IPD(Intelligent Power Device)について解説します。高性能半導体パワースイッチとしての役割や特徴、MOSFETとの違いを詳しく紹介し、IPDを使用するメリットとデメリットを理解することで、適切な半導体スイッチ選びの参考になります。
自動車や家電製品など、多くの電子機器で重要な役割を果たす『IPD』についてご紹介いたします。IPDの正式名称は「Intelligent Power Device(インテリジェント・パワー・デバイス)」で、電気の流れをコントロールするための高性能半導体パワースイッチを指します。一般的に、半導体のスイッチ素子として思い浮かぶのはMOSFET(モスフェット)であり、これは「Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor」の略称です。
IPDはMOSFETとどのような点が異なるのでしょうか。本記事では、IPDの概要や特徴、IPDを使用することのメリットとデメリットについて詳しく解説します。また、MOSFETとの違いを理解することで、より適切な半導体スイッチを選ぶ手助けとなることを目指しています。
IPDとは?
IPDは、電力制御装置として一つのパッケージになった製品です。出力部にはMOSFETやIGBTといったパワーデバイス(=電力変換を行う装置)があり、さらにこれらをコントロールするための制御回路が1つのチップ、あるいは複数のチップから構成されています。
IPDとは、「Intelligent Power Device」の頭文字をとった略語で、メーカーによっては「スマートスイッチ(Smart Switch)」や「ハイサイド/ローサイドスイッチ(High-side/Low-side Switch)」と呼ばれたりもしています。これは、IPDに電流の流れをON/OFFするパワースイッチの機能があるためです。
『IPD』を意訳すると「インテリジェントな機能を持った電力制御装置」という意味になります。これは、自己保護機能を持ち、電気エネルギーを安全に処理できる制御装置であることを示しています。
また、IPDには、異常状態をマイコン(=小型のコンピュータ)などに通知する機能もあり、何か問題が発生した際にはこの機能によって解析が可能になります。
IPDの自己保護機能
IPDは、電気のトラブルを防ぐ機能を持っており、これを「自己保護機能」と呼びます。
電子回路に流れる電流が多すぎたり、スイッチの温度が高すぎたりすると、自動的に保護回路が働くようになっています。これによって、電流を遮断したり、過熱を防いだりすることが可能になり、IPD自体が壊れてしまうことを回避しています。
IPDの電力制御
IPDには、スイッチがOFFになったときに発生する電気エネルギーを吸収して安全に処理できる制御機能があります。たとえば、電気のスイッチが壊れて本来の方向とは違う方向に電流が流れてしまった場合でも、IPDは壊れずにスイッチとしての機能を保つことができます。これができるのは、この制御機能のおかげです。

IPDの特徴
IPDが半導体スイッチの一種であることは、すでにお伝えした通りです。しかし、IPDは同じ半導体スイッチであるMOSFET単体と比較すると、その機能には大きな違いがあります。MOSFETは構成回路で負荷がショートした場合、MOSFET自体が損傷し、故障に至ることがあります。
しかし、IPDには保護回路と電気エネルギーを吸収する回路が組み込まれているため、ショートしても損傷することなく、スイッチとしての機能を保つことができます。
では、過剰な電流の流れ込みを防いでくれるヒューズと比較してみましょう。
ヒューズは、電流が多く流れ込んできた場合、自身を犠牲にして物理的に電流の流れ込みを遮断する特徴を持っています。そのため、何か問題が発生した際には、ヒューズを交換して復帰させる必要があります。一方、IPDを半導体ヒューズとして用いた場合、過電流などの異常があれば、それを検知して電流の流れ込みを遮断します。こうした自己保護機能によってIPDの損傷は防がれるため、交換の必要がありません。
次に、電気回路のON/OFF切り替えを行う半導体リレーとしてはどうでしょうか。
たとえば、メカリレーと比較してみましょう。まず、メカリレーには、機械的な接点によってON/OFFの切り替えを行うという特徴があります。物理的に動作するため、スイッチ部分の寿命や信頼性への不安が少なからずあります。ところが、IPDの場合、機械的な接点がありません。物理的に動作するのとは異なり、壊れる心配が少ないのです。
また、動作時においても、メカリレーは機械音が発生しますが、IPDはそういうこともなく静かです。こうした特徴から、半導体リレーの面では、高寿命で高い信頼性があり、静音化を実現できたものだといえます。
IPDは、こうした特徴を備えながらも小型で軽量です。しかも、リフローはんだ実装にも対応が可能なことから、実装不良が発生しにくくなっています。
さまざまな特徴を持つIPDは、高い安全性と正確性を求められる次のような場面で使い勝手が良く、幅広く活用されています。

- 自動車の電子制御システム
- 産業機器の電子制御システム
IPDのデメリット
IPDの使用には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットがあります。
デメリットでいえば、一つは、コスト面です。IPDは半導体であるため、そうではないメカニカルリレーやメカニカルヒューズと比較すると、コストが高くなりやすい側面があります。ただし、IPDの全ての機能が必要になるケースはそう多くはないはずです。必要な機能だけを選別し、それらを持つIPDに絞ることでコスト削減が可能になります。
また、設計段階で再利用可能なブロックを作成しておくことで、結果的にコストを下げることができます。
次に、設計工数です。先に記したようなメカニカルな部品と比較して設計工数が多くなる可能性があります。というのも、IPDは、内部構造が複雑になっているため、基本的な機能はスイッチではあるものの、そこに付加機能を組み込んでいくため、これらの設計や統合に工数がかかってしまいます。
また、各ブロックが正確に機能するかどうか評価テストも必要です。やるべきことが多く、全体的に工数が多くなりやすいという結果を生んでいます。ただ、手をかけた分だけ高度な機能を確保できるため、さらに信頼性が高まります。その結果、大きなデメリットにはならないといえるのではないでしょうか。
最後に、制御不能のリスクのことをお伝えします。過電流に対しては保護機能が働きますが、定格で流れてくる電流に対しては保護機能が働きません。そのため、IPDの出力側の回路によっては、制御不能に陥るリスクがあります。
ただし、これに対してリスクを軽減する方法もあります。それは、アクティブクランプという回路を用いることです。
アクティブクランプとは、スイッチがOFFになったときに発生する“電気が逆方向に流れる力”を吸収して正しい方向に流し、スイッチが損傷するのを防ぐ回路です。この機能が働くことで、スイッチが予想していなかった動作をするリスクを軽減できます。
IPDにはいくつかのデメリットがありますが、それらにはすべて対処方法があるため、特別大きな問題にはならないとご理解ください。

まとめ
IPDは、電気の流れを制御し、自身を保護する機能と電気エネルギーを安全かつ効率的に処理できる高性能な半導体スイッチです。
このような特性から、IPDは多種多様な電子機器で使用されています。これらの機器では、通常のスイッチでは対応できない大きなエネルギーが発生することがあり、問題が発生した際には迅速に対処する必要があります。そのため、IPDのような特別なスイッチが求められています。
メリットやデメリットを含めて、どのような場面でIPDを使用するのが最適か分かりにくい場合は、ぜひネクスティ エレクトロニクスにお気軽にお問い合わせください。お客様の希望するIPDの使い方を考慮した選び方をお手伝いします。
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