近年の半導体供給変動を経験した多くの設計現場では、供給リスクを前提した製品設計が常識になりつつあります。部品の代替可能性を高めるためには、パッケージの“互換性”を設計初期から見据えることが重要です。JEDEC標準に沿ったフットプリントやピン配置を選んでおけば、突発的な在庫不足でも別メーカー品へ差し替えやすく、リレイアウトや治具変更の負担を最小化できます。本コラムでは、一般名称(JEDEC標準名)とSTマイクロエレクトロニクス社(以下ST社)の関係を整理し、代表パッケージの強み・使い分け、BCPの観点での選び方を詳しく解説します。
なぜBCPが設計要件になるのか
昨今の半導体供給不安定化の教訓から、製品選定においてBCP(事業継続計画)を重視する傾向が急速に強まっています。特に、パッケージの互換性がない製品は代替が困難なため採用が見送られる事例が増加しています。互換性が確保されていれば、既存PCBのランドパターンや取付け治具、実装プロファイル、熱設計の再検証範囲を最小化できます。逆に専用パッケージに依存した設計は、代替選定の自由度が低く、再レイアウトや信頼性再試験による手戻りが大きくなります。
ST社では、JEDEC規格に準拠したパッケージ設計を推進し、他社製品との互換性を確保することで、ユーザーの設計自由度向上と安定供給を実現しています。特にパワー半導体分野では、物理的なフットプリントやピン配置の標準化により、設計変更や部品調達のリスクを低減できます。ここで、BCPの観点で部品採用側が重視する要件について整理します。
求められるBCPについて
BCP(事業継続計画)では、部品供給停止や納期遅延に対する「即時代替可能性」が重要になるため、半導体パッケージの互換性(物理的・電気的・プロセス的互換性)が特に重要です。一部の特殊機能を持った製品を除いて、単一ソースや専用パッケージ依存はサプライチェーンリスクが集中するため、代替可能なパッケージを前提に設計・購買を標準化する傾向が一般化しています。パッケージの他にも互換性が必要になる項目は多岐に渡りますが、代表的な項目と内容について以下で説明します。
1. フットプリント/ピン互換性
既存PCBに差し替え可能な標準フットプリントやピン配置(同一ランドパターンでの差替えができること)。
2. 電気的互換性
電源・グラウンド・入出力の電気特性(電圧レンジ、ピンの機能)が置き換え後も許容範囲内であること。
3. 熱・機械的互換性
放熱性能、リフロープロファイル、基板応力や高さ(コネクタ干渉)などが許容内であること。
4. 実装・検査互換性
既存の実装設備(実装機、リフロー炉、検査装置、治具)で追加投資なく扱えること。
5. 試験・信頼性データ
代替パッケージについての信頼性試験結果(HTOL、温度サイクル、湿度など)や認証データが提供されること。
6. ドキュメント/ライブラリ
製品データシート、3Dモデル、LGA/QFN等のパターンライブラリ、設計ガイドラインが整備されていること。
7. 多供給元の確保
同一仕様で複数ベンダーから供給可能、またはクロスリファレンス(相互互換部品表)が存在すること。
8. ライフサイクル保証
長期供給、事前通知(EOL/obsolescence)や代替品提供の約束。
9. ハンドリング条件の互換性
MSL(湿度敏感度レベル)や保管/輸送条件が現行ラインで受け入れ可能であること。
10. 規制準拠
RoHS、REACH等法規や顧客固有の規格に適合していること。
ST社パワー半導体の主要パッケージ一覧
ここではST社のパワー半導体(Si-MOSFET, SiC FET, GaN, Diode)にて、一部で使われている独自名称と、JEDEC標準名称との互換性について解説します。
この一覧表は、JEDEC標準名称とST社のパワー半導体の独自名称とを比較し、設計選定を迅速に行えるように整理しています。特にパッケージの互換性が一目で確認できるため、BCP観点からもST社製品のパッケージ選定目安として役立ちます。
JEDEC標準とST社パッケージ名称の相関
各パッケージの仕様と主な特徴について順番に解説していきます。
TO-220パッケージ
中電力のスイッチングやリニア制御に向く、最も馴染みのある汎用パッケージです。ネジ固定でヒートシンクに直結できるため、プロトタイプ段階でも熱の見通しを立てやすく、量産時も熱設計の再現性が高いのが利点です。JEDEC名はTO‑220、ST社の呼称も同様です。
