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NXPの車載向けPMIC(Power Management
IC)は、自動車向けに設計された高度な電源管理ICです。NXPのPMICは、高効率、高信頼性、省スペース化、電源管理の最適化、開発効率の改善を求めるユーザーにとって最適な製品です。
今回は車載ECUにおけるPMICの必要性とNXPの車載向けPMICの特徴、魅力、ポートフォリオについて、2ページにわたって解説します。
Page 1:PMICの基礎、NXPの車載PMICの特徴
- Page 2:NXPの車載PMICポートフォリオと代表製品の特徴を解説
PMICの基礎
PMIC(Power Management IC)とは
自動車の電動化と自動運転技術の進展により、車載ECU(電子制御ユニット)には、リアルタイムデータ処理や複雑なアルゴリズムを実行できる高い処理性能が求められています。車載ECUには、高性能なプロセッサー(SoC:System on Chip)、セーフティMCU(マイコン)、FPGA(Field Programable Gate Array)が搭載されています。高い処理性能は、これらの頭脳であるコアのクロック周波数を速くすることで実現しますが、周波数を速くするにつれて消費電力は増大します。バッテリーの持続時間は電動車両の航続距離に影響するため、車載ECUでは処理性能を高めるとともに、消費電力を抑えることも重要視されます。また、自動車の限られたスペースに搭載するために、車載ECUの小型化も求められています。

車載ECUに必要な電源について考えてみましょう。
プロセッサーには、高速に動作するコアやメモリー、高精度なADC、互換性や耐ノイズ性が求められるI/Oや通信I/Fなど、さまざまな機能が搭載されています。DDRメモリーや通信物理層などの周辺部品もあります。プロセッサーとこれらの周辺部品を動作させるには、技術規格や半導体プロセス技術によって異なりますが、0.7Vから5Vの範囲の複数の電源が必要です。
車載ECUでは、高い安全レベルで電源を監視・管理することが求められます。プロセッサーを安定して動作させるには、各電源の電圧レベルがプロセッサーの正常動作範囲に収まっているかを監視する必要があります。デバイスを損傷しないためには、デバイスが要求する電源シーケンスで電源を起動・停止する電源管理も必要です。電源に異常が発生したら、システムを保護するために安全状態に移行させる必要もあります。
これらの機能をワンチップに統合しているのがPMIC(Power Management IC:電源管理IC)です。
PMICは、マルチチャンネル電源、電圧監視、電源管理、セーフティ機能などをワンチップに統合した製品です。PMICは従来のディスクリートICによる複雑な電源システムを集約することで、電力効率、電力密度、電源管理の最適化などが期待できます。各電源とその管理機能などがハイレベルで統合されたPMICを使用すれば、電源システムの開発効率を向上し、車載ECUの低消費電力化、小型化が可能です。

図1 機能安全に対応した車載向けPMIC
ディスクリートICとPMICの電源構成の違い
ディスクリートICとPMICの違いを説明していきます。
プロセッサーの電源をディスクリートICで構成した場合と、PMICで構成した場合の例を図2に示します。

図2 PMICで電源システムを単純化
プロセッサーの電源をディスクリートICで構成した場合(図2の左)、複数の電源ICと監視マイコンが必要です。
監視マイコンは、電源電圧を監視したり、故障を検出した際にプロセッサーに割り込みやリセットを発行したりします。プロセッサーは監視マイコンとI2Cで通信して、ウォッチドッグ制御や状態レジスタの監視などを行います。
プロセッサーの電源をPMICで構成した場合(図2の右)、複数の電源ICと監視マイコンをPMICに集約することができます。PMICは、マルチチャンネル電源、電圧監視、ウォッチドッグ機能を備えています。PMICを使用すれば、複雑だったプロセッサーの電源システムの構成をシンプルにできます。
次は、プロセッサーの電源システムをディスクリートICで構成した場合の課題と、PMICで構成した場合のメリットについて解説します。
ディスクリートICの4つの課題
プロセッサーの電源システムをディスクリートICで構成した場合、次の4つの課題があります。
- 電源システムをもっとシンプルにしたい:電源ICの数が多いため回路が複雑化。仕様の異なる複数のICを組み合わせて適切に管理するための開発工数が負担。
- 仕様変更にも柔軟に対応したい:仕様変更が入るたびに回路修正が必要。
- 電力効率と電力密度を向上したい:消費電力を低減する必要がある。電源の面積を縮小する必要がある。
- BOMを減らしたい:電源ICの周辺部品も含めると部品点数(BOM)が多くなり、部品調達や認定業務が負担。

