性も発生します。

ノイズの増大

入力リップル電流の増加によりノイズが増大し、入力コンデンサーやフィルターの複雑化、放射ノイズ対策のコスト増加につながります。

発熱の増加

インダクタのDCRやFETのオン抵抗による損失は電流の2乗に比例するため、大電流時には発熱が大きくなり、ヒートシンクの大型化や強制冷却などの熱対策が必要となります。

マルチフェーズ方式のメリット

マルチフェーズ方式による主なメリットは以下の通りです。

出力リップル電圧の低減

図3に示す2フェーズ動作波形のように、インダクタ電流IL1とIL2を合算した出力リップル電流は、各出力のスイッチング周波数の2倍となります。このように、マルチフェーズでは出力リップル電流の周波数を「各出力のスイッチング周波数 × フェーズ数」に高めることができ、結果として出力リップル電流を減少させることが可能です。出力リップル電流が減少することで、出力リップル電圧も低減し、出力コンデンサーの小型化が可能となります。
また、出力リップル電流の減少によりインダクタンス値を下げることができ、小型のインダクタを選択することも容易になります。
さらに、インダクタンス値が下がることで出力電流のスルーレートが向上し、負荷過渡応答の改善にもつながります。
加えて、出力リップル電流はデューティ比(降圧回路の場合はVout/Vinに近似)にも影響を受けます。出力リップル電流とデューティ比の関係は図5に示されています。フェーズ数とデューティ比によっては、出力リップル電流がゼロになる場合もあります。したがって、入力電圧と出力電圧が比較的一定の場合、最適なフェーズ数を選択することで出力リップル電圧を最小化することが可能です。

図5 出力リップル電流 vsデューティ比
(引用:アナログ・デバイセズ AN77)

入力リップル電流の低減

図6に示すように、降圧DCDCコンバーターの入力電流は不連続となり、大電流DCDCコンバータではこの入力リップル電流が大きなノイズ源(伝導ノイズ)となります。
2フェーズ構成時の入力リップル電流は図7に示しています。マルチフェーズ方式を採用することで、入力リップル電流の周波数はフェーズ数倍となり、電流値も減少します。これによりノイズを低減でき、入力フィルターの設計も容易になります。
リップル電流の減少は、部品の小型化や数量削減、さらにコンデンサーのESRによる損失低減にもつながり、結果として部品寿命の延長が可能となります。

図6 降圧DCDCコンバータ 入力電流(シングルフェーズ動作)

図7 降圧DCDCコンバータ 入力電流(2フェーズ動作)

また、出力リップル電流と同様に、マルチフェーズ方式の入力リップル電流もデューティ比と関係があり、その関係を図8に示します。入力電圧と出力電圧によって最適なフェーズ数が存在し、この最適なフェーズ数は出力リップル電流の場合と同様です。入力電圧と出力電圧が比較的一定の場合、最適なフェーズ数を選択することで入力リップル電流も最小化できます。

図8 RMS入力リップル電流 vs デューティ比
(引用:アナログ・デバイセズ AN77)

発熱低減、部品小型化

複数のフェーズに電流を分担することで、1フェーズあたりの電流が減少します。その結果、インダクタのDCRやFETのオン抵抗による損失を低減することが可能です。さらに、部品の定格電流の要求値も下がるため、小型かつ低背なインダクタやFETの採用が可能となります。

マルチフェーズ方式対応製品例

アナログ・デバイセズ社では、マルチフェーズ方式に対応した製品を多数ラインナップしています(表1参照)

