近年、AGV/AMR(自律移動ロボット)やインフラ点検、セキュリティ分野で3D LiDARの活用が急速に広がっています。Livox社のMID-360は、360°×59°の広い視野角と高密度な点群出力を特長とするコンパクトな3D LiDARです。
MID-360を量産製品に組み込む際には、評価用途を想定した純正ケーブルが仕様やコスト面で制約となるケースがあります。早い段階で自社設計ケーブルを検討しておくことが重要になります。
本記事では、評価用ケーブルの自作を通じて、量産ケーブル設計の出発点となるコネクタ仕様と配線設計の基礎を解説します。
MID-360は産業用のM12 Aコード12ピンコネクタを採用しています。このコネクタはIEC 61076-2-101に準拠しているため、規格互換品を使って自作が可能です。
コネクタ仕様を理解せずに汎用品を選ぶと、勘合不良や動作不良の原因になります。量産設計に進む前に、まず規格と配線の基礎を押さえ、自作ケーブルでセンサの動作を確認しておくことが有効です。
続編の「実践編」では、実際のケーブル製作手順と動作確認結果を紹介します。
MID-360のM12コネクタ仕様
MID-360はM12 Aコード 12ピンコネクタを採用しています。User Manualでは国際規格IEC 61076-2-101への準拠が示されています。電源供給・Ethernet通信・時刻同期信号を1つのコネクタでまとめて接続できます。なお、IEC 61076-2-101はコネクタの物理形状・寸法を規定するものであり、各ピンへの信号割り当ては製品ごとに異なります。
12ピンの内訳
MID-360は12ピンを搭載しており、電源・通信・同期の3つの機能を1つのコネクタに集約しています。
1.電源供給(4ピン):Power+(Pin1/9)とGND(Pin2/3)が各2本あり、並列配線で電圧降下を低減します。
2.Ethernet通信(4ピン):Pin4-7で100BASE-TX Ethernetの送受信を行います。
3.時刻同期(2ピン+予約2ピン):Pin8(PPS入力)とPin10(GPS入力)を用いて外部システムとの時刻同期が可能です。
Pin11/12は予備のLVTTL出力IOで、今回の同期接続には使用しません。
INFO
評価目的であれば、電源(Pin1/2/3/9)とEthernet(Pin4/5/6/7)の8ピンを配線すれば動作します。
時刻同期機能を使わない場合、Pin8/10/11/12は未接続で問題ありません。
ピンアサイン
MID-360のピン割り当てを以下に示します。
| ピン番号 | 信号名 | 種別 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 1 | Power+ | 電源 | DC 9-27V |
| 2 | Ground | 電源 | GND |
| 3 | Ground | 電源 | GND |
| 4 | ETH_TX+ | Ethernet | 送信+ |
| 5 | ETH_TX- | Ethernet | 送信- |
| 6 | ETH_RX+ | Ethernet | 受信+ |
| 7 | ETH_RX- | Ethernet | 受信- |
| 8 | LVTTL_IN | 信号 | PPS入力 |
| 9 | Power+ | 電源 | DC 9-27V |
| 10 | LVTTL_IN | 信号 | GPS入力 |
| 11 | LVTTL_OUT | 信号 | 予約出力IO |
| 12 | LVTTL_OUT | 信号 | 予約出力IO |
※ケーブルの線色はコネクタ製品によって異なります。
M12コネクタの規格 IEC 61076-2-101
MID-360はIEC 61076-2-101準拠のM12コネクタを採用しています。この規格準拠品であれば、Livox推奨ケーブル以外でも互換性のある部品を選定できます。
M12コネクタの標準規格
IEC 61076-2-101は、産業用丸形コネクタ(M12)の寸法・電気的特性・機械的特性を定めた国際規格です。規格内で複数のコーディング・ピン数・性別が規定されています。同じ組み合わせであればメーカーが異なっても勘合(接続)できます。
コーディング(キー配置)
M12コネクタには複数の「コーディング」があり、用途によって使い分けられています。コーディングとはコネクタのキー(突起)配置を規格ごとに定義する仕組みで、異なる用途のコネクタ同士が物理的に勘合しないようになっています。
| コーディング | 主な用途 | ピン数 | 形状 |
|---|---|---|---|
| Aコード | センサ・アクチュエータ、電源 | 3, 4, 5, 8, 12ピン | ![]() |
| Bコード | フィールドバス(PROFIBUS等) | 5ピン | ![]() |
| Dコード | 100Mbps Ethernet | 4ピン | ![]() |
| Xコード | Gigabit / 10Gbps Ethernet | 8ピン | ![]() |
