本コラムでは、SER-DES通信技術において、その通信品質確保のため、通信路の評価、通信品質の評価のための測定について解説します。
基礎的なSER-DES技術や説明は以下になります。併せてご覧ください。
通信品質・通信経路の評価手法
SER-DES技術に代表される高速通信の評価は、SER-DESを設計しているICメーカーの要求仕様によりますが、一般的な評価方法としては、大きく次の3つになります。
TDR(Time Domain Reflectometry)評価
TDR評価とは、伝送路(配線・ケーブル・コネクタなど)に高速な立ち上がりの電気信号を入力し、その反射波を時間軸で観測することで、インピーダンスの不連続点や位置を評価する手法です。
主に配線品質、実装状態の確認、設計通りのインピーダンスが確保されているかを調べる目的で用いられています。
SER-DESのような高速通信では、わずかなインピーダンス乱れでも信号の反射や減衰が生じ、通信品質に大きな影響を与えるため、TDR評価は基本かつ重要な評価項目となることが多いです。
TDR評価はベクトルネットワークアナライザ(以下VNA)を用いて測定され、通信信号(伝送)路の長さと、その経路のどこにインピーダンス乱れがあるかを視覚的に評価できます。
S(Scattering)パラメータ評価
Sパラメータ評価とは、高速信号が通信伝送路や、あるデバイスを通過する際の信号の透過・反射特性を周波数領域で評価する手法です。
SER-DESなどの高速通信において、信号の減衰や反射といったふるまいを周波数特性で定量的に把握する目的で用いられます。
Sパラメータ評価はTDR評価と同様にVNAを用いて測定され、低周波数帯からGHz帯に及ぶ高速信号の挙動(減衰や反射)を周波数軸で解析できる点が大きな特長です。
アイ(eye)評価
アイ評価とは、実際の通信状態での波形信号をプロービングし、その信号波形を重ね合わせて信号波形品質を時間領域で視覚的に評価する手法です。
重ね合わせた信号波形が「目(アイ)」の形に見えることから、アイ評価やアイダイアグラムと呼ばれています。
SER-DESのような高速通信では、信号の減衰や反射によるジッタ、ノイズの影響が直接通信エラーにつながるため、実際の信号波形が想定通りの通信波形になっているかどうかを直感的に確認できる評価手法として広く用いられています。
アイ評価では高速信号対応の高速オシロスコープと、低寄生容量のアクティブプローブを用いて測定します。
次の章から各評価の項目とその手法について評価例・結果を交えながら説明していきます。
TDR評価
TDR評価では、前述の通り、通信信号(伝送)路の長さと、その通信経路のどこにインピーダンス乱れがあるかを視覚的に評価します。
原理として、ステップ状(またはパルス状)の信号を伝送路に印加し、その反射波の振幅からインピーダンスの変化量が、反射波が戻ってくるまでの時間からはその位置(距離)が分かるといった仕組みです。
これにより、「どこで」「どの程度」インピーダンスが乱れているかを可視化でき、基板設計の妥当性確認や不具合解析の切り分けに有効です。
評価でわかること
特性インピーダンス
設計値(例:同軸であれば50Ω、差動であれば100Ω)からのずれ
インピーダンス不連続点の位置
コネクタ、ビア、層遷移部、部品ランド、助長配線などの接続部で乱れやすく、乱れている箇所
終端状態
オープン、ショート、終端抵抗値の過不足
配線長の把握
伝搬時間から信号経路の長さが算出されます
測定手順概要と測定結果例
1.まず機器を立ち上げたらキャリブレーション(校正)を行います。オープン、ショート、ロード、スルーなどの接続を行ってキャリブレーションを行います。
ワンボタンでキャリブレーションが完了するE-Calキットが便利です。
【E-Calキットにて4ポート校正中】
2.VNA画面にて、TDRモードにて設定、グラフのセンターを合わすなど各種設定を行います。
3.VNAのSMAコネクタと測定対象基板(DUT)を接続することで、横軸が時間、縦軸がインピーダンスのグラフが表示されます。
以下の測定結果のグラフは、下記条件で測定した結果例になります。
- 差動(100Ωセンター)信号
- SMA to 差動コネクタ変換基板を使用
- 通信ICを非実装、差動コネクタ~通信ライン経路を全て0Ω抵抗でショート
【TDR測定評価グラフ例】
薄い黄色で示された線(①)は、SMA to 差動コネクタ変換基板のみを測定したグラフです。
このグラフがベースになります。
差動信号コネクタから先は、グラフが跳ね上がっていることからインピーダンスが無限大(∞)になり、オープン(未接続)状態になっていることがわかります。
濃い黄色で示された線(②)はSMA to 差動コネクタ変換基板に、測定対象基板(DUT)を接続して、測定したグラフです。
薄い黄色線(SMA to 差動コネクタ変換基板のみを測定したグラフ)より右側部分が今回の測定したい部分になります。
実際にSER-DES IC が実装されていないので、IC部分から先は、インピーダンスが無限大(∞)に跳ね上がっていることがわかります。
この濃い黄色で示されたグラフから、基板のコネクタ端~IC端手前付近では、100Ω付近をたもっているが、ICの手前部分においては85Ω付近までインピーダンスが崩れていることがわかります。(赤枠)
Sパラメータ評価
まず、Sパラメータ(以下、Sパラ)とは何かということについては、VNA装置メーカーであるRohde&Schwarzから説明ぺージがありますので、こちらをご参照ください。
Sパラ評価は、高周波信号が伝送路やデバイスを通過する際の信号の透過・反射特性を周波数領域で評価する手法です。
測定対象の通信経路についてS11(反射特性)とS21(減衰特性)が周波数で視覚的にとらえることができます。
