自動運転や電気自動車(EV)の普及により、自動車技術は急速に進化しています。これに伴い、搭載機器の高機能化・高性能化が進み、EMC(電磁両立性)規格への対応がますます重要となっています。
本コラムでは、自動車を取り巻くEMC環境の変化、最新の国際規格の動向、そして実際の測定方法について、エンジニアのみなさまに分かりやすく解説します。
自動車のEMC環境の変化
自動車の取り巻く環境変化の例
現代では無線通信の利用が急速に拡大し、自動車は走行中にさまざまな無線通信や電磁波の影響を受けるようになっています。さらに、環境性能や安全性、快適性を向上するために、自動車に搭載される電子制御技術は高度化しています。自動運転のために、車両には全方位にセンサーが搭載されるようになり、加えてEVの普及により、車両と充電設備の接続機会も増加しています。こうした技術革新と環境変化に対応するため、自動車には各種EMC規制への適合が強く求められています。
自動車を取り巻くさまざまな無線通信や電磁波イメージ
EMC国際規格の動向
自動車に関する主なEMC国際規格
自動車本体および搭載部品に関する主なEMC国際規格(CISPR※1およびISO※2)について、以下にまとめます。
| 試験 | 国際規格 | 印加点/測定点 | 試験周波数 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 実車試験 | EMI | 広帯域雑音判定 | CISPR12 | 10mか3mの距離で電界測定 | 30MHz~1GHz |
| 狭帯域雑音測定 | 10mか3mの距離で電界測定 | 30MHz~1GHz | |||
| 車載受信機保護 | CISPR25 | 自車アンテナの電圧測定 | 150KHz~2.5GHz | ||
| 低周波放射妨害 | CISPR36 | 3mの距離で磁界測定 | 150KHz~30MHz | ||
| EMS | 実車試験一般 | ISO11451-1 | ー | ー | |
| 車外放射源法 | ISO11451-2 | 車両に外部から印加 | 10KHz~18GHz | ||
| 可搬型送信機法 | ISO11451-3 | 可搬型送信機により印加 | 1.8MHz~5.85GHz | ||
| BCI法 | ISO11451-4 | ハーネスに印加 | 1MHz~400MHz | ||
| リバーブレーションチャンバー法 | ISO11451-5 | ハーネス/ECUに印加 | LUF(又は10kHz)~18GHz | ||
| 静電気放電試験 | ISO10605 | 人が接触可能部位に印加 | ー | ||
| 部品試験 | EMI | 車載受信機保護 | CISPR25 | 1mの距離で電界測定 伝導エミッション測定 | 150kHz~2.5GHz |
| EMS | 部品試験一般 | ISO11452-1 | ー | ー | |
| 電波暗室法(ALSE) | ISO11452-2 | ハーネス/ECUに印加 | 80MHz~18GHz | ||
| TEMセル法 | ISO11452-3 | ハーネス/ECUに印加 | 10KHz~200MHz | ||
| BCI法/TWC法 | ISO11452-4 | ハーネスに印加 | 1MHz~3GHz | ||
| ストリップライン法 | ISO11452-5 | ハーネス(とECU)に印加 | 10KHz~400MHz | ||
| 直接電力注入法(DPI) | ISO11452-7 | コネクタピンに印加 | 250KHz~400MHz | ||
| 低周波磁界 | ISO11452-8 | ECUに印加 | 15Hz~150KHz | ||
| 可搬型送信機 | ISO11452-9 | ハーネス/ECUに印加 | 26MHz~5.85GHz | ||
| 低周波伝導 | ISO11452-10 | ハーネスに印加 | 0Hz、15Hz~150kHz | ||
| リバーブレーションチャンバー法 | ISO11452-11 | ハーネス/ECUに印加 | LUF~18GHz | ||
| 静電気放電試験 | ISO10605 | ハーネス/ECUに印加 | ー | ||
| 試験一般 | ISO7637-1 | ー | ー | ||
| 伝導 | ISO7637-2 | 電源線にパルス印加/測定 | — | ||
EMC国際規格の一覧
※1 CISPR(シスプル):International Special Committee on Radio Interference(国際無線障害特別委員会)の略
※2 ISO : International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略