図出典:Wikimedia Commons
IEC 61076 M12 connector diagrams(CC BY‑SA 4.0)
MID-360はAコード・12ピンを採用しています。Aコードは産業用途で広く使われているコーディングで、電源供給からEthernet通信まで幅広い用途に対応します。
仕様条件と取付形態の違い
「Aコード・12ピン・メス」という条件が特定するのは電気的互換性(コーディング、ピン配列、嵌合部の寸法)です。IEC 61076-2-101はこれらの電気仕様と嵌合部の機械的寸法を規定していますが、コネクタのハウジング形状や固定方法は規定していません。そのため、同じ「Aコード・12ピン・メス」でも、取付形態の異なる製品が存在します。
- ケーブル用プラグ:回転ナット(カップリングナット)で相手側コネクタに締結する構造
- パネルマウント用レセプタクル:フランジやナットで筐体・パネルに固定する構造
「片側アセンブリ済み」「ピグテール」という表記も、ケーブル端にコネクタが組み付け済みであることを示す用語であり、コネクタの取付形態(プラグかレセプタクルか)を限定しません。
部品選定のポイント
MID-360向けには、以下の4条件を満たすコネクタを選定してください。
1.コーディング:Aコード(他のコードは物理的に接続不可)
2.ピン数:12ピン
3.性別:メス(MID-360本体側がオスのため)
4.取付形態:ケーブル用プラグ(回転ナットを持つ構造。製品写真や外形図で確認)
この条件を満たすM12コネクタは、Amphenol、Phoenix Contact、HARTINGなど複数のメーカーから供給されています。
DigiKeyやMouserなどのECサイトで電気仕様条件を指定して検索すると、ケーブル用プラグとパネルマウント用レセプタクルの両方が検索結果に含まれることがあります。
これは、電気的特性が共通であれば、取付形態の違いは検索条件に反映されないためです。
製品写真で回転ナットの有無を確認するのが最も簡便な方法ですが、判断に迷う場合はデータシートの外形図を参照することを推奨します。
片側アセンブリ済み(ピグテール)タイプを選ぶと、はんだ付けやクリンプの工程を省略でき、製作難易度が下がります。
WARNING
パネルマウント用レセプタクルはMID-360への接続には使用できません。「Aコード・12ピン・メス」の条件を満たしていても、回転ナットを持たないパネルマウント型ではMID-360本体のコネクタに締結できません。必ずケーブル用プラグを選定してください。
-
ケーブル用プラグ
-
パネルマウント用レセプタクル
WARNING
規格準拠品でも、電気的特性(定格電流、定格電圧、耐環境性能など)はメーカーや製品で異なります。使用環境に応じてデータシートを確認してください。
ケーブル自作のための電源配線設計
MID-360の電源配線設計における重要なポイントを解説します。
電源仕様
MID-360の電源仕様は以下の通りです。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 動作電圧範囲 | DC 9V - 27V |
| 推奨電圧 | 12V |
| 通常消費電力 | 6.5W |
| 起動時ピーク電力 | 18W max.(35°C以下、約8秒間) |
| 低温時自己加熱 | 14W(-20°C~0°C、最大10分間) |
※いずれもUser Manual v1.2記載値。通常消費電力の計測条件(typ./max.等)は明記されていません。配線設計ではピーク電力を基準に安全マージンを確保してください。
並列配線の意味
MID-360のコネクタでは、Power+がPin1とPin9の2本、GNDがPin2とPin3の2本に割り当てられています。Livox社の技術情報では、これらの並列配線が必須とされています。
M12コネクタのピンあたり許容電流は、一般的なAコード12ピン製品で1.5A〜2A程度です。一方、MID-360の起動時ピーク電流は12V給電時に最大1.5Aに達します。2本を並列使用することで1ピンあたり約0.75Aに抑え、単一ピンの定格を超えるリスクを回避しています。
INFO
Livoxの公式見解では、定格電流や起動時ピーク条件に関わらず、Power+およびGNDは並列配線が必須とされています。
ケーブル長と電圧降下
以下の表は、AWG26(0.14mm²)ケーブルを並列配線し12V給電した場合の電圧降下の計算例です。AWG26は片側アセンブリ済みM12ケーブルで一般的な線径です。AWG24(0.25mm²)など太い線径を使用すれば電圧降下をさらに低減できます。
また、産業機器で広く使われる24VDC電源を使用する場合、同じ電圧降下量でもセンサ端電圧に対する影響比率が小さくなるため、長尺ケーブルでの運用にも余裕が生まれます。
| ケーブル長 | 動作モード | 電流 | 電圧降下 | センサ端電圧 |
|---|---|---|---|---|
| 1m | 通常 | 0.54A | 0.07V | 11.93V |
