エフェメリスデータ
GPSにおける時限タイマーデータ
現在、皆さんも利用されているスマートフォンにも搭載されているGPS(Global Positioning
System)は、単なる位置測定にとどまらず、精密な時刻同期やタイミング制御にも活用されています。そんな中、機能:GPSの正確な位置や時刻を算出するための鍵となるデータがあります。
本技術コラムでは、GPSにおける時限タイマーデータの役割や構造、そしてそれがどのようにして高精度な測位を支えているのかについて、技術的な観点から解説します。

GPSとエフェメリスデータの役割
GNSS(Global Navigation Satellite System)の基本構造
GNSSとは、「Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)」の略で、全世界で運用されている測位衛星システムの総称です。
一般的には、USAのGPS(Global
Positioning System)が有名ですが、他国でもさまざまな衛星が運用されています。

エフェメリスデータとは何か?(衛星の軌道情報とクロック補正値)
エフェメリス(Ephemeris)データとは、GPS衛星の正確な位置(軌道情報)や衛星時計の補正値(クロック補正値)を含む重要な情報です。
GPS衛星から受信する航法メッセージの一部にあたり、受信機はこのエフェメリスデータを利用して、衛星からの信号到達時間を基に自位置を計算します。

軌道情報(Orbit Parameters)
各衛星の位置を時間の関数として表すための軌道要素や補正パラメーターを含みます。
これにより、受信機は任意の時刻における衛星の座標を計算可能です。
自位置における各衛星配置・起動情報は、スマートフォンアプリ”GNSS
View”を使用することで簡単に確認できます。
クロック補正値(Clock Correction)
衛星搭載の原子時計は高精度ですが、わずかな誤差が累積します。
エフェメリスには、この誤差を補正するための係数(バイアス、ドリフトなど)が含まれています。
エフェメリスデータ:2時間の有効期限が意味すること
受信機がエフェメリスを使って位置を算出する仕組み
位置を算出する仕組みのポイントは、大きく3つあります。
基本原理:測位のための三辺測量
GPS測位は、複数の衛星からの信号到達時間を測定し、距離を計算することで行います。
この距離を「擬似距離(Pseudo Range)」と呼び、少なくとも4つの衛星が必要です(3D測位+時計補正)。
エフェメリスデータの役割
エフェメリスデータは、各衛星の正確な位置(軌道情報)と衛星時計の補正値(クロック補正値)を含みます。
受信機はこれを使って、信号送信時刻における衛星の座標を計算します。
- 軌道情報:6つの軌道要素+補正パラメーターで、衛星の位置を時間の関数として求める。
- クロック補正値:衛星時計の誤差を補正するための係数。
位置算出のための情報基本流れ・処理ステップ
4機以上のGPS衛星の測位信号受信。
ステップ①:受信機内蔵時計に基づき各GPS衛星までの距離を測定。
ステップ②:航法メッセージ作成・エフェメリスデータ抽出。
ステップ③:GPS衛星の原子時計の誤差情報を抽出。
ステップ④:測定距離に、衛星時計誤差の補正+各GPS衛星の位置を算出。
ステップ⑤:位置(緯度・経度・高度)算出・決定。
ステップ⑥:時刻算出・決定。

エフェメリスデータ:有効期限切れによる影響
エフェメリスデータの有効期限切れによる影響
影響としては、大きく2つあります。
位置精度の低下
原因:エフェメリスは衛星の軌道とクロック補正値を短期間(通常2時間)有効とするデータです。期限切れになると、衛星の位置計算に誤差が生じます。
影響:
- 数メートルの誤差が、数十メートル以上に拡大する可能性があります。
- 特に高速移動中や精密測位(測量、農業、ドローン)では致命的な誤差になります。
衛星配置再取得の遅延(TTFFの増加)
原因:古いエフェメリスでは正しい衛星位置を予測できないため、受信機は再度ナビゲーションメッセージを
受信して最新のエフェメリスを取得する必要があります。
影響:
- 最初の位置情報(Fix)の算出:Time To First Fix(TTFF)が大幅に増加(数秒→30秒以上)。
- A-GPSやセルフエフェメリスを使わない場合、再取得に1分以上かかることもあります。
まとめ
2時間の有効期限がもたらす設計上の制約と工夫
いままで説明の通り、最新のエフェメリスデータを使用することで、測位精度を担保できます。
ただし受信機が最新のエフェメリスデータを利用できない場合、その動作はメーカーごとに異なります。
例えば受信機によっては、既存のエフェメリスデータから最新データを算出する機能を備えている場合もあります。
この機能を利用すると受信機の演算精度や消費電力が増加するため、顧客システムでの利用可否を慎重に検討する必要があります。
そのため、受信機メーカーごとの設計方針や各種条件下での測位仕様を事前に確認することを推奨します。
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