 トポロジー入力電圧出力数周波数FETPKGAEC-Q100備考
MAX20404/5/6降圧同期整流3~36V1400kHz/2.1MHz/3MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=4A/5A/6A)
17or15pin FC2QFN 
MAX20408/10降圧同期整流3~36V1400kHz/2.1MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=8A/10A)
17or15pin FC2QFNMAX20404/5/6とピンコンパチ
MAX40429降圧同期整流3~5.5V22.1MHz/3.2MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=6A/6A)
18pin FCQFN 
MAX25254/5降圧同期整流3~36V2400kHz/2MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=8A/8A)
23pin FC2QFNASIL-B対応(MAX25255)
LTC7805降圧同期整流4.5~40V2100kHz~3MHz
(スペクトラム拡散)
×28pin QFN100%Duty可能
LTC7890降圧同期整流4~100V2100kHz~3MHz
(スペクトラム拡散)
×40pin QFN×GaN向け
LTC7871降圧同期整流
(双方向)
4~100V660kHz~750kHz
(スペクトラム拡散)
×64pin LQFNゲートドライバ必要
LTC7872降圧同期整流
(双方向)
4~100V460kHz~750kHz
(スペクトラム拡散)
×48pin LQFN 
LTC8277昇圧非同期整流4~40V1
(2phase)
100kHz~2MHz
(スペクトラム拡散)
×20pin QFN 
LTC7806昇圧同期整流4.5~40V1
(2phase)
100kHz~3MHz
(スペクトラム拡散)
×28pin QFNパススルー動作(100%Duty)

表1 マルチフェーズ方式対応製品

MAX20404/5/6およびMAX20408/10は、スイッチングのタイミングから180°位相がずらした出力を行うSYNCOUT端子を備えています。
図9のように、CONTROLLER側ICのSYNCOUT端子とTARGET側のSYNC端子を接続することで、2フェーズ動作が可能となります。(VEA端子やOUT端子も接続します)
また、マルチフェーズ発振器※を使用することで、2フェーズ以外のマルチフェーズ動作も実現できます。
このほかにも、ASIL-Bに対応したMAX25254/5、ドロップアウト電圧を低減できる100%Duty対応のLTC7805、GaN対応コントローラーのLTC7890、双方向動作が可能なLTC7821/2など、昇圧・昇降圧を含む多様なマルチフェーズに対応した製品ラインナップが揃っています。

図9 MAX20404/5/6、MAX20408/10 2フェーズ接続

※マルチフェーズ発振器
ノイズピークを低減できるスペクトラム拡散機能を搭載したマルチフェーズ発振器として、LTC6908(2フェーズ)、LTC6902(4フェーズ)、LTC6909(8フェーズ)などがあります。
スペクトラム拡散機能の効果については、以下のリンクもご参照ください。

2. サイレント・スイッチャ(Silent Switcher)

負荷電流が増加すると、ノイズ(EMI)や発熱といった問題が顕在化します。
これらの課題を解決する技術として「サイレント・スイッチャ」があります。サイレント・スイッチャは、その名の通り非常に静か(超低EMI性能)で高効率なスイッチング・レギュレータです。初代製品は2013年に登場し、現在(2025年)では第3世代まで進化しています。

図10 Silent Switcher

サイレント・スイッチャ1

図11に示す降圧同期整流型DCDCコンバーターの回路構成では、赤枠で囲まれたdi/dtの大きなループ(ホット・ループ)がEMIの主な発生源となります。EMIを低減するには、このホット・ループの面積を最小化する必要がありますが、基板設計にはさまざまな制約があるため、最適な妥協案を検討することが求められます。
サイレント・スイッチャでは、図12のようにホット・ループを2つの小さなループに分割することで磁界をキャンセルし、EMIを抑制します。
また、銅ピラー構造のフリップチップ・パッケージを採用することで寄生インダクタンスを削減しています。
さらに、ハイサイド・スイッチとローサイド・スイッチの両方がオフになる「デッド・タイム」を短縮することで、デッド・タイム中に順方向となるローサイド・スイッチのボディー・ダイオードによる損失を低減し、大電流でも高効率を維持します。

図11 降圧同期整流DCDC

図12 サイレント・スイッチャ ホット・ループ

サイレント・スイッチャ2

第2世代では、パッケージング技術の進化によりEMIをさらに低減しました。
入力コンデンサーをパッケージ内に内蔵することでホット・ループを最小化し、EMIを効果的に抑制しています。
また、外付け部品の削減により実装面積の小型化を実現し、基板レイアウトの巧拙に対する依存性も排除しました。

サイレント・スイッチャ3

第3世代では、LF帯域(10Hz~100kHz)のノイズ低減と高速過渡応答を実現しました。
ノイズに敏感なアプリケーションでも、LDOを使用せずにサイレント・スイッチャ3単体で電源構成が可能です。
サイレント・スイッチャ3は、リニア・レギュレータ「LT3045」の電流リファレンス回路を応用し、図13のようにエラーアンプをユニティゲイン・アンプ(増幅率1倍)で構成することで、リファレンスに発生するノイズを増幅せず、大幅なノイズ低減を実現しています。

