Zigbee 4.0、Sub GHz、Matter連携から読み解く無線実装
無線化が進む産業機器やECU(Electronic Control
Unit)では、センサー増加と配線削減が同時に求められます。結果として、無線方式の選定が信頼性(通信途絶・再送)や保守性(電池交換・配線工数)に直結します。分散配置や電池駆動が前提になると、省電力で長期間動くことに加え、経路障害時も自動で迂回できるメッシュが求められます。
これらの要件をバランス良く満たし、スマートホーム〜商用ビルまで長期の実績を持つのがZigbeeです。2025年のZigbee
4.0では、セキュリティ、Sub‑GHz運用、混雑環境での安定性が強化され、産業用途でも再注目されています。
一方で、同じIEEE
802.15.4をベースとしたIPベースの相互運用規格のMatterやIPメッシュ対応のThreadが普及し始めたことで、非IPメッシュであるZigbeeを置き換えるべきか共存させるべきかという検討が増えています。
本稿では、最新の市場動向からプロトコル強化点まで、2025–2026年にECUエンジニアが知っておきたいZigbeeの“本質”
を初心者にもわかりやすく整理します。
1. なぜ今Zigbeeが再評価されているのか — 市場動向の変化
まず押さえておくべきは、Zigbee再評価の理由は電池駆動・大規模化・干渉環境の三点に集約されます。背景はスマートホームの拡大です。照明・空調・セキュリティでは数年単位の電池寿命と安定通信が必須です。中継で電力負担を分散できる省電力メッシュ「Zigbee」は、その要件に合致します。
世界的な市場調査では、Zigbee関連市場は2025年に51.6億ドル、2030年には69.1億ドルに拡大すると予測されています。スマートホーム普及に伴い実装事例・認証・ツール群が揃い、導入リスクを抑えられる点も評価されています。
近年は家庭内を超え、次に示すような大規模で高信頼が求められる領域へと拡大しています。
- スマートビルの照明・空調制御
- 工場の環境モニタリング
- エネルギー監視やスマートメーター
- スマートシティのセンサー網
Zigbeeは数百ノード規模の運用に対応します。ノード障害が発生しても自動で迂回する自己修復によって通信経路を維持でき、大規模ネットワークで強みを発揮します。
2. ZigbeeとMatterの関係 — “置き換え”ではなく“共存”
ここでは、ZigbeeとMatterの関係性を整理します。近年の無線規格選定では、両者を競合として扱うべきか、共存前提で捉えるべきかが検討ポイントになります。
Matterは、旧称CHIP(Connected Home
over IP)として始まったIPベースのアプリケーション層規格
です。異なるメーカーの機器を共通プロトコルで統一的に制御できる点が特徴で、家庭用だけでなく産業用の小規模デバイス連携にも影響が広がりつつあります。Matter対応デバイスは、普段の通信にThread(IPメッシュ)やWi‑Fiを利用し、初期セットアップ時はBluetooth
LEでスマートフォンなどと接続します。ThreadはZigbeeと同じIEEE 802.15.4無線を使いながら、IPベースの仕組みにより既存ネットワークと統合しやすい点が特長です。
一方、Zigbeeは同じ IEEE
802.15.4無線を使いながらも、ネットワーク層からアプリケーション層までを自前のスタックで構成する非IP型メッシュです。
両者はしばしば競合と捉えられますが、設計思想と得意領域が異なります。そのため、現実的には共存運用が主流です。とくに産業領域ではZigbeeはメッシュ基盤として、Matterは統合UIやクラウド連携側で機能を分担するケースが多く見られます。
共同運用されるZigbeeとMatter
つまり、産業領域ではメッシュ基盤としてのZigbee、コンシューマ領域では統合プロトコルとしてのMatterという役割分担が現実的です。
3. Zigbee 4.0(2025)で何が変わったのか
Zigbee 4.0は2025年発表の大規模アップデートで、セキュリティ、Sub‑GHz、Dense
Network最適化、互換性といった、産業用途でボトルネックになりやすい領域が重点的に強化されています。
アップデートされたポイントを初心者向けに解説します。
① セキュリティ強化(鍵管理・暗号化・デバイス認証)
IoTの世界では、不正接続やデータ改ざんを防ぐ仕組みが必須です。Zigbee 4.0では暗号化方式が強化され、鍵管理・デバイス認証が見直されました。これにより、産業IoTやECUでも要求されるセキュリティ基準を満たしやすくなりました。
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暗号機能の柔軟性(Cryptographic Agility) 暗号アルゴリズムを将来の脅威や標準変更に応じて柔軟に切り替えられる仕組みです。システム全体を置き換えずに安全性を維持・強化できるのが特徴です。 |
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Dynamic Link KeyによるECDHベースの認証 デバイス同士が毎回新しいリンクキーをECDH(楕円曲線 Diffie-Hellman)で生成し、安全な鍵共有と認証を実現します。これにより盗聴やMITM攻撃への耐性が向上します。 |
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Device Interviewによるデバイス検証 接続前に互いのデバイス情報や能力を交換し、本物の正しい機器かどうかを確認する仕組みです。異常な振る舞いをする不正デバイスを排除することに役立ちます。 |
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Network-wide Encryptionの強化とSecure Channelの追加 ネットワーク全体で統一された暗号化を適用し、デバイス間通信の一貫した保護を実現します。さらにSecure Channelにより、重要データをより強固に守る安全な通信路を確立します。 |
