量子化について
前回のADコンバーター技術コラムでは、アナログデータを時間軸で区切る標本化についてご紹介しました。
今回は、電圧方向に一定電圧で区切り、デジタルデータに変換する「量子化」についてご説明します。
電圧をデジタル化する場合には、ADコンバーターの構成上、2のN乗の数で区切る事になり、Nの事をビット数と呼びます。
今回はビット数を変えてみた時に出力データがどのように変化するかを見ていきます。
なお、標本化はアナログデータ周期に対して、サンプリング周期は1/8で統一しています。
1bitで量子化した場合
対象のアナログデータが0~5Vで変動するとして、ADコンバーターも同じ範囲を入力できるとします。
入力可能な範囲をフルスケールと呼びます。
1bit、2段階でデジタル化しますので5Vを2分割します。0~2.5V→0、2.5~5V→1とします。

元データの周期情報は正しいですが、細かい電圧やDuty("1"区間と"0"区間の割合)は変化して別波形になっています。そのため、bit数を増やしてみます。
2bitで量子化した場合
2bit、4段階でデジタル化しますので、5Vを4分割して1.25V刻みにします。
0~1.25V → 00、1.25~2.5V→01、2.5~3.75V→10、3.75~5V→11とします。

1bit→2bitに増やす事でかなり元の波形に近づいてきました。さらに1bit追加してみます。
3bitで量子化した場合
3bit、8段階でデジタル化しますので、5Vを8分割して0.625V刻みにします。
0~0.625V →
000、0.625~1.25V→001、1.25~1.875V→010、1.875~2.5V→011、2.5~3.125V→100
3.125~3.75V→101、3.75~4.375V→110、4.375~5V→111とします。

かなり元データに近い形になりました。
このように、ビット数を増やすごとに元のアナログデータに近づく事が分かります。
分解能とLSB(最小変化量)について
デジタルデータを何ビットで表すかを分解能といい、数字が大きいほど高精度にデータを再現できると言えます。
3bitの場合、5Vを8分割しますので、最小の変化量は5V/8=0.625Vとなります。
連続するアナログデータに対して、デジタルデータは最小0.625Vの変化を表現できる、それ以下の変化は同じデータとして扱う事になります。この最小変化量をLSB(Least
Significant Bit)と呼びます。
実際のADコンバーターの分解能例
今回は説明のために少ない分解能の例を示しましたが、実際は低精度のADCでも8bit程度はあり、ボリュームゾーンは12~16bitあたり、高精度なものは24bitや32bitなどの製品もあります。
フルスケール電圧を5Vとした場合、ビット数に対するLSBの代表例を記します。5/(2^ビット数)で計算されます。
分解能[bit] | LSB[V] |
---|---|
8 | 19m |
12 | 1.2m |
16 | 76u |
20 | 4.8u |
24 | 298n |
36 | 73p |
分解能を上げると指数関数でLSBが下がるのが分かるかと思います。単純に考えれば分解能は高い方が望ましいですが、サンプリング周波数と同様に分解能を上げると1データを表す桁数が増えますので、データ量が増加します。そのため、ADコンバーター自体の回路規模の増加や通信の高速化など、コストアップにつながります。
分解能とサンプリング周波数の関係
時間あたりのデータ取得量は分解能とサンプリング周波数の積算になる事も注意が必要です。
分解能とサンプリング周波数を振り分けた例を示します。
分解能 [bit] | サンプリング 周波数[ksps] | 1秒あたりの データ量[bit/s] |
---|---|---|
12 | 10 | 120000 |
12 | 100 | 1200000 |
24 | 10 | 240000 |
24 | 100 | 2400000 |
高分解能かつ高サンプリング周波数では、非常に多くのデータを取得することが分かります。
ADコンバーターの種類と選定
ADコンバーターにも種類があり、回路構成により高速化しやすくサンプリング周波数に特化したもの、ビット数を増やしやすく高分解能化しやすいものなど、さまざまな特色があります。
必要な用途に適したADコンバーターを選定することが重要です。
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