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技術コラム

ACアダプタの性能評価入門: 静特性(効率・レギュレーション・ノイズ)の測定方法と基準値

目次

ACアダプタは、スマートフォンやノートPC、IoT機器などあらゆる電子機器に安定した電力を供給する欠かせない電源供給デバイスです。しかし、製品開発において単に「規定電圧・電流が出る」ことを確認するだけでは不十分です。
製品の信頼性や安全性を確保するためには、ACアダプタの特性を正しく理解し、安定度・ノイズ・効率といった静特性を定量的に評価することが重要です。
本記事ではACアダプタの静特性とは何か、その評価項目や評価方法について、実測データを交えながらわかりやすく解説します。

ACアダプタの評価が必要な理由

ACアダプタの評価が必要な理由は安全・信頼性・規格の3点です。
それぞれ具体的に説明していきます。

1.安全性の確保

ACアダプタは長時間通電されるため、過電圧・過電流・過熱などのリスクを防ぐことが不可欠です。
評価によって、

  • 過負荷時の保護機能(過電流保護や過電圧保護)
  • 絶縁性能や耐圧試験
  • 温度上昇特性

を確認し、火災や感電などの重大事故を防ぎます。

2.信頼性と長寿命

電源品質が悪いと、接続機器にストレスを与え、誤動作や寿命低下の原因になります。
評価では、

  • 出力電圧の安定性
  • リップルノイズの低減
  • 起動停止電圧の適正

を確認し、長期的な信頼性を保証します。

3.規格適合と市場要求

各国の省エネ規制や安全規格(DOE、ErP、IEC、USB PDなど)に適合することは、製品販売に必須となります。
評価を通じて、

  • 変換効率
  • 待機電力
  • 保護回路の動作

が規格に準拠しているか確認します。

静特性とは?

静特性とは、ACアダプタの出力が時間的に変化しない状態で、入力や負荷条件を変えたときの出力特性を示すものです。
簡単に言うと、「定常状態でどれだけ安定しているか」を評価する指標です。

なぜ、静特性が重要なのか?

静特性は、負荷や入力条件が変化しても出力電圧が規定値に収まるかを示します。
スマートフォンやノートPCなどの精密機器は電圧偏差に敏感で、数十mVの差が誤動作や充電不良に繋がる可能性があります。静特性が良好であれば、こうしたトラブルを防ぎ、安定した動作を保証できます。
つまり静特性は電源の基本性能を測るうえで欠かせない要素であり、機器の誤動作や寿命低下を防ぐために重要です。

ACアダプタの静特性評価における重要な特性と評価方法

ACアダプタの静特性を評価する上で、特に大事になる特性は以下の5つです。

1.変換効率
2.ロードレギュレーション/ラインレギュレーション
3.リップルノイズ
4.待機電力
5.起動停止電圧

今回はこの5つの特性について概要と評価方法を説明します。
また、各評価結果例は、定格入力AC100V-240V / 出力5V 2AのACアダプタを用いた実測データとなります。

評価の準備

ACアダプタの評価を正確に行うためには、正しい評価環境の構築が不可欠です。
評価環境では、入力 / 出力の電圧・電流とリップルノイズを正確に測定できる環境を整えます。
特にプロービングにおいて、同軸ケーブルで短配線しループ面積を最小化すると、高周波ノイズや外来干渉を抑え正確なリップルノイズの測定が可能となります。
以下は評価環境の一例です。

ACアダプタ評価環境例

1.変換効率

変換効率とはAC(交流)からDC(直流)へ電力を変換する際、入力した電力のうち実際に出力として使える電力の割合を示します。変換効率は出力電流(負荷)によって変動し、ACアダプタは一般的に定格負荷の40-70%付近で最も変換効率が高くなります。変換効率が低いと、変換されなかった無効な電力が熱エネルギーとして放出され、ACアダプタの発熱につながります。また過度な発熱は電子部品にストレスを与え、故障のリスクを高めたり、製品の寿命を縮めたりする原因となります。
従って、使用するACアダプタの変換効率がどの程度なのか確認しておくことが重要です。

変換効率は以下の(式1)から求めることができます。

変換効率の目安

  • 一般的なACアダプタ:80%前後
  • 高効率なAC-DCコンバータ:90%以上
  • ポータブル電源:75%-90%程度(DC-AC変換も含む)