ディスクリートICの構成では、電源ICとその周辺回路も合わせると多くの部品点数が必要になります。これらの部品を実装するためには、広い基板スペースが必要です。また、プロセッサーは多くの電力を消費するので、各電源ICが放熱するのに充分なスペースを基板レイアウトで確保しなければなりません。このように、ディスクリートICの構成では電力密度の向上が難しいのです。他にも、個別の電源ICを組み合わせて電力効率を高めるのにも限界があります。
電源システムをディスクリートICで構成すると、多くの開発工数が掛かります。それぞれの電源ICで、部品選定と周辺回路の設計が必要になります。複数ある電源ICを協調して動作させるための電源シーケンス制御、電圧監視の設計、監視マイコンのプログラミングなども行わなければなりません。突発的な仕様変更が発生した場合は、これらの開発作業のやり直しも必要になります。このように、ディスクリートICで構成した電源システムは、開発効率が悪いため、プラットフォーム開発に適していないのです。
PMICのメリット
PMICは、マルチチャンネル電源、電圧監視、電源管理、セーフティ機能がシステムレベルで高度に統合されているので、高い電力効率を発揮するとともに開発効率を改善します。また、PMICは複数のコンポーネントをワンチップに統合しているため、BOMを削減し、基板面積を縮小します。これにより、電力密度が向上します。
電源システムの電力効率と電力密度を向上したい、開発効率を改善したいという課題を抱えるユーザーにとって、PMICは最適な選択肢です。

図3 NXPの車載向けPMIC
次の章では、NXPの車載向けPMICの特徴を紹介します。
NXPの車載向けPMICの特徴
NXPの車載向けPMIC
NXPの車載向けPMICシリーズは、セーフティ機能を備えた車載グレードの電源管理ICです。

図4 NXPの車載向けPMICシリーズ
NXPの車載向けPMICは、自動車の12V/24Vバッテリーに直接接続可能な高電圧PMIC(図4の上)と、入力電源5V以下で動作する低電圧PMIC(図4の下)の2シリーズに分かれています。
車載向けPMICは、複数の電圧レギュレーター、ウォッチドッグ、電圧監視、セーフティ機能(機能安全レベルQMからASIL Dまで対応)などをワンチップに統合していますので、電源システムの単純化、電力効率の向上、開発工数、BOM(部品点数)、基板スペースを削減できます。
NXPの車載向けPMICの3つの特徴
NXPの車載向けPMICの3つの特徴を紹介します。
1.電源システムを最適化
2.プラットフォーム開発を促進
3.ハイパフォーマンスな電源性能
1.電源システムを最適化
NXPの車載向けPMICは、電源システムを最適化して、開発コスト、BOMコスト、基板スペースを節約します。
- マルチチャンネル電源を搭載
Buck(降圧コンバーター)、Boost(昇圧コンバーター)、LDO(リニアレギュレーター)、ボルテージトラッカー、リファレンス電源など。
- OTPで簡単に設定変更が可能
急に要求仕様が変更されても、OTP※により、出力電圧レベル、電源シーケンス、セーフティ機能のさまざまな設定を簡単に試すことができます。
- OTP(One Time Programmable)メモリーは、一度だけデータ書き込みが可能な不揮発性ROMのことで、デバイスの一部の初期構成設定を格納しています。

