シリコンMOSFETは構造(Planar/Trench/SJ)で損失・EMI・熱・コストが変わります。そのため使用する電圧領域や回路の動作条件に応じた適切なデバイス選定が重要なポイントとなります。
プレーナ(Planar:横型)は製造が簡便で低〜中電圧の汎用用途に向く一方、セル密度が低くオン抵抗Rds
(on)がやや大きめです。トレンチ(Trench:縦型)は垂直ゲート構造によりセル密度を高めて低オン抵抗Rds (on)と優れたスイッチング特性を実現し、低〜中電圧の高効率用途で広く使われます。 スーパージャンクション(Super
Junction)はP/Nシリコンの柱で電荷を補償することにより高電圧領域でも低導通損失を達成し、電源やコンバータの高耐圧化に有利です。
STマイクロエレクトロニクス社(以下ST社)はこれらの技術を取り揃えており、低電圧トレンチ から 中電圧プレーナ 、高電圧スーパージャンクション
まで、産業・自動車・家電向けに最適化されたMOSFET製品群を提供し、対象製品は最低供給年数のコミットメントもしています。
本稿では用途別の選定軸、仕組みの違いや、ST社のMOSFET製品ラインナップ紹介などを図解と実務ノウハウを整理していきますので、MOSFET製品採用時の判断材料としてお役立て頂ける内容です。
MOSFETの構造と特長
パワーMOSFETの「平面:プレーナ(Planar)」, 「トレンチ(Trench)」、「スーパージャンクション(Super Junction)」という素子構造は、それぞれシリコン内の電界分布やチャネル幅、ドリフト領域の設計が異なるため、オン抵抗Rds (on)、耐圧、スイッチング特性、熱特性、製造コストといった性能面で異なるトレードオフを生みます。以下はそれぞれの構造がどのような特徴からどのような特性差になるのか解説します。
MOSFETの代表的な構造図(プレーナ/トレンチ, 高耐圧プレーナ/スーパージャンクション)
プレーナ(Planar)型
従来型の構造で、ゲートやチャネルがチップ表面に形成されており、電子の通り道のチャネルは横方向に形成されます。製造が比較的単純で、電界分布が素直なため耐アバランシェ性や耐久性が良い傾向がありますが、同じ耐圧クラスではセル密度やチャネル幅に限界があり、結果として単位面積当たりのオン抵抗Rds (on)は高めになります。低〜中電圧(例:~250V)や衝撃耐性が重要な用途で使われることが多いMOSFETになります。
プレーナ(Planar)型の基本構造
トレンチ(Trench)型
電子の通り道であるチャネルを、深い溝(トレンチ)の側面に形成することで、単位面積あたりのチャネル幅を拡大し、オン抵抗Rds (on)を大幅に低減できます。そのため低抵抗化と高効率化に優れ、低〜中電圧クラスの高性能スイッチに多用されます。ただしトレンチ構造はゲートとドレイン間(Miller)容量やゲート電荷の挙動が変わり、スイッチング時のMiller効果やスイッチング損失に影響を与えることがあります。またプレーナ型に比べ、ゲート電極をドリフト層までエッチングで穴をあける工程が加わるため、製造工程が複雑になります。
トレンチ(Trench)型の基本構造
スーパージャンクション(Super Junction:SJ)型
高耐圧化と低オン抵抗Rds (on)のトレードオフ(耐圧を上げると通常はオン抵抗Rds (on)が大きくなる=シリコン限界ともいわれている)を破るため、ドリフト領域を交互にp型・n型の柱(チャネルではなくドリフト部の電荷バランス)に分割して、電界分布を均一化する設計です。その結果、400V〜1700Vなど高電圧領域で非常に低いオン抵抗Rds (on)を実現できます。ただし製造上、高精度な電荷バランスが要求され、コストや歩留まりの面で難易度が上がります。スイッチング特性や回復特性(リカバリ)も従来型と異なる挙動を示すため、回路設計時にはこの特性の配慮が必要になります。
スーパージャンクション(SJ)型の基本構造
プレーナ/トレンチ/スーパージャンクション MOSFETの特長まとめ
プレーナ/トレンチ/スーパージャンクション 型の特長をまとめた機能概略を以下に示します。
| タイプ | プレーナ | トレンチ | スーパージャンクション |
|---|---|---|---|
| 概略図 |