評価方法

①ACアダプタの入力電力をパワーメータ等で測定する。

②ACアダプタの出力電圧をマルチメータ等で測定し出力電流(負荷)と以下の(式2)より出力電力を計算する。

③上記、(式1)より変換効率を求める。

評価方法例:パワーメータによる入力電力測定

評価結果例

入力電圧[V]入力電力[W]出力電流(負荷)[A]出力電圧[V]出力電力[W]変換効率[%]
1000.690.105.190.5174.10
1003.180.505.162.5881.20
1006.291.005.145.1481.70
1009.431.505.127.6881.40
10012.632.005.1010.1980.70

変換効率測定結果

変換効率グラフ

典型的なフライバック式ACアダプタは上グラフのような効率カーブを描きます。軽負荷時には制御ICのバイアス電流やスイッチング損失、バースト/スキップモードによる低周波損失が影響し変換効率が低くなります。中負荷域ではスイッチング損失と導通損失のバランスが最も良く、最大効率となります。多くのフライバック電源では40~70%負荷で変換効率のピークを迎えます。そして、高負荷域では内部MOSFETやダイオードの導通損失が上昇し変換効率がやや低下します。

2.待機電力

待機電力とはACアダプタが機器に電力を供給していない状態でも、コンセントに接続されているだけで消費する電力のことです。なぜ待機電力が発生するかというと、ACアダプタ内部には電源制御回路やスイッチング素子、フィルターなどがあり、これらは通電状態で動作を維持するためです。特にスイッチング電源では、

  • 制御ICの動作電力
  • 入力フィルターや整流回路の損失
  • 漏れ電流

などが原因で、負荷がゼロでも電力が消費されます。
待機電力は小さい値ですが、コンセント差しっぱなし運用では年間で積み重なると大きな電力ロスにつながります。

待機電力の目安

  • 古いACアダプタ(規制前):0.5W-1.0W以上
  • 現行省エネ規格対応品(DoE Level Ⅵ、ErP指令など):0.1W以下
  • 最新高効率モデル(GaN採用など):0.05W以下

評価方法

①出力電流(負荷)をゼロにし、パワーメーター等で入力電力(待機電力)を測定します。

評価方法例:電子負荷装置をオフにして出力電流ゼロ⇒入力電力を記録

評価結果例

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]待機電力[W]
9000.025
10000.026
11000.027

待機電力測定結果(パワーメーター消費電力を除く)

今回の測定では、待機電力は入力電圧に対して大きな依存性を示さず、ほぼ一定の0.03W以下で推移しています。
これは制御ICの低消費電力化やスイッチング制御の最適化が適切に行われていることを示しており、静特性評価としても良好な結果となります。

3.ロード/ラインレギュレーション

ロードレギュレーションとは、負荷電流が変化したときに出力電圧がどれだけ変動するかを示す指標です。ACアダプタは接続する機器によって消費電流が変わります。このとき、出力電圧が大きく変動すると機器の動作に悪影響を与えるため、安定性が重要になります。

ロードレギュレーションは以下の(式3)で求めることができます。

ラインレギュレーションとは、ACアダプタの入力電圧が変化したときに、出力電圧がどれだけ変化するかを示す指標です。
ACアダプタは通常、AC100-240Vなど広い入力範囲に対応しますが、入力電圧が変動しても出力電圧を安定させることが重要です。

ラインレギュレーションは以下の(式4)で求めることができます。

ロード/ラインレギュレーションの目安(一般的なスイッチングACアダプタ)

  • ロードレギュレーション:±2% ~ ±5%程度
  • ラインレギュレーション:±0.5% ~ ±2%程度

評価方法

<ロードレギュレーション>

①無負荷時の出力電圧を測定する。

②定格負荷時の出力電圧を測定する。

③上記、(式3)よりロードレギュレーションを求める。

評価方法例:無負荷時の出力電圧(左)と定格負荷時の出力電圧(右)

<ラインレギュレーション>

①最大入力電圧時の出力電圧を測定する。

②最小入力電圧時の出力電圧を測定する。

③上記、(式4)よりラインレギュレーションを求める。

評価結果例

<ロードレギュレーション>

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]出力電圧[V]ロードレギュレーション[%]
10005.187-1.72%
10025.098

ロードレギュレーション測定結果

ロードレギュレーショングラフ

<ラインレギュレーション測定結果>

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]出力電圧[V]ラインレギュレーション[%]
9025.09790V - 100V:-0.02%
10025.098100V - 110V:-0.02%
11025.097

ラインレギュレーション測定結果

本サンプルのロードレギュレーションにおいて、無負荷でやや高め、負荷増加で適正方向に落ちる挙動は出力段の抵抗分(Rout)とフィードバック補償の設計意図を反映した典型的特性と言えます。また0→2Aの電圧差ΔV=89mVから出力等価抵抗はRout=約45mΩと推定できます。
ラインレギュレーションにおいては出力誤差が微小なことからACラインのTHD(全高調波歪率)や周波数差(50/60Hz)の影響をほぼ受けておらず広入力対応品として優秀だということがわかります。入力レンジの拡張や負荷掃引の粒度をあげることでさらに評価の質の向上につながります。