| 1m | 起動ピーク | 1.50A | 0.20V | 11.80V |
| 3m | 通常 | 0.54A | 0.22V | 11.78V |
| 3m | 起動ピーク | 1.50A | 0.60V | 11.40V |
| 5m | 通常 | 0.54A | 0.36V | 11.64V |
| 5m | 起動ピーク | 1.50A | 1.01V | 10.99V |
計算式
電圧降下 = 2 × ケーブル長(m) × 抵抗率(Ω/m) × 電流(A) ÷ 2(並列)
- AWG26の抵抗率:約0.134Ω/m(20°C、±10%程度の誤差あり)
- 係数「2」は往復(Power+とGND)分、並列配線により最後に2で除算
- 例:3m、1.50Aの場合 → 2 × 3 × 0.134 × 1.50 ÷ 2 ≒ 0.60V
WARNING
ケーブルの電圧降下により、センサ端電圧が動作下限(9V)を下回るリスクがあります。
電圧降下マージンを確保しやすいため、12V給電が設計上扱いやすい条件です。
INFO
長尺ケーブル(3m以上)を使用する場合は、電源電圧を12V〜13V程度に上げることを検討してください。
ただし最大27Vを超えないよう注意が必要です。
Ethernet配線の設計ポイント
MID-360は100BASE-TX Ethernetで通信します。配線設計のポイントを解説します。
通信仕様
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 通信規格 | 100BASE-TX(IEEE 802.3u) |
| 通信速度 | 100Mbps |
| プロトコル | UDP |
| IP設定 | 静的IP(デフォルト:192.168.1.1XX) |
| サブネットマスク | 255.255.255.0 |
100BASE-TXは差動伝送方式を採用しており、TX+/TX-(送信)とRX+/RX-(受信)の2ペア計4本の信号線を使用します。差動伝送は外来ノイズに強い特性があります。信号線のペアが同じノイズを受けても、差分を取ることでノイズ成分が打ち消されます。
信号ピンの対応
MID-360のEthernet信号ピンとRJ45コネクタ(T568B配線)の対応は以下の通りです。
| MID-360ピン | 信号 | RJ45ピン(T568B) |
|---|---|---|
| Pin4 | TX+ | Pin1 |
| Pin5 | TX- | Pin2 |
| Pin6 | RX+ | Pin3 |
| Pin7 | RX- | Pin6 |
シールドの要否
MID-360のUser Manualでは、シールド有無に関する要求は明記されていません。Finecables製ケーブルが推奨品として挙げられていますが、シールドの要否は使用環境に応じて評価してください。100BASE-TX Ethernetは差動伝送方式を採用しており、コモンモードノイズに対して耐性があります。
以下の条件であれば、条件が限定される評価用途では、シールド無しケーブルでも動作確認が可能なケースがあります。
- 短距離使用:推奨ケーブル長1.5m程度、延長しても10m以下
- 低ノイズ環境:強力な電磁ノイズ源(大型モーター、インバーターなど)が近くにない
- 評価・検証用途:本格的な製品組み込みではなく、動作確認が主目的
ただし、強力な電磁ノイズ源が近接する環境や長距離配線が必要な場合は、別途現場での評価を推奨します。
WARNING
MID-360はPoE(Power over Ethernet)に対応していません。PoE対応スイッチやPoEインジェクタに誤って接続しないでください。機器の故障につながる可能性があります。
まとめ
本コラムでは、Livox MID-360のコネクタ仕様と配線設計のポイントを解説しました。
コネクタ仕様のポイント
- MID-360はIEC 61076-2-101準拠のM12 Aコード12ピンコネクタを採用
- 規格準拠品であれば、異なるメーカーのコネクタでも物理的に勘合可能
- IEC規格はコーディング・ピン配列・電気特性を規定するが、取付形態は規定していない
- MID-360への接続には回転ナット付きのケーブル用プラグが必要(製品写真や外形図で確認)
- 評価用途では電源4ピン+Ethernet 4ピンの計8ピン配線で動作
電源配線のポイント
- 電圧:12Vを推奨(9V給電は電圧降下リスクあり)
- 並列配線(必須):Power+(Pin1/9)とGND(Pin2/3)は各2本を並列に接続
- 長尺ケーブル:3m以上の場合は電圧を上げる(最大27V)
Ethernet配線のポイント
- 差動ペア:TX+/TX-、RX+/RX-のペアを正しく配線
- シールド:短距離・低ノイズ環境では不要と考えられる
- PoE非対応:PoE機器への誤接続に注意
次回の「実践編」では、Amphenol MSAP-12BFFM-SL8A01(片側アセンブリ済みM12コネクタ)を使用して実際にケーブルを製作し、MID-360との接続・動作確認を行います。