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| 構造 | 横型(チャネル:横) | 縦型(チャネル:縦) | スーパージャンクション型 |
| 耐圧 | 〇 ~ 数100V程度 | △ ~100V程度 | ◎ 数100~1700 または2000V |
| 密度 | × 高密度化が困難 | ◎ 高密度化が可能 | ◎ 高密度化が可能 |
| オン抵抗 | △ 比較的高めになりがち (単位面積当たりが大きい) | 〇 Planar型に比べ大幅に小さい (低電圧では特に有利) | ◎ 非常に小さい (高電圧でも非常に小さい) |
| スイッチング 速度 | ドライブ側:△ 中庸 復帰特性:× 緩やか | ドライブ側:× Qgdやゲート電荷が大 復帰特性:△ 緩やか | ドライブ側:× Cossや寄生容量が大 復帰特性:△ ソフトリカバリが得にくい |
| 製造コスト | ◎ 歩留り良好 | 〇 中程度(大量生産効果では良好) | × 工程難易度が最も高い (歩留まり悪い) |
| 利点 | アバランシェ耐性・耐衝撃性能が良好、コスト面で有利。低周波・耐久性重視の用途に適しています。 | 単位面積あたりの低オン抵抗:Rds(on)化に優れ、低〜中電圧にたいして高効率。汎用高性能。 | 高耐圧領域でのオン抵抗:Rds(on)が非常に小さい。スイッチング電源や電力変換の高耐圧用途に向いている。 |
| 欠点 | 同耐圧ではオン抵抗:Rds(on)が高めとなり、効率重視の低電圧スイッチには不利。 | 高速スイッチング回路では ゲートの駆動 /スナバ設計 に注意が必要。 | 高コストで歩留まりが悪い。寄生容量やリカバリ時の挙動が設計デザイン上の課題になる。 |
機能概略比較表
各MOSFET構造の特長を深堀
ここからは、構造図を使って プレーナ/トレンチ/スーパージャンクション の動作の違いを見ていきます。
プレーナ型とトレンチ型の違い
プレーナ型は横型構造ともいわれているとおり、ウエハの表面にゲートを取り付ける構造になっています。一方、トレンチ型は縦型構造といわれているように、ウエハの中に向かって掘った縦溝にゲートを埋め込む構造になっています。
プレーナ型とトレンチ型の基本構造比較 1
それぞれの ソース と ゲート端子間に電圧(ゲート電圧)を印加すると電子の通り道であるチャネルが形成され、電流が流れるようになります。このチャネルは、プレーナ型は横方向に、一方のトレンチ型は縦方向に形成されます。このチャネルが形成される向きが最大の違いになります。
プレーナ型とトレンチ型の基本構造比較 2
チャネルが形成された状態でソースとドレイン端子間に電圧を印加するとドレインとソース端子間を電子が通ることができるようになり、FETの中を電流が流れるようになります。
プレーナ型とトレンチ型の基本構造比較 3
ここで、もう少し動作を深堀していきます。
プレーナ型
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利点:プレーナ構造では、ゲートを凹凸の少ない平坦面にできるため、安定した特性を維持できるのが特徴であり、また、低容量の高速スイッチングに適しています。MOSFETのドレインソース間電圧の耐圧が中~高耐圧(VDSSが約250V以上)では、縦型プレーナ構造の製品が多くなります。
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問題点:一方プレーナ型ではウエハの表面にチャネルが水平に形成されるため、チャネル長がセルサイズを制限します。チャネル長以下にセルサイズを小さくすることができないため、ひとつのセルサイズが大きくなります。
また、P層とN-ドリフト層の間に空乏層ができるため、ドレイン電流IDの通過経路を狭めてしまいます。この空乏層によってドレイン電流を制限するのはJFETの原理と同様で、プレーナ構造はオン抵抗Rds (on)を下げるためにセルを微細化していくと、JFET抵抗が増加してしまうため、セルの微細化が困難になってきます。
さらに、プレーナ構造のMOSFETの場合、耐圧を上げためにはドリフト層が厚くなるためオン抵抗Rds (on)が大きくなります。
プレーナ型の利点と問題点
トレンチ型
