hero画像
技術コラム
LTpowerCAD技術コラム

LTpowerCADで始めるスマート電源設計術

目次

はじめに

電源回路の設計は、半導体デバイスや周辺部品の選定、回路定数の決定、安定性や効率の検証など、多くの知識と経験が求められる分野です。最適な部品選びや設計パラメーターの調整に悩むことも多いのではないでしょうか。
本記事では、アナログ・デバイセズ(ADI)社が無償で提供する電源設計支援ツール「LTPowerCAD」をご紹介します。
LTPowerCADは、入力電圧や出力電圧、出力電流などの基本的な要求仕様を入力するだけで、最適なADI製電源ICや周辺部品を自動で選定し、推奨される回路定数や設計パラメーターを提示してくれる便利なツールです。さらに、効率や損失、安定性などの性能指標をグラフで確認しながら設計を最適化できるため、初心者でも安心して電源回路設計に取り組むことができます。
また、設計した回路はワンクリックでLTspice用の回路図データとしてエクスポートすることができ、詳細な動作シミュレーションも簡単に実現できます。
設計の初期段階である半導体デバイスの選定から詳細設計につながるシミュレーションまでをシームレスにサポートできるため、設計工数の削減にも期待ができる大変便利なツールです。
本記事では、LTPowerCADの基本的な使い方や、特長をできるだけ簡単に解説します。
これから電源回路設計に挑戦する方や、設計効率を高めたい方はぜひ参考にしてください。

外部リンク

設計初心者にもやさしい!LTpowerCADの主な機能と特長

この章では、LTpowerCADがどのような設計支援ツールなのか、主な機能や特長について紹介します。電源ICの選定から回路設計、シミュレーション連携まで、設計初心者でも扱いやすいポイントを中心に、LTpowerCADの魅力をわかりやすく解説します。

電源ICの選定ガイド

設計者が最初に行うのは入力電圧、出力電圧、出力電流などの要求仕様を入力することだけです。
入力した条件からLTpowerCADがリストアップした製品の中から選択するだけで、参考回路や周辺部品を自動的に選定してくれます。
これにより、設計者はターゲットとなる製品の発見を簡単に行うことができ、かつ初期段階で周辺回路規模を見積もりやすくなります。
リストアップされた製品のリリース年や効率、ピン配置図など多くの情報を一括で確認できるので、スペックが類似した複数の製品があっても差別化しやすくなるメリットがあります。

設計パラメータを最適化

LTpowerCADでは、データシートやアプリケーションノート、デモボードに基づいた参考回路が提供されます。参考回路にはコンデンサー、インダクタ、抵抗、ダイオードなど主要な部品の接続方法、推奨値が含まれています。
さらにLTpowerCADでは、提示された回路の効率カーブや位相余裕、過渡応答性などの性能指標を表示してくれます。つまり、設計者は電源ICを選択するだけで、LTpowerCADはノウハウのつまった参考回路を提供し、この参考回路を設計者が用途に合わせて部品の値や回路構成を調整するための「スタートポイント」として活用できます。
提供される参考回路では、部品の値を設計者が変更することが可能で、この定数変更の結果はリアルタイムに性能指標に反映されます。ここでいうリアルタイムとは、周辺部品の定数を変更すると、即座に性能指標も更新されることを意味しています。設計者はどこの部品を変更すれば、特性がどのように変わるかを瞬時に判断することができるので、初期設計を効率的に行うことができます。

設計レポートの作成

ここで行った回路定数の調整や特性グラフなどのデータはレポートとして出力することができます。
また、設計した内容を保存しておくこともできるので、設計のやり直し、再調整も簡単に行えます。
特にまだ設計に不慣れな方にとっては、調整前の状態に戻したくなる場面は少なくありません。そのような場面でもレポートや設計情報をこまめに保存しておくことで、手戻りにかかる時間を大幅に短縮できます。

シミュレーションへの接続

全ての製品に対応しているわけではありませんが、LTpowerCADは設計(設定)した回路をワンクリックでLTspice用の回路図ファイルにエクスポートする機能を持っています。
設計した回路をシミュレーション用に一から書き起こす必要がなくなり、定数の再入力などにかかる時間を削減できるほか、人為的なミスをなくすことも期待できます。LTspiceで回路を仕様に合わせて作りこんだり、回路動作を詳細にシミュレーションすることが容易となり、設計ミスやパラメーターの不適合を早期に発見することができるなど、設計に不慣れな方により効率的な設計を提供してくれます。
LTspiceに接続することで負荷となる回路や複数の電源回路と組み合わせた検証がしやすくなります。