図13 LT8625ブロック図

サイレント・スイッチャ製品

アナログ・デバイセズでは、サイレント・スイッチャ技術を採用した多くの製品を取り揃えており、その一部を表2に紹介しています。

 トポロジーSilent Switcher入力電圧出力数周波数FETPKGAEC-Q100
LT83205降圧同期整流32.8~18V1300kHz~6MHz
(Iout=5A)
15pin LFCSP×
LT8627SP降圧同期整流32.8~18V1300kHz~4MHz
(Iout=16A)
24pin LQFN×
LT8625SP降圧同期整流32.7~18V1300kHz~4MHz
(Iout=8A)
24pin LQFN×
LT7200S降圧同期整流22.9~18V4400kHz~3MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=5A/5A)
48pin LQFN
LT8648S降圧同期整流23~42V1200kHz~2.2MHz
(スペクトラム拡散)

(Iout=15A)
36pin LQFN
LT7150S降圧同期整流23.1~20V1400kHz~3MHz
(Iout=20A)
42pin BGA
LTC3311S降圧同期整流22.25~5V1500kHz~5MHz
(Iout=12.5A)
18pin LQFN
LT8652S降圧同期整流23~18V2300kHz~3MHz
(Iout=8.5A/8.5A)
36pin LQFN
LTC3313降圧同期整流12.25~5V1500kHz~5MHz
(Iout=15A)
18pin LQFN
LT8640A降圧同期整流13.4~42V1200kHz~3MHz
(Iout=5A)
18pin LQFN

表2 サイレント・スイッチャ製品

3. スイッチド・キャパシタ(チャージポンプ)

大電流環境では、発熱が大きな課題となります。
その解決策として、高効率なスイッチド・キャパシタ(チャージポンプ)を紹介します。
スイッチド・キャパシタはインダクタを必要としないという大きな利点がありますが、従来は小電力アプリケーション(アンプの両電源やセンサーの電源など)に限定されていました。
アナログ・デバイセズでは、大電流にも対応可能な高効率スイッチド・キャパシタ製品を提供しています。

  • LTC7820:図14に示すように、効率ピークが99%を超える非常に高効率な固定倍率スイッチド・キャパシタDC/DCコントローラー(外付けFET)です。
  • LTC7825:FETを内蔵し、最大12Aまで対応可能なスイッチド・キャパシタDC/DCコンバーターです。
  • LTC7821 / LTC7822:スイッチド・キャパシタとDC/DCコントローラを組み合わせた定電圧出力のハイブリッド降圧同期コントローラーです。図15にLTC7822の効率を示します。

図14 LTC7820効率
(48V入力、24V出力、スイッチング周波数200kHz)

図15 LTC7822効率
(48V入力、12V出力、スイッチング周波数150kHz)

 トポロジー入力電圧出力数周波数FETPKG備考
LTC7820降圧/昇圧/反転
スイッチド・キャパシタ
6~72V1100kHz~1MHz×28pin QFN降圧比=2:1、昇圧比=1:2
反転比=1:1
LTC7821降圧
ハイブリッド同期整流
10~72V1200kHz~1.5MHz×32pin QFN出力電圧設定可能
LTC7822降圧
ハイブリッド同期整流
19~90V2150kHz~1.5MHz×48pin QFN出力電圧設定可能
LTC7825降圧
スイッチド・キャパシタ
4.5~38V1100kHz~1.4MHz
(Iout=12A)
48pin LQFN入出力電圧比 2:1

表3 スイッチド・キャパシタ製品

まとめ

本コラムでは、大電流対応DC/DCコンバーターにおける主要な課題(部品の大型化、ノイズ、発熱)に対して、以下の3つの技術的解決策をご紹介しました。

1. マルチフェーズ方式
2. サイレント・スイッチャ
3. スイッチド・キャパシタ(チャージポンプ)

それぞれの技術は、用途や要求仕様に応じて最適な電源設計を実現するための有力な選択肢となります。
ぜひ、設計検討の際に本コラムの内容を参考にしていただき、より高性能かつ信頼性の高い電源システムの構築にお役立てください。

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