② Suzi(Sub-GHz:800/900MHz)の公式化
Zigbee 4.0の中で特に注目されているのが、Sub‑GHz(Suzi)の正式サポートです。
従来のZigbeeは2.4GHz帯を主に利用していました。Zigbee
4.0ではこれに加えて、欧州800MHz・北米900MHz帯のSub‑GHz運用(Suzi)が正式に規定されました。
Sub‑GHz
は電波の減衰が小さく、壁越え性能が高いほか、障害物の多い工場でも届きやすいという特徴があります。これにより、センサーの設置自由度や無線化の成功率が大きく向上します。
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長距離通信の大幅強化 Sub‑GHz は2.4GHzに比べて減衰が小さく、屋外・倉庫・工場などで通信範囲を拡大できます。Zigbee 4.0のSuzi PHYは、大規模敷地やマルチ階層構造でも安定通信を実現します。 |
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建物・壁の貫通性が向上 Sub‑GHzは壁越え性能が高く、鉄筋コンクリートの建物でも通信品質が安定します。産業現場のように遮蔽物が多い環境でも、無線化による配線削減が容易です。 |
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干渉の少ない周波数帯で安定化 2.4GHzはWi-FiやBluetooth LEと混雑する帯域です。Sub-GHzは比較的利用が少なく、干渉が減り、IoTネットワークの信頼性が向上します。 |
③ Zigbee 3.0 / Smart Energy との完全後方互換
既存デバイスを更新せずに使い続けられるため、長期運用が前提となるECU(エッジ制御装置)や産業IoTで交換コストや停止リスクの最小化に役立ちます。
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Zigbee 3.0/Smart Energyと完全後方互換 既存デバイスがそのまま動く点は、ECUや産業IoTで求められる長期運用を保証します。 |
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統一ネットワークによるスムーズな共存 Zigbee 3.0 / Smart EnergyとZigbee 4.0が単一ネットワークで混在可能です。 |
④ Dense Network最適化(混雑環境での性能向上)
数百ノードが動作する密集環境では、通信衝突や遅延が発生しやすく、従来のメッシュ方式ではボトルネックになりがちでした。Zigbee 4.0では混雑環境下での衝突回避・再送制御が最適化され、ノード密度が高い工場でも安定したスループットが得られます。
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メッセージ再送処理の標準化 データ転送が失敗した場合に備えて、メッセージの再送処理を標準化します。 |
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スリープ端末向けデータポーリング改善 スリープ端末のデータポーリングを効率化し、通信を改善します。 |
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APS ACKの強化 データ転送の確認応答であるAPS ACKの信頼性を向上します。 |
4. ECU・産業機器開発でZigbeeが選ばれる理由
ECU開発では、通信方式の選定と実装品質がシステム全体の信頼性を左右します。Zigbeeが産業機器やECUで長年使われてきた理由は、実装現場で特に効果が大きい特性を備えているためです。
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長期運用に耐える省電力設計 Zigbeeはメッシュ構造によって通信負荷を分散でき、各ノードは低消費電力で長期間稼働できます。 |
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産業環境でも安定しやすい 周囲のノイズや障害物に影響されにくい特性があり、複数経路で通信できるメッシュ構造が信頼性を底上げします。 |
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Zigbee2MQTTによる開発効率向上 近年、開発現場ではオープンソースの“Zigbee2MQTT”を利用してPoCや試作を迅速に進めるケースが増えています。MQTTベースのためクラウド接続が容易で、センサー数が多いプロジェクトでも扱いやすい点が評価されています。 |
特にZigbee2MQTTによる開発は、下記3つの理由により手軽さと柔軟性から、B2B用途でも使われる定番ツールになりつつあります。
1.ブランド混在環境の統合が容易
メーカーの異なるZigbeeデバイスを単一のMQTTトピック体系で統合でき、システム構築が容易になります。
2.プロトタイプ作成が早い
Zigbee2MQTTにより、MQTTベースのアプリケーションと即座に連携でき、プロトタイプを短期間で構築できます。
3.MQTTベースでクラウド連携が簡単
MQTTを介してクラウドと容易に連携でき、クラウド側の可視化やデータ解析基盤をそのまま利用できます。
まとめ:Zigbeeは2025–2026年も“堅実な選択肢”
Zigbee 4.0によって、
- セキュリティ
- Sub GHz
- 後方互換性
- 大規模ネットワーク運用性
といった産業用途に必要な要素が強化され、適用領域が大きく広がりました。
急速に無線化が進む工場やインフラ領域では、Zigbeeは依然として“実用性の高い無線規格” です。既存資産の継続運用や大規模・長期運用が前提のECU開発では、Zigbeeは引き続き有力な選択肢です。Sub‑GHzのカバレッジ検証やZigbee2MQTTによるPoCから着手すると、導入判断が早まります。
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