使用例
ヒートシンク選定の自由度があり、筐体外の熱拡散が取りやすい構成のため、車載ECUの中電力スイッチ、産業機器のリニアレギュレータ、簡易的なローサイドスイッチなどで使用されます。
- 標準ピン数:3ピン
- 放熱性に優れ、ヒートシンク取り付けが可能
- 実装方式:スルーホール
- ST社製品名:TO-220
- JEDEC規格:TO-220
TO-247パッケージ
高電力のスイッチング用途(車載インバータ、産業モータ、DCリンク周辺)で採用頻度が高い大型パッケージです。
大型ヒートシンクに適合し、絶縁シートや絶縁ブッシュとの組み合わせで安全距離(クリープ距離)の確保もしやすいのが特徴です。ST社では標準のTO 247に加え、HiP247(派生形)やTO 247 long leads(長リード版)などのバリエーションもラインナップしています。4ピン版ではケルビン・ソースを独立させ、スイッチング損失やゲート駆動安定性を高める設計に向きます。
使用例
放熱と高電圧の安全性を両立しやすいのが強みのため、SiC FETを用いた高耐圧スイッチング、三相インバータのアーム、PFCのスイッチ素子などに用いられます。
- 標準ピン数:3ピンまたは4ピン
- 大型ヒートシンク対応
- 実装方式:スルーホール
- ST社製品名:TO-247
- JEDEC規格:TO-247
TO-252(DPAK)パッケージ
小型・低背の表面実装パッケージで高密度実装に向きます。ローサイドスイッチやDC/DCの同期整流など、基板銅面で熱を逃がす設計に適合します。JEDEC名はTO‑252、ST社での呼称はDPAKです。スルーホールを避けたいとき、高さ制限が厳しい筐体でも有利になります。
使用例
バッテリーマネジメントのスイッチング、車載ボディ制御のドライバ、産業電源の二次側整流などに採用されます。実装ラインの共通化が図りやすく、量産立ち上げ時に優位です。
- 標準ピン数:3ピン
- 小型・低背設計で基板実装性が高い
- 実装方式:SMD(表面実装)
- T社製品名:DPAK
- JEDEC規格:TO-252
TO-263(D2PAK)パッケージ
DPAKよりも熱スプレッダ面が広いため、高電流・高放熱が必要なスイッチングで有利です。大きめの銅面とサーマルビアを組み合わせることで、ヒートシンク無しでも基板側で温度を稼げる設計が可能です。JEDEC名はTO‑263、ST社での呼称はD2PAKとなります。筐体の高さ制約が厳しい製品でも、放熱を基板設計で取り回せる自由度があります。
使用例
実装設備の汎用性が高く、代替選定も容易です。通信基地局や産業電源の高電流整流、車載のパワー・スイッチング素子等に採用されます。
- 標準ピン数:3ピン
- 高電流・高放熱用途に最適
- 実装方式:SMD
- ST社製品名:D2PAK
- JEDEC規格:TO-263
パッケージ選定時の注意点
パッケージ選定時には、以下の点に注意が必要です。
- 既存基板のランドパターンとの互換性
- 実装設備(リフロー炉、実装機)との適合性
- 放熱設計(ヒートシンクの有無、基板面積)
- ピン配置や電気的特性の一致
- 信頼性試験データの有無
実装方式を跨いだ代替を想定する場合、外形互換だけでは不十分です。たとえばTO-247からD2PAKへの置き換えでは、熱流路(ヒートシンク直結 vs PCBスプレッダ)やクリープ距離の取り方が異なるため、電圧・熱設計の再評価が必要になります。リフロー条件、MSL、基板応力や高さ干渉など、実装・機械要件も再確認が必要です。
加えて、ピン機能の割り当て(電源・グランド・入出力)と電圧レンジ/スイッチング特性が許容範囲に収まるか、信頼性試験のデータ提供があるかも、BCPの観点では重要です。
各社の実装に関するアプリケーションノートや設計ガイドラインを活用し、設計チェックリストに組み込むとより安全に設計できます。
まとめ
ST社のパワー半導体は、JEDEC規格に準拠した多様なパッケージをラインアップしており、設計段階からBCP対策を意識した選定が可能です。パッケージ互換性を確認することで、サプライチェーンリスクの低減や設計効率化につながります。詳細な製品選定やサンプル手配をご希望の場合、お気軽に弊社ST社製品担当窓口までご連絡をお願い致します。
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