これから回路設計を始める方や、電流センスアンプについてもう一度基礎から振り返りたい方へ向けて、本記事では「電流センスアンプとは何か?」をゼロから解説します。 仕組みや種類、設計時の注意点まで、実際の回路設計に役立つ知識を紹介していきます。
はじめに
電流センスアンプとは何か?
電流センスアンプは、回路内を流れる電流を間接的に測定するためのアンプであり、主にシャント抵抗を利用して微小な電圧差を増幅します。電流センスアンプの出力電圧とそのゲインから、アンプの入力電圧、つまりシャント抵抗の両端電圧を知ることができます。さらに、シャント抵抗の抵抗値がわかっていれば、オームの法則からシャント抵抗を流れた電流を知ることができます。
電流センスアンプは、シャント抵抗に流れる電流を、アナログ回路やマイコンで扱いやすい電圧信号に変換する役割を担います。
図 1 電流センスアンプ
なぜ電流を測る必要があるのか?
電流の測定は、電子回路やシステムの安全性や動作状態を正しく把握するために不可欠です。過電流は部品の破損や発熱の原因となり、逆に電流が不足すると正常な動作ができません。そのため、電流を正確に測定することで、過負荷保護や効率改善、エネルギー管理が可能になります。
例えば、モーター制御では電流値からトルクを推定し、バッテリー管理では充放電電流を監視して寿命を延ばします。電流測定は、安全性と性能を両立させるために欠かせない技術なのです。
電流を測定することが重要な理由がわかっていただけたでしょうか。
電流センスアンプの基本構造
シャント抵抗とアンプの関係
電流センスアンプの基本は「電流を電圧に変換する」ことです。そのために使われるのがシャント抵抗です。
シャント抵抗は電流経路に直列に挿入され、流れる電流に比例した微小な電圧差を発生させます。この電圧差をアンプで増幅し、後段の回路やマイコンで扱いやすいレベルに変換します。
シャント抵抗は、一般的に数ミリオームから数百ミリオームと非常に小さな抵抗値をもった抵抗素子です。抵抗の誤差が電流測定の誤差に変換されてしまうため、抵抗誤差が小さく、温度係数も小さいことが求められます。
また、それに対応した製品も数多くラインナップされています。
差動入力と出力の仕組み
電流センスアンプは、シャント抵抗の両端に生じる電圧差を「差動入力」で受け取り、この差動電圧を増幅し、単一の電圧出力、つまり「シングル出力」するようになっています。
差動入力は、ノイズ耐性が高く、微小な電圧差を正確に検出できるのが特徴です。
アナログ回路やADCに接続しやすいように、「シングル出力」にオフセット電圧を加えて正の電圧範囲に収める工夫がされています。これにより、低電流から高電流まで広い範囲で安定した測定が可能になります。
ゲイン設定の方法(固定ゲイン vs 可変ゲイン)
ゲインは、シャント抵抗で得られる微小な電圧をどれだけ増幅するかを決める重要なパラメーターです。ゲイン設定には、IC内部でゲインを決めている固定ゲインタイプと外付けの部品や端子の設定によりゲインを調整することのできる可変ゲインタイプがあります。
固定ゲインタイプはシンプルで安定性が高く、設計が容易ですが、用途が限定されます。一方、可変ゲインタイプは、ゲインを調整できるため、広い電流範囲に対応できます。
主な特徴と種類
ハイサイド vs ローサイド電流検出
電流センスアンプは、シャント抵抗を「電源側(ハイサイド)」に置くか、「GND側(ローサイド)」に置くかで構成が異なります。
ハイサイド検出は、負荷の電流を電源ラインで測定する方式で、負荷のGNDを直接接続できるため安全性が高く、システム全体の電流を正確に把握できます。ただし、電源電圧が高い場合はアンプに広いコモンモード電圧範囲が必要です。
ローサイド検出は、負荷のGND側で電流を測定する方式で、アンプのコモンモード電圧範囲が低くて済み、回路が簡単になります。しかし、負荷のGNDが浮くため、ノイズや安全性の面で注意が必要です。用途に応じてどちらを選ぶかが設計のポイントです。
図 2 ハイサイド検出とローサイド検出
ゲイン精度、オフセット電圧、コモンモード範囲
電流センスアンプの性能を決める重要な要素がこの3つです。
ゲイン精度は、アンプが設定された倍率でどれだけ正確に増幅できるかを示します。精度が低いと、測定電流に誤差が生じます。
オフセット電圧は、入力差がゼロでも出力に現れる電圧で、特に低電流測定では大きな影響を与えます。オフセット電圧が大きいと微小電流の測定が困難になります。
オフセット電圧の誤差はゲイン倍で出力されるため、ゲイン(倍率)が大きなアンプでは特に重要になります。
コモンモード電圧範囲は、アンプが正常に動作できる入力電圧の範囲です。ハイサイド検出では電源電圧に近い高いコモンモード電圧に対応する必要があります。これらの特性を理解し、用途に合ったアンプを選定することが重要です。
設計時の注意点
シャント抵抗の選定(抵抗値、許容電力、温度係数)
シャント抵抗は電流検出の精度と回路の効率に直結する重要な部品です。抵抗値が大きいほど検出電圧は大きくなり精度は向上しますが、電力損失や発熱が増えます。逆に抵抗値が小さいと損失は減りますが、検出電圧が微小になりノイズの影響を受けやすくなります。SN比と電力損失はトレードオフの関係にあるといえます。
また、抵抗の温度係数も重要です。電流が大きい場合、発熱による抵抗値変化が測定誤差につながるため、低温度係数の精密抵抗を選ぶことが推奨されます。
コモンモード電圧の制限と電源電圧の関係
アンプが正常に動作するためには、入力のコモンモード電圧が仕様範囲内である必要があります。ハイサイド検出では電源電圧に近い高いコモンモード電圧がかかるため、アンプの対応範囲を確認することが重要です。
例えば、12V電源でハイサイド検出を行う場合、アンプが少なくとも0~12Vのコモンモード範囲に対応していなければなりません。範囲外になると測定誤差や動作不良が発生します。
実際にアンプを選定する際には、この入力コモンモード電圧範囲は最初にチェックすべきポイントの一つです。
また、システムの側からは実際にどのくらいの電圧がかかる可能性があるのかを事前に検討しておくことも重要です。
ゲイン誤差とオフセット誤差の影響
ゲイン誤差は、設定した増幅率と実際の増幅率のズレを意味し、電流値の計算に直接影響します。特に高精度が求められるバッテリー管理や計測用途では、ゲイン誤差が数%でも大きな問題になります。
オフセット誤差は、入力電圧差がゼロでも出力に現れる電圧で、低電流領域で顕著な影響を与えます。例えば、入力換算オフセットが1mVある場合、シャント抵抗が10mΩなら100mA分の誤差に相当します。これらの誤差を考慮し、必要に応じてキャリブレーションを行うことが重要です。
まとめ
電流センスアンプは、電流測定を通じてシステムの安全性や効率を確保するために欠かせない回路です。本記事では、その基本構造や特徴、設計時の注意点について解説しました。
正しい理解と適切な設計により、電流センスアンプは幅広い用途で高い信頼性を発揮します。ぜひ今回の内容を参考に、実際の回路設計に役立ててください。
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