図5 電源シーケンスはOTPでプログラム可能
- 監視マイコンの開発が不要
高精度な電圧監視およびセーフティ機能を搭載しているので、監視マイコンとそのソフトウェア開発が不要になります。
- 電圧監視とセーフティ機能を搭載
電源のOV/UV (Over Voltage / Under Voltage)監視、BIST(Built-in Self-test、自己診断)、ウォッチドッグなどのフォルトが一定回数を超えると自動で安全状態に遷移します。
2.プラットフォーム開発を促進
NXPの車載向けPMICは高いスケーラビリティを有しており、設計資産のリユースを最大化し、プラットフォーム開発を促進します。
- 複数のPMICを組み合わせてひとつのPMICのように動作
Buck(降圧コンバーター)、Boost(昇圧コンバーター)、LDO(リニアレギュレーター)、ボルテージトラッカー、リファレンス電源など。
- OTPで簡単に設定変更が可能
NXPの車載向けPMICは、相互接続可能なピンとインターフェース互換を備えたBYLinkコンセプトで設計されているので、複数のPMICを組み合わせて、あたかもひとつのPMICのように動作することができます。BYLink対応の製品は、専用の端子を使用して複数のPMIC間の電源シーケンスを簡単に同期できます。それぞれのPMICの電源シーケンスは、OTPでプログラム可能です。高電圧PMICと低電圧PMICの組み合わせのバリエーションは豊富なので、さまざまなアプリケーションおよびプロセッサーの電源に対応できます。
- BYLink:相互接続可能なピンとソフトウェア互換により、複数のPIMC同士で電源シーケンスの同期を可能にする技術のこと。BYLinkについては次章で具体例を交えて詳説します。

図6 複数のPMICを組み合わせた電源システム・ソリューション
- NXPおよび他社のマイコン/プロセッサーの電源としてアタッチ可能
NXPの車載向けPMICはNXPのマイコン/プロセッサーに100%アタッチ可能なだけでなく、多くの他社のマイコン/プロセッサーにも対応しています。

図7 NXPの車載向けPMICはNXPのマイコン/プロセッサーに100%アタッチ
- 設計資産リユースを最大化
車載向けPMICシリーズは、共通のハードウェアおよびソフトウェアインターフェースを採用しており、プラットフォーム設計を効率化します。
3.ハイパフォーマンスな電源性能
- 広帯域幅により出力電圧が変化した際の応答性を改善
- 超低消費電力モードでスタンバイ中の電流消費を低減
- 基板サイズ、BOMコストを削減
機能安全設計を可能にする車載向けPMIC
NXPの車載向けPMICは、自動車で求められる機能安全規格であるISO26262の設計を可能にするセーフティ機能を内蔵しています。
セーフティ機能の概要について、NXPの車載向けPMICとセーフティMCUを搭載したシステムを例に説明します(図8)。
PMICのVcoreレギュレーターからMCUのコア電源、VCCAレギュレーターからアナログ電源、VAUXレギュレーターから外部IC(センサー)に電源を供給しています。PMICとMCUはSPI通信で接続され、RSTBはMCUのリセット端子に接続されています。システムが故障した際に、システムを安全な状態に移行させるセーフティ・スイッチは、PMICとセーフティMCUの両方から制御が可能です。

