ネクスティ エレクトロニクスの開発部隊による技術ブログになります。
当社取り扱い商材を活用したハードウェア、ソフトウェア開発の内容を発信していきたいと思います。
本記事では、AI学習モデルを実装したエッジAIシステムを用いて人の姿勢を検知するデモ機の構築事例をご紹介します。
本デモ機の構築にあたっては、STマイクロエレクトロニクス社製のAI学習モデル構築ツールNanoEdge AI Studioと、ToF測距センサーVL53L8CX、及びマイコンSTM32F401REを使用しています。
姿勢検知デモ機の開発背景
スマート家電市場では、人の挙動を客観的に把握したいというニーズが高まっており、人の姿勢の良し悪しを検知したいという要望も存在します。
その手段として、カメラを用いて情報を取得し、AI学習モデルをマイコンに実装する方法が考えられますが、プライバシーへの配慮やシステムコストが高くなる点が課題となります。
そこで今回は、STマイクロエレクトロニクス社製の赤外線ToFセンサーVL53L8CXと、小型マイコンSTM32F401REを組み合わせたエッジAIシステムにAI学習モデルを実装した低コストな姿勢検知デモ機を開発しました。
赤外線ToFセンサーは比較的安価であり、カメラを使用しないためプライバシーの問題も軽減できます。
また、STマイクロエレクトロニクス社製のNanoEdge AI
Studioを使用することで、比較的軽いAI学習モデルを作成でき、小型マイコン上にAI学習モデルを実装することで、システム全体として低コストな構成を実現しました。
本デモ機では、人が座った状態をToFセンサーで観測し、背筋がまっすぐか、曲がっているかをAI学習モデルによって検知することができます。
NanoEdge AI Studioとは
STマイクロエレクトロニクス社製のNanoEdge AI Studioは、AI学習モデルを構築し、ARM Cortex-Mマイコンに組み込むためのツールです。
ユーザーは、データサイエンスやAIに関する高度な知識がなくても、簡単なGUI操作によってAI学習モデルを構築することができます。
AI学習モデルの構築手法としては、「異常検出」「多値分類」「2値分類」「外挿」から選択でき、モデルの構築、評価を行った上で、マイコンに実装可能なライブラリーを生成できます。
また、あらかじめ大規模なデータセットを用意する必要がなく、少量のデータセットでも良好な結果が得られる点が特徴です。
NanoEdge AI StudioによるAI学習モデルの構築中の様子。
詳細は後述します。
ToF測距センサー VL53L8CH/VL53L8CXとは
STマイクロエレクトロニクス社製 VL53L8CH/VL53L8CX(以下代表してVL53L8CHと呼称します)は低電力で高性能な8 x
8マルチゾーン対応のTime-of-Flight(ToF)センサーであり、対角65°のFoVで最大400cmまでの測距を正確に行うよう設計されています。
STマイクロエレクトロニクスが特許を取得しているアルゴリズムにより、VL53L8CHは、64ゾーンの深度測定機能を用いてFoV内の複数の対象の距離を検出し追跡することができます。
VL53L8CHのVCSEL(半導体レーザーの一種)からは非可視域の940nm赤外光が放射されます。
このVL53L8CHは、目に安全なクラス1認証を受けています。
VL53L8CH ToF 測距センサー アプリケーション
VRヘッドマウントディスプレー
ゲーム & XR用コントローラー/周辺機器
ロボット&電動玩具
非接触スイッチ
VL53L8CH ToF センサーの主なメリット
- 小型 6.4mm x 3.0mm x 1.75mm
-
測定値をヒストグラム化することにより周辺ノイズを除去
(本機能はVL53L8CHのみの機能となります) - 長距離を高精度で測距可能(距離20㎝~4mの場合、条件により3%~8%の誤差)
- 広FoV (65°)
姿勢検知デモ機の構築
今回は、VL53L8CXとSTM32F401REから構成される評価ボードP-NUCLEO-53L8A1を使用してエッジAIシステムのデモ機を構築しました。
本評価ボードを使用することで、AI学習モデルを構築するためのデータ採取や、AI学習モデルの実装を容易に行うことができます。
以下、デモ機構築の手順を説明します。
①学習データと確認データを採取
以下の手順でAI学習モデル構築のための学習データと確認データを採取しました。
-
(1) 背筋をまっすぐ伸ばした状態で、上半身をやや前後左右に揺らしながらデータを採取します。
十分なデータパターンを取得するため、今回は3分間データを採取しました。
(データはCSV形式でダンプされます) -
(2) 背筋を曲げて猫背にした状態で、上半身をやや前後左右に揺らしながら3分間データを採取します。
(データはCSV形式でダンプされます) -
(3)上記1および2の作業を2回繰り返します。