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利点:トレンチ構造ではチャネルが垂直に形成されているため、セルの微細化が可能となります。その結果、セルを沢山並べることができるため、オン抵抗Rds (on)を小さくすることができ、より多くの電流を流すことが可能となります。また、構造上、JFETが存在しませんので微細化に適しています。
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問題点:一方、トレンチ型は、ウエハの表面から溝(トレンチ)を掘り、ゲート電極を埋め込んだ構造をしているため、製造工程がプレーナ型に比較して難しくなり、歩留まりの悪化が起こりやすくなります。さらに高耐圧化に不向きのためMOSFETのドレインソース間電圧の耐圧が中~高耐圧(VDSSが約250V以上)では、縦型プレーナ構造の製品が多くなります。
トレンチ型の利点と問題点
高耐圧プレーナ型とスーパージャンクション型の違い
同様にプレーナ型とスーパージャンクション型の違いについても違いを見ていきます。
プレーナ構造は平面的にトランジスタを構成するため、耐圧を上げるとドリフト層が厚くなりオン抵抗Rds
(on)が増すという課題がありました。スーパージャンクション構造は縦型のpn接合を複数並べる構造で、これによって耐圧を維持しながらオン抵抗Rds (on)とゲート電荷量Qgの低減を実現しています。
*プレーナ構造の限界を超えるために開発されたのがスーパージャンクション構造になります。
高耐圧プレーナ型とスーパージャンクション型の基本構造比較 1
高耐圧プレーナ型では ソース・ドレイン 間に印加した電圧に応じて空乏層が広がっていき、これが耐圧を上げていく要素になります。空乏層の広がりは、空乏層の厚みとなりますので、MOSFETを高耐圧化していくとドリフト層を厚くする必要があり、オン抵抗Rds (on)を下げることが難しくなります。また、ドリフト層の不純物濃度を上げることでもオン抵抗Rds (on)を下げることができますが、不純物濃度を上げると空乏層が薄くなりますので耐圧を確保できません。そのため、高耐圧になるほどドリフト層の抵抗が大きくなり、オン抵抗Rds (on)が大きくなってしまいます。
高耐圧プレーナ型とスーパージャンクション型の基本構造比較 2
一方、スーパージャンクション構造では、オフ状態(ゲート電圧ゼロ)でソース・ドレイン間に高電圧が印加された際には、n型カラムとp型カラムの間のpn接合から空乏層が横方向に広がり、最終的にドリフト層全体が完全に空乏化(電荷がなくなる)します。これにより、高耐圧を確保できます。
また、ドリフト層の不純物濃度を5倍程度に上げることができ、耐圧を上げてもオン抵抗Rds
(on)を下げることができるようになります。
高耐圧プレーナ型とスーパージャンクション型の基本構造比較 3
スーパージャンクション型
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利点:スーパージャンクション構造では、チャネルが横に形成されるもののセルの微細化が可能となります。その結果、セルを高密度に配置し、オン抵抗Rds (on)を大幅に低減できます。また、前述したように、不純物濃度を上げることにより耐圧を高めたままオン抵抗Rds (on)を小さくすることができるため、大電流の伝送が可能になります。
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問題点:ただし、オン抵抗Rds (on)は低いものの出力容量Cossや寄生容量が比較的大きくなる傾向があり、スイッチング時のエネルギー(充放電損失)が増加する場合があります。また、ボディダイオード/リカバリ特性が従来構造と異なりますので、ソフトリカバリが得られにくい場合があり、回路設計には注意が必要になります。
スーパージャンクション型の利点と問題点
ST社製 MOSFETのメリットについて
ここではST社製MOSFETをご検討頂くときのメリット(MOSFET製品ラインナップ/長期供給保証)について解説します。
1.ST社のMOSFET製品は プレーナ型/トレンチ型/SJ型 とフルラインナップを取り揃えています
