はじめに
アイソレータとは電子回路内の入力信号と出力信号の間を物理的に絶縁するものになります。絶縁された入出力間を信号伝達させる電子部品として、古くからフォトカプラが使われてきました。計装機器や産業用制御機器、医療機器、さらには電気自動車やハイブリッド車などの高度な電子システムに広く活用されています。
しかしながら、フォトカプラは発光素子を使用しており伝達特性が劣化するため、寿命計算が必要になったり、発光素子に流す電流が大きく、省電力化できない、多チャンネルの集積が難しくサイズが大きくなるなど、課題がありました。
その課題を克服したデジタルアイソレータが誕生し、従来から使用されているフォトカプラからの置き換えが進んでおります。その中で、今回紹介させて頂くアナログ・デバイセズ社のデジタルアイソレータ「iCoupler」は2001年の発売から累計で50億チャンネル以上の販売実績(2022年時点)ある製品で、特長や使い方などを説明させて頂きます。
特徴
フォトカプラと比較したiCouplerの利点
低消費電力
フォトカプラは光を使って絶縁するため比較的多くの電力を消費しますが、iCouplerは磁気結合を用いることで消費電力を大幅に削減できます。
高速データ伝送
フォトカプラの伝送速度は高速な製品でも50Mbps程度が限界ですが、iCouplerは標準的な製品で150Mbpsもの速度があり、LVDS通信向けのものでは2.5
Gbpsという非常に高速な製品までラインナップがあります。
経年劣化が少ない
フォトカプラは1次側のLEDの劣化により電流の低下によって最悪通信不良になりますが、iCouplerは磁気絶縁方式のため、長期的な信頼性が高く、性能劣化がほとんどありません。
高いCMTI(コモンモード過渡耐性)
ノイズ耐性が高く、産業機器や医療機器などノイズ環境が厳しい場面でも安定した動作が可能です。世代を重ねるごとに改良されており、2025年時点での最新世代ではCMTI:180kV/µsと非常に高性能となっております。
小型・高集積化が可能
iCouplerは複数チャンネルを1つのパッケージに集積できるため、基板設計が簡素化され、部品点数も削減できます。
温度特性・耐圧・サージ耐性に優れる
高い信頼性が得られるため、車載・産業・医療など、品質に厳しい分野でも採用が進んでいます。
iCouplerの構造
iCouplerは、フォトカプラのように光を使うのではなく、チップスケール・トランス(変圧器)を用いた磁気結合方式で絶縁を実現しています。
主な構成要素
平面トランス構造
CMOS金属層と金層で構成される平面トランスが、ウェーハ表面処理によってチップ上に直接形成されます。
絶縁層
高絶縁破壊電圧を持つポリイミド層が、トランスの上下コイル間を絶縁します。
CMOS回路
上部コイルに接続され、信号の送受信を制御します。
外部インターフェイス
下部コイルが外部信号と接続され、トランスを介して信号を伝達します。
絶縁材料について
デジタルアイソレータの絶縁方式は大きくポリイミドとSiO2の2種類があります。ここではiCouplerが採用しているポリイミド を用いた絶縁の特徴を説明します。
高い絶縁耐圧
ポリイミドは非常に高い絶縁破壊電圧を持ち、数千ボルトの電圧にも耐えられます。
iCouplerでは、トランスの上下コイル間にポリイミド層を挟むことで、上下コイル間を安全に分離できます。
優れた熱安定性
ポリイミドは高温環境(200℃以上)でも物性が安定しており、産業機器や車載用途に最適です。
熱による劣化が少ないため、長期信頼性が高いです。
薄膜形成が可能
微細加工技術により、ポリイミドは極めて薄く均一な絶縁層として形成可能です。
これにより、チップサイズの小型化や多チャンネル集積が容易になります。
機械的柔軟性と耐衝撃性
ポリイミドは柔軟性があり、機械的ストレスや振動にも強いため、過酷な環境下でも安定した性能を維持できます。
経年劣化が少ない
フォトカプラのような光源劣化がなく、長期間にわたって安定した信号伝達などを維持できます。
- ポリイミドの絶縁性能に対する詳細な解説は、アナログ・デバイセズ社の以下資料を参照
- https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/polyimide-film-uses-for-digital-isolators.html
製品選定
iCouplerのラインナップ例
基本型デジタル・アイソレータ
製品例:ADuM340Eなど
特徴:1〜4チャンネルの絶縁を提供
用途:一般的なデジタル信号の絶縁
絶縁型電源内蔵タイプ
製品例:ADM2865Eなど
特徴:icouperと同じ技術で作られた絶縁型DC-DCコンバーター「isoPOWER」を内蔵し、電力供給と信号絶縁を同時に実現
用途:電源と信号の両方を絶縁
絶縁型インターフェイス対応タイプ
製品例:
SPI対応:ADuM3151
I²C対応:ADuM2250
CAN対応:ADM3053
特徴:特定の通信プロトコルに対応した絶縁機能
用途:マイコンやセンサーとの安全な通信
副番、サフィックスなどの選定方法
基本型デジタル・アイソレータの中からADUM34xEシリーズのデータシートを例にして説明します。
信号方向の選択
-
ADuM340E 4ch全て同一方向
-
ADuM341E 3ch同一、1chのみ逆方向
-
ADuM342E 各方向に2chずつ
フェイルセーフ極性の選択
入力側の電源や入力信号が喪失した場合に、出力を固定するフェイルセーフが内蔵されており、極性の異なる 2つのオプションがあります。
-
ADuM34xE0 フェイルセーフ時、出力ロー固定
-
ADuM34xE1 フェイルセーフ時、出力ハイ固定
パッケージの選択
端子数や配置は同じですが、サイズの異なる2種類のパッケージがあります。
-
SOIC Wide Body 16pinパッケージ
-
QSOP 16pinパッケージ
一般的には基板サイズや実装での制約、放熱性などを考慮してパッケージの種類を選択しますが、デジタルアイソレータ の場合には絶縁耐圧にパッケージの種類が影響するので注意が必要です。
-
SOIC Wide Body 絶縁耐圧(一部抜粋)
-
QSOP パッケージ絶縁耐圧(一部抜粋)
SOIC Wide Bodyの方が大型で基板面積を占有しますが、1次側(PIN#1~#8)と2次側(PIN#9~#16)が離れており、空間距離(clearance) 及び沿面距離(creepage)が長く、結果として絶縁耐圧が高くなっている事が分かります。
さいごに
繰り返しになりますが、多くのアプリケーションに通信の高速化、高信頼性化、小型化などが求められる事から、
アナログ・デバイセズ社のデジタルアイソレータ「iCoupler」は、従来から使用されているフォトカプラからの置き換えに
最適な選択として、多く採用が進んでおります。
アナログ・デバイセズではさまざまなラインナップを取り揃えておりますので、ぜひご参照下さい。
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