LTpowerCADの基本操作ガイド:設計の流れをつかもう

LTpowerCADでは設計をサポートする多くの機能が盛り込まれています。本記事ではそのすべての操作手順を詳細に解説することはできません。そこで、今回は新規にスイッチング電源回路を検討するシーンを想定し、設計者がよく利用する主な機能ごとに、基本的な使い方や操作の流れ、押さえておきたいポイントを簡単にご紹介します。初めてLTpowerCADを使う方でも、全体像をつかみやすいようにまとめていますので、まずは各機能の概要と活用方法を把握する際の参考にしてください。
本記事では、すでにLTpowerCADがPCにインストールされていることを前提として説明していきます。

LTpowerCADの立ち上げ

デスクトップやスタートメニューからLTpowerCADを起動します。
起動すると図1のようにTop画面が立ち上がります。

図1 LTpowerCAD Top画面

設計条件の入力とデバイス選定

まず、電源設計の基本的な要求仕様を入力し、実際に設計を検討する製品を選択する方法を説明します。
図1のLTpowerCADのトップ画面の左上のアイコン「Supply Design」をクリックします。
次の図2のように新しいウィンドウが開きます。
画面の中央に4つのタブがありますが、今回はスイッチング電源の検討を想定しているので、「PWM Converters」をクリックして選択した状態の画面になっています。
例えば、LDOの検討であれば、「LDOs」のタブをクリックすると、表示される内容が変わってきますので、試してみてください。

図2 Supply Design画面

図2の上半分には、設計仕様を入力したり、電源ICの選定条件を指定する画面、選択された製品の参考回路やピン配置などの情報が表示されています。
下半分には設定された条件にあった電源ICが一覧表示されます。
図2で示したウインドウの左上に「Converter Specification」という欄があります。
Converter Specificationの欄で水色にハイライトされたリストに設計者が設計仕様を記入していきます。
全て記入する必要はありませんが、未記入の項目がある場合非常にたくさんの製品がピックアップされる可能性がある為、できる限り設計条件を事前に明確にしておくほうがいいでしょう。

図3 設計者の入力項目

次に、図3の中央にコンバーターのトポロジーとタイプを選択する画面があります。リストアップするデバイスのトポロジーとタイプを指定することができます。トポロジーは、図4のように9種類から選択、デバイスのタイプは図5のように4種類から選択することができます。
ALLを選択すれば、全ての製品の中からピックアップしてくれますが、最適な製品を見つけるためにはシステムに合わせて指定しておくことがおすすめです。

  • 図4 トポロジー選択

  • 図5 タイプ選択

さらに、図3の右側にある「Optional Features」のチェックボックスでは、例えばEnableなどの追加機能やLow EMIなど製品の特長を選択することができます。これによりシステム要求にのっとったデバイスを検索することができるようになります。
ここまで条件を指定したら、「Converter Specification」内の「Search Parts」ボタンをクリックします。(図6)

図6 部品検索の開始

すると、図7のように画面下半分には指定した条件に当てはまる製品がピックアップされ、リリースされた年や効率などさまざまな情報を一覧表示することができます。
この中から設計を進めたい製品を選択して、次のステップに進みます。リストのStart LTpowerCAD Design Toolをクリックすると図8のように選択した製品の設計画面に切り替わります。

図7 デバイスリスト

図8 参考回路設計画面

設計パラメータの調整

切り替わった設計画面(図8)では、選択した製品の参考回路例が大きく表示されています。
前のページで記載した設計仕様から自動的に定数や部品型番を選定してくれています。水色のリスト部分は設計者が入力することができる設計値で、現在入力されている定数から計算された結果が薄い黄色のリスト部分に反映されています。
設計条件は前のページから引き継いでいますが、図8ではスイッチング周波数が1987kHz、出力電圧が4.962Vとなっています。図6ではスイッチング周波数は2000kHz、出力電圧は5.0Vとしていたはずですが計算誤差でしょうか?
いいえ、これはスイッチング周波数や出力電圧を決める回路の抵抗を最も設計値に近い実際のチップ抵抗値を自動で選定している為です。参考回路では、1つの抵抗で表現されている為、より厳密に設定したい場合は手入力の上、最終的な回路では複数の抵抗に分割して最適化する必要があることがわかります。