4.リップルノイズ

リップルノイズ(Ripple & Noise)とは、ACアダプタの出力電圧に含まれる微小な交流成分や高周波ノイズのことです。
本来、ACアダプタは安定した直流電圧を供給することが目的ですが、スイッチング動作や整流・フィルターの影響で完全な直流にはならず、わずかな変動が残ります。リップルノイズが大きいと、接続機器の誤動作につながる恐れがあるためしっかり評価することが重要です。

<リップルとノイズの違い>

リップルノイズは厳密にはリップルとノイズに分けられ、両者を合わせてRipple & Noiseと呼び、電源品質の重要な指標となります。

  • リップル:主に整流後の残留交流成分(低周波)
  • ノイズ:スイッチング動作や外部干渉による高周波成分

リップルノイズの目安(定格負荷)

  • 一般的なスイッチングACアダプタ:50mVp-p ~ 200mVp-p
  • USB充電器や民生機器向け:100mVp-p以下
  • オーディオ、通信、医療機器向け:50mVp-p以下、場合によっては10mVp-p以下

評価方法

①オシロスコープのプローブ設定をACカップリングに設定し、出力電圧波形を測定する。 ※20MHz帯域推奨

②測定波形のPeak to Peak値を記録する。(単位:mVp-p)

評価方法例:オシロスコープ ACカップリング,20MHz帯域設定

評価結果例

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]周波数[kHz]リップルノイズ[mVp-p]
10000.810
1000.121.021
1000.538.040
1002.064.077

リップルノイズ測定波形

負荷増加とともにリップルノイズが単調増加しますが、最大でも77mVp-pに留まることから民生用途へは満足しています。ただし、オーディオや通信機用途には対策検討が必要になります. また、64kHz付近の周波数は制御のスイッチング周波数、もしくは2次側LCの通過後の基本成分に対応している可能性が高いと読み取ることができます。

5.起動停止電圧

起動停止電圧とは、ACアダプタが正常に動作を開始・維持するために必要な入力電圧の範囲を示す指標です。
この特性は、電源環境が不安定な場所や電圧変動が起きやすい状況で、機器の安定動作に直結します。

  • 起動電圧:ACアダプタが出力を開始できる最小の入力電圧
  • 停止電圧:入力電圧が低下した際、出力を維持できなくなる電圧

起動電圧が高すぎると、電源投入時に機器が動作しない可能性があり、また停止電圧が低すぎると、入力が不安定な状態で出力を維持してしまい、誤動作や過負荷の原因になることがあります。 従って、電源投入時の確実な動作と、低電圧時の安全な停止を保証するための重要な特性となります。
ACアダプタが適切なヒステリシスを持つことは電源のオン/オフを安定させます。

起動停止電圧の目安(一般的なスイッチングACアダプタ)

  • 起動電圧:AC85V以下
  • 停止電圧:AC75V以下

評価方法

①入力電圧を0Vから少しずつ上げていき、ACアダプタが出力を開始する電圧を測定する。

②ACアダプタが起動した状態から入力電圧を少しずつ下げていき、出力が停止する電圧を測定する。

評価方法例:AC電源で入力電圧を上げる(下げる)⇒出力開始(停止)する入力電圧を記録

評価結果例

<起動電圧> 測定値:40V

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]出力電圧[V]
370.00.000
380.00.000
390.00.000
400.05.187
410.05.187
420.05.187

<停止電圧> 測定値:11V

入力電圧[V]出力電流(負荷)[A]出力電圧[V]
140.05.187
130.05.187
120.05.187
110.00.000
100.00.000
90.00.000

ヒステリシスが大きい設計はチャタリング抑制に有利に働き安定性が高いことがわかります。もちろん定格負荷時や軽負荷時に値が変わる場合もありますので実際の評価の際はさらに細かい評価を行うことが重要です。

まとめ

ACアダプタの評価は、安全性や信頼性、規格適合を確保するために不可欠です。静特性の評価を徹底することで、過剰な発熱や電圧変動によるトラブルを未然に防ぎ、安定・安全・高効率な電源供給を保証できます。
静特性で規定値のトレースを確認した後は、過渡応答などの動特性やOCP、OVPなどの保護機能の評価をすることが実運用の信頼性を決めます。
次回は、これら静特性の評価結果を踏まえ、ACアダプタの動特性について解説していきます。

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