赤外光は太陽光にも含まれ自然界に広く存在する光ですが、その特徴を活かしさまざまな用途で応用されています。特にセンシング用途では赤外光を使った検知方法が普及し、それらのシステム設計においては赤外光の特徴を正しく把握しておく事が重要です。
この記事では赤外光の基本的な概念、赤外LEDの特徴と応用方法について解説します。
これらを理解することで赤外光や赤外LEDを利用した製品開発を行う際の部品選定指標を持つことができます。
赤外光の概要と特徴
赤外光とは
赤外光は可視光よりも波長が長い光です。おおよそ780nm~1㎜の波長帯を赤外光と呼びます。
光のエネルギーは波長が長くなるほど低くなるため、波長が短い青色光と比べると生体や環境に与える影響は小さくなります。また、人間の目には見えない光のため視覚的な干渉を防ぎ、狭い空間や夜間等のセンシング用光源として利用されます。その他いくつかの代表的な特徴については以下に記載します。

図1:赤外光領域
赤外光の特徴
以下に赤外光の代表的な特徴を示します。
自然界での赤外光
自然界での赤外光は太陽光の一部として存在し、地球の表面や大気中に広がっています。太陽光のスペクトルは図の通りですが、宇宙空間に比べ地表では一部のスペクトルが低くなっている事がわかります。
これは宇宙空間から地表までの間に大気によって光の一部が吸収・散乱されるためです。

図2:太陽光スペクトル
放射による加熱
赤外光は物質に吸収されると原子や分子の振動、回転といった運動エネルギーとなります。
その際の運動エネルギーが温度の上昇として現れるため、赤外光が照射された皮膚や洋服では暖かさを感じることが出来ます。
光の安全性
光が目や皮膚等人体に与える影響を評価する方法としてJIS C 7550が規格化されています。この規格の中で赤外光はリスク係数が青色光より低く設定されているので、赤外光は青色光と比べて照射対象物に与える影響が小さいことが分かります。
赤外LEDの概要と特徴
赤外LEDとは
LEDの発光色は赤、青、緑の3色が代表的ですが、赤外光を発する赤外LEDも広く普及しています。
点灯波長としては850nmと940nm付近の製品が主流ですが、用途に応じた他の波長品もあります。可視光LEDと同じく点灯が容易で高出力な製品も増えていますが、熱による出力低下が顕著に表れるため注意が必要です。
赤外LEDの特徴
以下に赤外LEDの代表的な特徴を示します。
発光素子材料
赤外LEDを含めた黄色から赤色の波長範囲で点灯する発光素子は4種類の化合物半導体から生成されます。
化合物半導体の組み合わせはいくつかありますが、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、As(ヒ素)のAlGaAs系と呼ばれる組み合わせが代表的です。特定の基板上でエピタキシャル成長させ赤外光を発する発光素子を生成します。

図3:材料と発光領域
電気的特性
In(インジウム)Ga(ガリウム)、N(窒素)の3元素で構成されInGaN系と呼ばれる青、緑色系のLEDと比較し、AlGaAs系のLEDはVF(順方向電圧)が低くなる傾向があります。これは主に材料のバンドギャップの違いによるものです。以下がバンドギャップとVFの目安値です。
LED材料系 | 主な発光色 | バンドギャップ | VFの目安 |
---|---|---|---|
InGaN | 青、緑、白 | 約2.0~3.4eV | 約2.8~3.5V |
AlGaAs | 赤、赤外 | 約1.4~2.2eV | 約1.8~2.2V |
表1:材料とVF目安値
温度特性
AlGaAs系はバンドギャップが狭く温度によって変化しやすいため、特にバンドギャップが縮小する高温下では発光効率が低下します。InGaN系は温度変化に対し比較的安定し温度上昇による出力低下は穏やかですが、AlGaAs系は温度が上がるごとに出力が数%〜10%以上低下する場合もあり、使用環境には注意が必要です。
赤外光、赤外LEDの用途と応用
赤外光、赤外LEDの使用例
赤外光は、目に見えない、人体や外部環境に与える影響が少ない、という特徴を生かしさまざまな分野で広く利用されています。また、赤外光を得るために取り扱いが容易な赤外LEDの需要も増えています。
ここでは赤外光と赤外LEDの応用例を紹介します。
赤外リモコン
最近は無線式リモコンも増えてきましたが、赤外光を通信に利用した赤外光式リモコンがまだまだ主流です。
テレビや照明等家電で多く採用され、光源としては900nm帯の赤外LEDと受光素子(フォトダイオード)の組み合わせがほとんどです。砲弾型の赤外LEDが採用されるケースが多く、光を効率よく前方に照射するため光の広がり角は20~30°程度と非常に狭いです。

監視カメラ
赤外光を利用した代表的な製品に監視カメラが挙げられます。
昼間は太陽光で画像や動画を取得しますが、夜間の監視は人の目で明るさを感じない赤外光が多く用いられます。
光源には主に赤外LEDの800nm帯の波長製品が使用されます。これはカメラ側(CMOSイメージセンサー)の感度影響が大きく、長波長になるほどカメラ側の感度が急激に落ちるため、赤外領域の中では感度が高い800nm帯が適しています。カメラ側感度の参考値を以下グラフに示します。


図4:CMOSイメージセンサー感度参考値
DMS(Driver Monitoring System)
DMSは車の運転者を常時監視し、異常時に警告等を発するシステムで光源に赤外LEDが使用されています。使用される波長帯は900nm帯が多いですが、これは太陽光の影響が少ない領域のためです。
監視カメラと異なり昼夜問わず動作するシステムのため、特に昼間の太陽光が大きな外乱光となります。しかし地表で太陽光の成分が少ない900nm帯(図2より)の赤外光を使用する事で影響を低減することが可能です。900nm帯は800nm帯に比べるとカメラ感度が落ちてしまいますが、近年は高出力な900nm帯LEDもリリースされ、カメラ側の感度低下を赤外LEDの出力で補うことが可能となっています。

生体センサー
多くのスマートウォッチに組み込まれている生体センサーですが、血中酸素濃度の測定に赤色LEDと赤外LEDが使用されています。
原理としては血中のヘモグロビンが酸素と結合しているかどうかで、赤色光と赤外光の吸収率が異なるためそれぞれの反射光量から血中酸素飽和度を計測します。


まとめ
今回の記事では、赤外光および赤外LEDの基礎知識とこれらの応用例について解説しました。
赤外光、赤外LEDを活用した技術は現在も急速に広がっており、先進的なセンシング用途において重要な役割を担っています。当社では、赤外LEDを含む各種LED製品を幅広く取り扱っており、用途や仕様に応じた最適なソリューションをご提案可能です。センシング光源をお探しの際はぜひお問い合わせください。
また、可視光、レーザー光源に関する技術コラムを公開していますのでぜひご覧頂ければと思います。
他の波長帯やLEDに関する技術コラムも順次掲載していきますので、今後もご期待ください。
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