測定手順概要と測定結果例
1.Sパラ測定において、基板の通信経路の特性を測定するために、テストクーポンと呼ばれる通信経路のみを切り出した基板を準備する必要があります。
また、VNAのコネクタはSMAコネクタです。COAXコネクタや差動信号コネクタなどのSER-DES基板で実際に使用する基板との接続のためにコネクタ変換基板(フィクスチャ基板とも呼びます)も併せて準備する必要があります。
これらの基板を用意したら、測定のため以下のように接続することとなります。(差動を前提に描写しています)
測定器(VNA)--- コネクタ変換治具(SMA to 測定基板コネクタ)--- 測定対象基板(DUT)
--- コネクタ変換治具(測定基板コネクタ to
SMA)--- 測定器(VNA)
上記の測定で測定すると、純粋に測定対象基板だけの特性だけでなく、コネクタ変換治具×2の特性も加味されてしまいます。
そこで、必要なのがデエンベデッド(De-embedded)です。
【デエンベデッド(De-embedded)とは?】
コネクタ変換基板(フィクスチャ基板)、VNA接続用のSMAコネクタなど、実際の測定基板(DUT)以外の要素(寄生要素成分)を取り除くことを指します。
純粋に測定したい測定基板(DUT)以外の要素を取り除くことで、測定基板本来の性能評価を正確に行うことができます。
2.TDR評価同様、VNA機器を立ち上げたらキャリブレーション(校正)を行い、各種設定を行った後、測定対象基板を測定することで周波数特性グラフが得られます。
以下の測定結果のグラフ例になります。
Sパラメータ(Sdd11)評価例
Sパラメータ(Sdd21)評価例
S11評価では、反射特性が周波数軸でよみとれます。
反射はできるだけ小さい方がよいので、反射特性グラフ値が-∞dBに近ければ近いほど反射が小さいといえます。
S21評価では、減衰特性が周波数軸でよみとれます。
減衰はできるだけ小さい方がよいので、0dBに近ければ近いほど減衰がない、よい減衰特性といえます。
本評価ではKeysight社製のネットワークアナライザと、AFR(Auto Fixture
Removal)機能を使って測定を行いました。変換基板を含む冗長な寄生成分をデエンベデッドすることで、特性がわずかに向上していることが確認できます。
アイ評価
アイ評価とは、実際の通信状態での波形信号をプロービングし、その信号波形を重ね合わせて信号波形品質を時間領域で視覚的に評価する手法です。
前述の2つの評価は基板や、通信経路など、主にハード面の特性や設計値の評価を主としていることに対し、アイ評価は実際の通信状態において、信号波形をプロービングし、波形を観察する評価ですので、より実際の状態で評価可能という点がメリットです。
一方、少なからずプローブや測定装置の影響を受けるため、プロービングが寄生容量にならないよう、ちょっとした工夫やコツを必要とします。また、より高速な信号になると、測定装置の影響が無視できなくなり、正確な波形を観察することが難しくなっていくので、測定器やプローブのスペック、と観測したい信号のスピードにおいて注意が必要です。
測定手順と測定結果例
1.高速オシロを立ち上げ、対応プローブを接続しキャリブレーションを行う。
2.プローブ先端を評価対象基板(DUT)のプロービングポイントへ設置、オシロにてリアルタイムアイ観測設定を行い波形確認。
手順は非常にシンプルですが、高速オシロスコープ側の設定であったり、プロービングポイントを通信ラインのどこにおくべきかなど、ICメーカーにより異なっていることが多く、評価モジュールとして設定ファイルの提供を行っているケースもあり、どのような条件と設定で、評価をするべきかICメーカーに確認が必要になります。
またプロービングについても針タイプやはんだ付けタイプなどさまざまなプローブがありますが、針タイプのものは、接点がチャタリングしないよう設置する必要がありますし、はんだ付けタイプであれば寄生容量にならないよう、最小限のはんだで付ける必要があり、技術と慣れが必要です。
以下の測定結果のグラフは、下記条件で測定した結果例になります。
- 信号スピードは4.8Gbps
アイ評価例(2m)
上記は、2mのケーブルでアイ測定したアイダイアグラムですが、ケーブルを伸ばすと当然信号減衰が大きくなりますので、アイは閉じます。以下はケーブルを10mにしたときのアイダイアグラムです。2mと比べてアイが閉じていることがわかります。
アイ評価例(10m)
SONY製 SER-DES GVIFの評価サービス事例紹介
各メーカーから多種多様なSER-DESがリリースされている中、SONYからも車載向けSER-DES GVIF (Gigabit Video InterFace)がリリースされています。
本ICを用いて設計された基板の評価サービスをネクスティ エレクトロニクスでは行っており、前述した3つの評価ができる機器(VNAや高速オシロスコープ)と熟練した測定技術者が在籍しています。
SONY GVIFについては、すぐに評価が開始できるSERまたはDESの評価ボードや、各種設定ツール、環境に応じた設定ファイルの提供など、すぐに評価できる環境を用意しています。
ご興味がある方はご連絡ください。
まとめ
これまでにSER-DES技術に代表される高速通信の評価項目と手法について説明してきました。
高速通信の評価や測定は、設定の環境やちょっとしたミスで結果が異なることが多く、また高価な機器が必要です。
ネクスティ エレクトロニクスでは、自社で評価環境を保持しているとともに、カスタマイズやご要望に応じて対応できる技術者も在籍していますので、評価のご要望だけでなく、技術的なご相談も含めお気軽にお問い合わせ下さい。
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