次に、推奨設計値から変更することを想定します。インダクタの推奨値は0.59uHということですが、例えば既存の回路で使用している0.22uHの部品に置き換えられるのか検討するケースを想定して、図9の画面のインダクタンス値L1を0.22uHに変更してみます。
すると、インダクタのリップル電流IL Peak @ nom Vinが製品仕様の最大負荷の1.3倍も大きくなってしまい、これは非推奨であるとL1を変更すると同時にリアルタイムで警告されます。基本的な性能がリアルタイムに反映される為、誤入力や設計ミスを防ぐことができます。

図9 インダクタの設定

また、設計画面の「Loss Estimate & Break Down」タブをクリックすると下の図10のように効率カーブのグラフを確認することができます。ここでも水色のリスト部分は設計者が入力することができるので、効率を確認しながら定数を調整することができます。

図10 効率特性グラフページ

「Loop Comp. & Load Transient」タブをクリックすれば下の図11のようにボーデ線図や負荷応答波形も確認することができます。
負荷応答特性では、Load step条件を設定することで、さまざまな条件で負荷変動を確認することができます。
ここで説明したように、定数の調整プロセスは非常に簡単です。設計者が仕様を入力し、製品を選択した時点で設計の「スタートポイント」が自動的に生成されるからです。
位相余裕、負荷応答など一括して確認することができるため、設計者はどの部分を緩和、または厳格化するのかを念頭に定数を調整することができます。

図11 ボーデ線図&過渡応答特性ページ

最後に調整した結果をサマリーとして確認することができます。「Power Design Summary」のタブをクリックすると下の図12のように基本的な設計条件とBOMリストがまとめられています。
BOMから実装面積の合計を推定しています。あくまで参考回路での条件付きですが、ポテンシャルを確認することができます。

図12 設計サマリーページ

4つのタブの内容をSummary Reportとして出力することができます。
LTpowerCADのFileを選択し、「Print Summary Report」をクリック、プリンターの選択でMicrosoft Print to PDFを選択すればPDF形式で保存することができます。また、この設計情報を保存したい場合、図のように「Save As」をクリックし、ファイルを保存します。この時ファイルの拡張子は「.ltpc」となります。

  • 図13 サマリーレポート出力

  • 図14 設計データの保存

シミュレーションへの移行

電源ICの選定、部品定数の調整を経てでき上がった設計情報は、そのままLTspiceの回路(.asc)へとエクスポートすることができます。
下の図15のようにLTspiceのアイコンをクリックします。
ファイル名は任意に設定することができ、デフォルトではLTpowerCADインストール時に作成されたフォルダーの下の"Exported"というフォルダーに保存されます。

図15 LTspiceへのエクスポート

LTpowerCADを使って、特性の確認をしながら見えてくる課題に対して、回路の定数調整を繰り返し行います。
一緒に電源の要求仕様が妥当であるのかを考えてみることも重要なポイントです。
条件をそろえたり、逆に条件を変更することも簡単ですので、LTpowerCADを使うことで設計の効率を高めることができると考えます。

まとめ

LTpowerCADは、電源ICの選定から回路設計、性能評価、シミュレーション連携まで、電源設計に必要な一連の作業をシームレスに行える設計支援ツールです。特に、設計仕様を入力するだけで参考回路が提示され、部品定数の自動計算や安定性のグラフ表示など、設計者の負担を大きく軽減してくれる点は大きな魅力です。
操作も直感的で、複雑な設定や専門的な知識がなくても、基本的な電源設計をすぐに始められるよう工夫されています。LTspiceとの連携により、設計した回路の動作確認もスムーズに行えるため、設計の精度と効率を両立できます。
電源設計に不安を感じている方や、これから本格的に取り組みたいと考えている方にとって、LTpowerCADは非常に心強いツールです。まずは一度インストールして触ってみることをおすすめします。実際に使ってみることで、その便利さと設計支援力を実感できるはずです。

関連製品情報