世の中のシリコンMOSFETでは、長年にわたる改善によりMOSFETとIGBTのプレーナ型構造が、より高性能なトレンチ構造やスーパージャンクション構造へと置き換わってきました。これは、電力密度の向上や省エネルギー化といった市場ニーズに応えるための必然的な流れと言えます。
ST社における MOSFET 製品も低電圧領域ではF1シリーズから最新のF9シリーズへ、高電圧領域ではスーパージャンクション構造のM2シリーズからM9シリーズへと世代を重ねるごとにオン抵抗Rds (on)の低減、スイッチング特性の改善、製品バラツキの抑制を継続的に進めてきました。
その結果、電圧レンジ・構造・用途に応じて最適なMOSFETを同一メーカー内で選定できるという大きなメリットが得られます。設計初期から量産、さらには次世代モデルへの展開においても、デバイス構造を大きく変えることなくスムーズな世代移行が可能な点は、回路資産の有効活用や再設計工数の削減といった観点からも大きな導入価値となります。
低電圧シリコンMOSFETのラインナップ
スーパージャンクション型のラインナップ
2.長期供給保証
ST社製 STPOWER SiC MOSFET、低電圧/高電圧シリコンMOSFET、IGBT、およびインテリジェント・パワー・モジュール(IPM)の大部分は、ST社の10年間の長期供給保証プログラムの対象製品として認定・公開されております。
長期供給へのコミットメント:以下はST社web記載の内容を参考として日本語訳したものです。
長期供給保証を表すロゴ表記
STMicroelectronicsは、プログラム対象製品に対して最低10年の耐用年限を定めています。
ご興味のある製品が現時点でプログラムの対象外の場合は、お近くの営業オフィスにお問い合わせください。10年間の供給コミットメントには、標準的なSTMicroelectronicsの供給終了通知ポリシー(PTN)に定められた通知期間が含まれます。 著しい生産量減少、技術や製造の変更があった場合、STMicroelectronicsは同等の製品、別の技術、または別の製造施設への切り替えを決定し、標準のSTMicroelectronics製品/プロセス変更ポリシー(PCN)を用いてこれをお客様に通知いたします。
ST社 長期供給保証のページ
まとめ
MOSFETは素子構造の違いによって、オン抵抗、スイッチング損失、EMI、熱特性、さらにはコスト構造まで大きく異なります。
各種FETの構造と動作原理の違いを正確に把握することが、回路条件や設計目標に最適なデバイスを短期間で選定するための重要なポイントとなります。
用途別の基本的な選定指針は以下のとおりです。
- 低電圧(例えば~100V)で最優先が低オン抵抗Rds (on)・高効率を狙う場合 → トレンチ型が第一候補
- 高耐圧(数百〜千V)で低損失が必須な場合 → スーパージャンクション型が有力
- 信頼性・耐アバランシェ性・簡便さ・低コスト重視の場合 → プレーナ型が適しています
なお、スイッチング速度評価は単に構造だけで決まらず、オン抵抗Rds (on)・ゲート電荷量Qg/Qgd・出力容量Coss・ダイオード回復特性の組合せで最終的な損失が決まります。そのためデータシートの単一指標だけでなく、複数の指標を総合的に比較、評価する必要があります。
一般的に良く使われる、FOM(性能指数)を表す式は以下となります。
- オン抵抗Rds (on) × ゲート容量Cg
- オン抵抗Rds (on) × ゲート電荷量Qg
どちらの式もMOSFET同士のスイッチング性能を簡易的に比較することが可能です。
MOSFETの選定や置き換えでお悩みの際は、ぜひお気軽に当社までお問い合わせください。
関連情報
- パワーMOSFET全般:Power MOSFETs - STマイクロエレクトロニクス
- トレンチ型MOSFET:N-channel MOSFETs (> 30V - 200V) - STマイクロエレクトロニクス
- スーパージャンクション型FET:Super-Junction MOSFETs (200V - 700V) - STマイクロエレクトロニクス
- 長期供給保証(7年):長期供給保証 - STマイクロエレクトロニクス
- 長期供給保証(10年)長期供給保証 - STマイクロエレクトロニクス







