近年、自動車の安全性や快適性の向上に伴い、車載カメラやディスプレイの搭載数が急速に増加しています。これらを実現する機器同士が連携し高精細な映像をリアルタイムで表示するためには、大容量データを低遅延で伝送できる通信技術が不可欠です。そこで注目されているのが「SER-DES通信技術」です。この記事では、SER-DES通信の仕組みやその必要性、開発におけるメリットについて解説します。
概要はこちら
SER-DES通信技術の概要とその必要性
近年、車載カメラの搭載数増加や表示されるディスプレイ数の増大、高精細化が進んでおり、そこにはSER-DES通信技術が用いられています。SER-DES通信技術は、シリアライザー(SER)とデシリアライザー(DES)という信号変換と信号復号機能を用いて、映像や音声、制御信号データを1本のシールド付きツイストペア(STP)ケーブルや同軸(COAX)ケーブルで長距離伝送できる技術です。従来の複雑で複数の配線構成に比べて、ECU(電子制御ユニット)アーキテクチャをシンプルに構成できるため、設計の自由度が高まり、ケーブル・コスト削減や信頼性向上にも貢献します。
例えば、車載カメラから取得した高精細映像を、画像処理し複数のディスプレイにリアルタイムで表示する際にも、SER-DES通信なら低遅延かつ高画質で伝送可能です。さらに、音声や制御信号も同時に扱えるため、車載システム全体の統合が容易になります。
SERとDESの一般的な通信仕様
SER-DES間では、主に映像(ビデオ)、音声、制御の3種類の信号がやり取りされます。信号ごとに順番に解説します。
映像(ビデオ)信号
映像信号はSER側で入力され、DES側へ送信されます。
映像信号は、フレーム/同期情報などを含んだ最も帯域の大きいデータです。より詳細な制御のため高解像度と高フレームレートの維持が求められるため、高スループットかつ低遅延での伝送が必須です。
音声(オーディオ)信号
音声信号はSER側で入力され、DES側へ送信されます。
ドライバーへの警告音やナビゲーション、車内エンターテインメントなど、映像と同期した音声信号も扱えます。映像と同時に伝送できるため、別ケーブルを追加する必要がなく、システム構成をシンプルに保つことができます。
制御信号
I²C、SPI、UART、GPIOといった制御系の信号も、映像/音声信号に重畳して双方向に伝送が可能です。たとえば、カメラの設定/制御信号、ECU間のステータス取得といった双方向通信を追加配線なしで実現できます。これにより、カメラからECU、ディスプレイまでSER-DESで構成されたシステムにおいて遠隔設定や診断が容易に実現できます。
SERとDESの通信内容
先述の通り、SER-DES通信は、双方向のデータ通信です。
SERからDESへの通信(下り(Down Stream))とDESからSERへの通信(上り(Up Stream))では役割と帯域の使い方が異なります。
下り通信(Down Stream)
下り信号は、SERからDES方向へ、アプリケーション例でいうと、カメラからECU、さらにディスプレイへと向かう映像信号主体の高帯域チャネルです。
AC結合を通して構成されており、ケーブル長と周波数特性に応じて構成されています。
上り通信(Up Steream)
上り信号は、DESからSER方向へ、アプリケーション例でいうと、ECUからカメラへ、ディスプレイからECUへ制御/診断等が主体の低~中帯域チャネルです。
こちらもAC結合を通して構成されており、低域通過(LPF)特性を持つ経路で上り通信とは異なる特性の経路で構成されています。
SERとDESの一般的なハードウェア構成
通信ライン上の素子例(STP)
一般的には下記のような構成になります。
大きなビデオ映像が流れる通信ラインは、高帯域になりますので、AC結合用コンデンサを用いて直流成分を遮断します。
さらに、必要に応じてコモンモードフィルタ(CMF)やフェライトビーズ(FB)を挿入して、通信ライン上のノイズを抑えます。
また、通信ライン上のコンデンサは、ビデオ映像のみを通すHPF、比較的低速の上り通信のみを通すLPFの特性に応じて定数を設定します。
例えば、HPF設計において、コンデンサの乗数の違いにより、通過する波形の周波数特性が変わってきますので、通過させたい周波数とフィルタリングしたい周波数を見極めつつ定数の設定が必要です。
EMC性能
車載ECUでは国際規格に沿ったノイズ試験(EMC試験)をクリアする必要があります。
ノイズ最小化のためには、配線のループ面積を小さくし、リターンパスを確保することで、放射ノイズと感受性の双方を改善します。素子の値や位置、定数で性能が変化しますので、これらを最適化するためシミュレーションや評価でノイズ性能を確認しながら作り込んでいく必要があります。
(EMCの試験規格の概説は、NEXTY技術コラム「EMCの自動車に対する試験規格/測定法について解説」をご参照ください。)
通信ラインの特性インピーダンス
通信ラインは高周波通信ラインになるので、伝送路全体(コネクタ、ケーブル、基板のパターン)でインピーダンス整合をとることが重要です。
急峻なインピーダンス段差(ビア、パッド、コネクタの形状)で信号の反射が増加すると通信マージンが低下し、伝送可能長が短くなる、通信エラーなどが起きやすくなるなど、性能が低下しますので、シミュレーションや評価で通信ラインの特性が確保されているかを確認しながら作り込んでく必要があります。
SERとDESの選定のポイント
ECU設計の現場でSER-DESを選ぶ際は、次の4項目を押さえると、初期段階の迷いが減ります。
1. ケーブル種別と長さ
ハーネスの取り回しや既存コネクタ資産を考慮し、STP(100Ω差動)かCOAX(50Ω単一)を選びます。ケーブル長やエラー率(BER)の保証条件を確認します。
2. 必要帯域とシステム成立性
解像度/フレームレート/色深度など映像条件から必要帯域を算出し、映像のアーキテクチャ全体・システムの成立性を見積もります。
画像処理の時間や遅延などを含めたシステム全体で要件(要求)を満たしているか成立性を確認します。
3. EMC耐性
ECU・基板の状態(シールドや終端の状態、ECUのグランドの取り方など)を含めて、車体全体のEMC設計と整合させます。評価後半でNGとなり、見直すことになると、手戻りとなってしまいますので、設計段階でのシミュレーションや評価用治具での早期確認試験等を活用しながら、確認していくことが重要です。
4. 診断・冗長機能
SER-DES間の通信安定性、エラー検出、温度や電源監視など、故障解析に必要な情報などを予めリストアップしどのような情報をやりとりすべきかを確認します。
また量産後のトラブル解析やフィールドでの解析なども考慮し制御情報のやりとりを予め行うことで、トラブル早期解決にも繋がります。
まとめ
SER-DES通信技術は、高精細映像を低遅延で届けるだけでなく、配線の簡素化、EMC性能の向上、制御・診断の統合を同時に実現します。
ECU開発の現場では、ケーブル選定、帯域・システム全体の見積もり、EMC設計、診断機能の4視点を押さえることで、初期検討から量産までのリスクや、量産後のトラブル対応とその解決までのスピードを上げられます。
ネクスティエレクトロニクスでは、お客様の要望に応じた複数のSER-DESの取り扱いがあり、設計サポート経験も豊富です。
具体的な製品選定や評価基板、システム構成や成立性のご相談がありましたら、ぜひネクスティ エレクトロニクスまでお問い合わせください。
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