それぞれが学習データおよび確認データとなります。 -
(4) 採取したデータを、NanoEdge AI Studioが読み込めるデータ形式に変換します。
-
学習データセット
(「背筋まっすぐ」「猫背」の2ファイル) -
確認データセット
(「背筋まっすぐ」「猫背」の2ファイル) -
背筋まっすぐ
-
猫背
最終的に、以下のデータセットを作成しました。
②NanoEdge AI Studio の 起動、学習モデルの選択
NanoEdge AI Studioを起動します(左図参照)。
画面左上に「+ NEW PROJECT」ボタンが表示されるので、これをクリックします。
AI学習モデル構築手法として以下の4個の選択が表示されます(左図参照)。
今回は「Detect Anomalies(異常検知)」を選択しました。
- Detect Anomalies(異常検知)
- Classify(多値分類)
- Detect outliers(外れ値検知)
- Extrapolate(外挿)
以下の5段階のステップが表示されます(左図参照)。
各アイコンをクリックすることで、それぞれのステップへ移動できます。
- 1. Project Settings
- 2. Signals
- 3. Benchmark
- 4. Validation
- 5. Deployment
以下、各ステップで実施した作業内容について説明します。
③ 1. Project Setting : デバイス、およびマイコンを選択
ここでは今回使用するToF測距センサーVL53L8CXと、マイコンSTM32F401REを選択します。
④ 2. Setting : 学習データをセット
①で用意した学習データセットを読み込ませます。
⑤ 3. Benchmark : AI学習モデル構築
AI学習モデルを構築します。NanoEdge AI Studioでは、複数のライブラリーを自動的に試行してAI学習モデルを構築し、性能評価結果に基づいてランキング形式でAI学習モデルをリストアップします。
各AI学習モデルの性能の詳細は、GUI上でレポートとして確認できます。
以下に、今回もっとも性能が高かったAI学習モデル(Best Library)のレポート表示例を示します。
⑥ 4. Validation : AI学習モデルを評価
⑤で構築したAI学習モデルのうち、Best Libraryを中心に複数のAI学習モデルを選択し、①で用意した確認データセットを用いて評価を行います。
評価結果に基づき、最終的に使用するAI学習モデルを選択します。
以下に、今回選択したAI学習モデルの評価結果を示します。
[学習データセットによる評価結果]
Balanced Accuracy:87.2%
[確認データセットによる評価結果]
Balanced Accuracy:87.7%
⑦ 5. Deployment : Cソース組込み用のライブラリーの出力
⑥で選択したAI学習モデルについて、Cソースに組み込み可能なライブラリーとして出力します。
⑧ライブラリーをマイコンに実装し、エッジAIシステムのデモ機が完成
⑦で生成したライブラリーをP-NUCLEO-53L8A1のマイコンSTM32F401REに実装しました。
①から⑧までの作業に要する時間は3時間程度です。
以下にデモ機が動作中の様子を以下に示します。
背筋の状態の相違が明瞭に検出されています。
-
背筋まっすぐ
-
猫背
まとめ
今回、NanoEdge AI StudioとVL53L8CXとSTM32F401REを使用する事により、姿勢検知用のAI学習モデルを短時間で構築・評価できることを確認しました。
本開発では、実機環境での確認や構成検討を進める中で、いくつかの調整や検討を要する場面もありましたが、そうしたプロセスを通じて、AI学習モデルを効率的に構築・評価するための知見を得ることができました。
本記事で紹介した方法は、AI学習モデルを実装したデモ機を迅速に開発・評価したい場合に有効なアプローチの一つです。
ネクスティ エレクトロニクスの取り組み
株式会社ネクスティ エレクトロニクスは、豊田通商グループのエレクトロニクス事業の中核企業として、カーエレクトロニクスの分野においてトップクラスの規模を誇ります。技術と商材を核として、幅広い分野でお客さまや世の中のニーズに応え、
社会課題のソリューションを提供し、より善き社会の実現に貢献していきます。
また、ネクスティ エレクトロニクスの開発部隊では、取り扱い商材を活用した自社開発、受託開発(ハードウェア、ソフトウェア開発)なども実施しております。
加えて、AI技術の今後の更なる発展を見据え、AI関連技術の深耕と吸収に継続的に取り組んでおり、AI技術に関してハードウェア、ソフトウェア双方の面で、お客様に十分お応えできる知見を有しております。
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