図8 NXPの車載向けPMICは機能安全設計をサポートするセーフティ機能を搭載
NXPの車載向けPMICが備えるセーフティ機能の4つの特徴を紹介します。
(特徴の数字(1)~(4)は、図8の数字(1)~(4)に対応しています。)
(1) 独立したフェイルセーフ・ステートマシン
- フェイルセーフ・ステートマシンは他のシステムから物理的かつ電気的に独立
- UV / OVのしきい値を設定可能な電圧監視ユニットを内蔵
- 潜在的故障(Latent Fault)を検出するためにアナログおよびロジック組み込み自己診断(ABIST/LBIST)を内蔵
(2) ウォッチドッグ
- フェイルセーフ・ステートマシンは他のシステムから物理的かつ電気的に独立
- ウォッチドッグ(WD)機能でマイコンの故障を監視。タイムアウトWD、ウィンドウWDまたはQ&A WDを搭載。
(3) マルチパーパスIO
- マルチパーパスIOは、ウェイクアップ入力、FCCU監視※、外部ICのエラー監視などに設定可能。
(4) フェイルセーフ出力ドライバー
- RSTB:MCUのハードウェア・リセット端子に接続され、MCUのリセットイベントの監視とリセット信号のアサートが可能。
- フェールセーフ・ピン(FS0B and/or FS1B):システムが故障した際に、一方のフェールセーフ・ピンの動作タイミングを遅延させて、システムを段階的に安全状態に移行することが可能。
BYLinkシステムで電源の開発効率を改善
自動車の電動化、ADAS、ゾーン、ドメイン・コントローラーなどのアプリケーションに対応するために、車載ECUの高性能化とその電源構成の複雑化が進んでいます。そのため、車載ECUの電源開発プラットフォームには、アプリケーションごとに異なる電源構成にも柔軟に対応できるスケーラビリティが求められています。
NXPの車載向けPMICはBYLinkコンセプトで設計されています。相互接続可能なピンとソフトウェア互換を備えたPMIC同士が協調し、複数のPMICで構成されたパワーレールを安全かつ効率的に制御します。BYLinkによって、複数のPMIC間のセーフティ機能と電源シーケンスは同期して、あたかもひとつのPMICのように振る舞います。BYLinkシステムは、消費電力の管理、機能安全の統合、複雑な電源シーケンスの管理を最適化し、電源のプラットフォーム開発の効率を改善します。
BYLinkの構成例として、セーフティMCUとプロセッサーが搭載された車載ECUの電源システムを見てみましょう。以下の図9は、NXPの提供する評価ボード
のブロック図です。(評価ボードに含まれるのは図9の左の電源回路のみです。プロセッサーは図中でProcessing MCUと表記されています。)

図9 BYLink Multiprocessor Demo Board (DEMO-BYL1-EVB)のブロック図
このシステムは、12V/24Vバッテリーを直接入力可能な高電圧PMIC x1とセーフティMCU、プロセッサーとそれに電源供給する低電圧PMIC x2で構成されています。このプロセッサーは高性能で消費電流が高く、DDRメモリーを使用します。
機能安全レベルASIL DのセーフティMCUには高電圧PMICのFS8510から電源供給、機能安全レベルASIL Bのプロセッサーには低電圧PMICのPF5024とPF5020から電源供給しています。プロセッサー用のPF5024とPF5020は、FS8510の高電圧Buck(VPRE)から電源供給され、PF5024とPF5020の電源起動タイミングはセーフティMCUのGPIOで制御します。PF5024とPF5020間はXFAILBピンで相互に接続され、電源シーケンスを同期できます。FS8510はセーフティMCUとSPIで通信し、インターフェースが互換なPF5024とPF5020はプロセッサーと共通のI2Cラインで通信します。
この構成はあくまで一例です。他にも図10の左のように低電圧PMICをプロセッサーとペリフェラル用で分けて配置、さらに図10の右のようにプロセッサー用に低電圧PMICを4つ配置した場合でも、BYLinkによって複数のPMIC同士を簡単に連携させることができます。

図10 パワー・マネジメントの構成要素
BYLinkに対応したNXPの車載向けPMICは、使用するアプリケーションに合わせて、高電圧PMICの有無、低電圧PMICの数と種類、ASILレベルなどの電源構成を柔軟に選択できます。BYLinkは、安全でスケーラブル、簡単な電源設計を可能にします。
- [ NXP公式 ]BYLinkシステム電源プラットフォーム
- [ NXP公式 ]BYLink システム パワー プラットフォーム(トレーニング)
- 次のページでは、NXPの車載PMICポートフォリオと代表製品の特徴を解説します。
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