自動車EMC規格における試験周波数の拡大
近年、自動車の電子化や無線通信技術の進展に伴い、EMC試験の対象周波数帯が大きく変化しています。これは、ミリ波レーダーや5G通信の普及、さらには電動化やワイヤレス充電システムの導入によって、従来よりも広範な周波数帯での電磁環境適合性が求められるためです。以下では、高周波および低周波の試験周波数拡大について解説します。
◆高周波試験周波数の拡大
・イミュニティ(EMS)試験
ミリ波レーダーや5G通信の普及により、試験周波数は従来の1GHzから6GHzへと拡張されました。
一方で、試験品質を確保するため、試験時間が長くなるという課題も生じています。
・エミッション(EMI)試験
現状、実車のCISPR12では1GHzまでですが、他の製品委員会と同様に6GHzまで拡張する議論が始まっています。
◆低周波試験周波数の拡大
・ISO規格の動向
今後、さらに低い周波数帯への対応が進む見込みです。具体的には、2kHz~150kHzの周波数帯におけるEMC要件(電力変換装置によるスープラハーモニクスやAC電源ポートの伝導エミッションなど)が追加される予定です。
・ワイヤレス充電システム(WPT)
電界測定の必要性が高まっており、試験方法の見直しが進んでいます。
拡大されるEMC試験周波数(赤点線領域)
EMC測定法
高周波領域のEMC測定方法:ALSE法とリバブレーションチャンバー法
ALSE法とは
ALSEは Absorber Lined Shielded Enclosure
の略で、日本語では「電波暗室法」や「アンテナ照射法」と呼ばれます。電波暗室を用いてアンテナから電磁界を照射し、自動車や車載機器のイミュニティ試験(EMS)に用いられる代表的な測定方法で、ISO
11452-2規格に準拠しています。周波数範囲は最大18 GHzと高周波領域まで対応しています。
ALSE法では一方向からしか電磁波照射ができません。
リバブレーションチャンバー法とは
シールド室内の金属面反射とスタラーの回転により、試験領域内の電磁波を拡散させ、電界的に均質な試験環境を作ります。従来の一方向からの電磁波照射ではなく、あらゆる方向からの電磁波照射となり、実環境に近い条件で試験が可能です。また、試験時間も大幅に短縮できます。ISO
11452-11などで規定されています。周波数範囲は最大18 GHzと高周波領域まで対応しています。
ALSE法とリバブレーションチャンバー法は、いずれも高周波領域(最大18GHz)に対応したEMC測定法です。従来はALSE法が主流でしたが、自動車に多方向のセンサーが搭載されるようになった近年では、全方位からのEMC測定が求められるようになりました。
ALSE法では、一方向からしか電波照射できないため、EMCの全方向評価にはターンテーブルを使用する必要があるため、試験時間が長くなる課題がありました。これを解決する方法として、より効率的に自動車のEMC測定を行える、リバブレーションチャンバー法が開発されました。
-
ISO11452-2 ALSE法
(各方向測定の場合はターンテーブルを回転させて測定) -
ISO11452-11 リバブレーションチャンバー法
低周波領域のEMC試験規格化の動向
電動車両の普及に伴い、ワイヤレス充電システム(WPT)が開発段階から普及準備段階に移行しつつあります。これに伴い、低周波領域でのEMC評価の重要性が高まっています。従来のEMC試験は主に高周波領域を対象としていましたが、WPTでは数kHz~数十MHzの低周波帯での電界測定が不可欠となり、国際規格の整備が進められています。低周波領域である2kHz~30MHzの周波数帯は、WPTで使われる電力変換装置や、その動作によって発生する高調波(スープラハーモニクス)を評価するために重要です。こうした影響を正しく測定するため、今後、CISPR11では、低周波領域2kHz~30MHzを対象とした距離10mでのモノポールアンテナ測定が規格化される予定です。
モノポールアンテナ測定のシステムイメージ
距離10m円内の電界分布を測定
自動車EMC規格・測定法のまとめ
近年の自動車技術の急速な進化に対応するため、EMC対策の重要性がますます高まっています。EMCの測定範囲は低周波から高周波まで幅広く拡大し、全方向からの電磁波評価が必要になるなど、試験方法の高度化も進んでいます。エンジニアのみなさまには、最新動向を把握し、適切な対策を講じることが求められます。
当社では、多様化するEMCニーズに対応した各種対策製品をご提案いたします。また、EMC試験サイトのご紹介も可能です。ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください。
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