無線通信分野では、アンテナは必要不可欠な技術であり、用途、周波数においてさまざまなアンテナが存在します。
本コラムは、「アンテナの基本」、「アレイアンテナ」、「パターンアンテナの設計手順」の3部構成でまとめたものとなり、今回は「アレイアンテナ」について説明します。
アレイアンテナの基本構成
複数個の放射素子を直線状、平面状、あるいは曲面状などに配列し、その全部あるいは一部を励振し、励振電流(電圧)の振幅と位相を制御して所望の放射指向性(放射パターン)を得るアンテナをアレイアンテナといいます。
- 基本構成
-図1に示すように、アレイアンテナの構成は複数個配列される素子アンテナと、素子アンテナを励振する給電回路によって構成されます。
-素子アンテナとしては、ダイポールアンテナなどの線状アンテナや、スロットアンテナ、マイクロストリップアンテナなどの低利得でビーム幅の広いアンテナが広く用いられます。
‐給電回路も種々の形式が用いられ、単純な分配/合成回路だけでなく、移相器や高出力増幅器、雑音増幅器なども給電回路に含まれます。
-アレイアンテナでは、素子アンテナの種類、配列方法、給電回路による素子アンテナの励振方法などによって、単一のアンテナではできないさまざまなアンテナ機能を実現することができます。

図1 アレイアンテナの基本構成
リニアアレイアンテナと平面アレイアンテナ
アンテナを規則的に多数配置すると合成された指向性を鋭いものにすることができます。
- リニアアレイアンテナ
-図2にN個の素子アンテナをx軸上に間隔dで等間隔に配置したもので、直線アレイアンテナあるいはリニアアレイアンテナと呼びます。
- 平面アレイアンテナ
‐素子を平面上に配列したアレイアンテナを平面アレイアンテナと呼びます。
-図3に示す配列方法が代表的です。
-指向性はリニアアレイアンテナの指向性の積として表せられます。また、給電回路も構成しやすいです。
-
図2 N素子リニアアレイアンテナ
-
図3 平面アレイアンテナ
アレイアンテナの指向性
アレイアンテナの指向性を下記に示します。
- アレイアンテナの持つ機能として、アンテナに要求される放射指向性の実現があります。
これは指向性合成と呼ばれます。
- 指向性合成によって具体的に次のような機能を持つアレイアンテナが得られます。
‐サイドローブの抑圧やそのレベル制御ができます。
‐放射パターン中の零点の位置を指定できます。
‐成形ビームを実現できます。

図4 アレイアンテナの指向性
フェーズドアレイアンテナ
アレイアンテナのもう一つの特長として、放射指向性のメインビーム方向を電子的に変えるビームステアリングがあります。
これは、素子の配置は固定しておき、素子の放射電界を特定の方向で共相とする励振位相を各素子に与えることにより実現できます。
- フェーズドアレイアンテナの構成
-この方式のアンテナは、図5に示すとおり給電線路の途中に移相器を挿入し、各素子アンテナの励振
位相を変化させるものです。
-この方式を特にフェーズドアレイアンテナと呼び、電子的なビームステアリングの主流になっています。
-更に、各素子に増幅器を設ける方式をアクティブフェーズドアレイアンテナと呼びます。
-デジタル信号の領域で励振位相だけでなく、励振振幅も制御する方式をデジタルビームフォーミング(図6)と呼びます。
-
図5 フェーズドアレイアンテナ
-
図6 アクティブフェーズドアレイアンテナを
有したデジタルビームフォーミング
まとめ(フェーズドアレイアンテナの利点/応用/課題/将来)
フェーズドアレイアンテナの利点/応用/課題/将来について記載します。
- フェーズドアレイアンテナの利点
-高速なビームステアリング:電子的にビーム方向を制御するため、従来の機械的なスキャンよりもはるかに高速で目標を追尾できます。
-柔軟な指向性:ビームの方向や形状を電子的に制御することで、非常に柔軟な指向性を持つことができます。
- フェーズドアレイアンテナの応用
-フェーズドアレイアンテナの技術は、さまざまな分野で活用されています。その一つが、レーダーシステムです。
-航空機の追尾や気象レーダーにおいて、フェーズドアレイアンテナは目標の位置を高速で精密に追尾するのに役立っています。
-軍事用途では、敵の動きを迅速に捉えるために用いられいます。
-通信分野でも、フェーズドアレイアンテナは大いに利用されています。たとえば、衛星通信においては、移動体からの通信を安定して受信するために、ビームステアリングを活用しています。
-5G通信でも、大容量かつ高速なデータ通信を実現するために、この技術が用いられています。
- フェーズドアレイアンテナの課題と将来
-課題として、高いコストや、複雑な制御システムが必要とされる点などがあります。
-しかし、技術の進歩により、これらの問題も次第に解決されつつあり、特に、半導体技術の進歩により、より安価で小型のフェーズドアレイアンテナが実現可能になりつつあります。
-将来的には、フェーズドアレイアンテナのさらなる小型化や低コスト化が進むことで、民生用途においてもこの技術が広く利用されることが期待されています。たとえば、自動車の運転支援システムや、スマートフォン
における高速通信など、日常生活の中での応用が拡大する可能性があります。
お問い合わせ
関連技術コラム
関連製品情報
マイクロン・テクノロジーのeMMC特集
MicronのeMMCは、高速データ処理と省電力設計を実現し、産業機器やロボティクスでの利用に最適なストレージソリューションです。
- マイクロン・テクノロジー
- ICT・インダストリアル
- スマートファクトリー・ロボティクス
位置センサー | ams OSRAM
amsOSRAMの位置センサーは、独自技術で高性能を実現し、産業や自動車のモーター制御に最適です。
- エーエムエスオスラム
- NEXT Mobility
- ICT・インダストリアル
ソフトウェア保護・暗号化とライセンシングソリューション
Wibu-SystemsのCodeMeterは、ソフトウェアの違法コピー対策、知的財産保護、収益化を強力に実現するソリューションです。
- Wibu-Systems株式会社
- ICT・インダストリアル
- スマートファクトリー・ロボティクス
- ソフトウェア
OSP (Open System Protocol) 概要
ams OSRAMのOSPは、車載LEDやセンサーを接続するための無料のオープンネットワーク技術です。車載のほかにもさまざまな用途で最適なシステムを実現します。
- エーエムエスオスラム
- NEXT Mobility
- ICT・インダストリアル
RF製品の電源供給にも使用できるほど低ノイズのスイッチング・レギュレーター
Silent Switcher 3は、低い低周波ノイズと高速な負荷応答特性を実現した最新のスイッチング・レギュレーター技術です。
- アナログ・デバイセズ
- ICT・インダストリアル
NXPの車載向けPMICの魅力を徹底解説 (Page 2/2) | NXPの車載PMICポートフォリオと代表製品の特徴を解説
車載ECUにおけるPMICの必要性とNXPの車載向けPMICの特徴、魅力、ポートフォリオについて、解説します。今回は車載PMICポートフォリオと代表製品の特徴です。
- NXP セミコンダクターズ
- NEXT Mobility