IoT、産業機器、エッジAI、ウェアラブルデバイスなど、組み込み機器の多様化に伴い、マイコンに求められる性能や機能も年々高度化しています。 STマイクロエレクトロニクス社(以下ST社)が展開するSTM32ファミリは、性能・消費電力・コストのバランスに優れ、幅広い開発ニーズに応える豊富なシリーズ構成が特徴です。
本記事では、STM32シリーズの中でも注目度の高い主要6シリーズ(C0/G4/H5/H7/N6/U5)にフォーカスし、それぞれの特徴や適した用途を比較・解説します。 マイコン選定に迷っている方や、最新シリーズの動向を把握したい方は、ぜひ参考にしてください。
マイコンの選定ポイント
マイコン(MCU)は、CPU・メモリ・周辺回路を1チップに統合した組み込み機器の“頭脳”ともいえる存在です。 しかし、数多くの製品が市場に存在するため選択肢が多く、要件に最適化した選定が難しいのが実情です。 ここでは、開発の目的や制約に応じて最適なマイコンを選定するために、性能と周辺機能/電力設計/セキュリティ/コスト・供給の4視点で選定基準を整理します。
マイコン選定に必要な4視点
処理性能と周辺機能のバランス
まず注目すべきは、CPUコアの性能と周辺機能の構成です。 リアルタイム制御や信号処理が必要な場合は、DSP命令(信号演算を高速化する命令群)やFPU(浮動小数点演算器)を備えたCortex-M4/M7/M33などが有力候補になります。 また、モーター制御やアナログ信号処理には、高速ADCや高分解能タイマ(HRTIM:微細なPWM制御が可能)の有無も重要です。
消費電力と電源設計
バッテリー駆動や長時間稼働が求められるアプリケーションでは、低消費電力性能が選定の決め手になります。 スタンバイ電流、ウェイクアップ時間に加え、オートノマスモード(一部ペリフェラルがCPU非稼働でも自律動作)の有無など、電源モードの柔軟性もチェックポイントです。
セキュリティ要件への対応
IoT機器や産業用途では、セキュリティ機能の有無が製品の信頼性に直結します。 TrustZone(安全領域と通常領域をハード分離)、セキュアブート、暗号化エンジン(AES、PKAなど)を搭載したマイコンを選ぶことで、データ保護や不正アクセス対策が可能になります。
コストと供給性
最後に、価格と供給の安定性も無視できません。 高機能なマイコンほどコストが上がる傾向にあるため、必要な機能に絞って選定することが、コスト最適化と量産性の確保につながります。
STM32のシリーズ別特徴解説
ST社が展開するSTM32ファミリは、豊富なシリーズ展開により、あらゆる用途に対応できる柔軟性を持っています。
STM32の主要シリーズをピックアップし、それぞれの特徴や強みをわかりやすく整理しました。 開発要件に応じたマイコン選定のヒントとして、ぜひご活用ください。
STM32C0シリーズ:低価格で8bit/16bitから移行可能な32bit入門マイコン
STM32C0シリーズは、ST社の最も手頃な32bitマイコンです。コストが理由で32bitに移行できない、というこれまでの障壁を取り払うことを目指して設計されています。これにより、あらゆる開発者が32bitマイコンの持つ性能や機能にアクセスしやすくなりました。
低価格帯ながら32bitの性能をしっかり提供
48MHzで動作する業界標準のArm® Cortex®-M0+コアを搭載したSTM32C0シリーズを搭載し、8/16bitアーキテクチャを大きく上回る演算性能を持ちます。STM32としては最廉価帯ながら、基本性能・安定性・品質がしっかり確保されており、低コストでも32bit マイコンのメリットを最大限享受できる点が大きな魅力となっています。
幅広いアプリケーションに対応できる柔軟な構成
Flashメモリは16KB~256KB、RAMは最大36KBをラインナップしています。
パッケージは8ピン~64ピンの範囲のパッケージを用意し、小型デバイスから中規模制御装置まで柔軟に適用可能です。
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ST社製品ページリンク:STM32C0シリーズ
STM32G4シリーズ:多様なアプリケーションに適合するミックスド・シグナルマイコン
STM32G4シリーズは、170MHzで動作する32bit Arm® Cortex®-M4コア(FPU/DSP命令対応)に3つの異なるハードウェア・アクセラレータ(ARTアクセラレータ™、CCM-SRAMルーチン・ブースタ、および数値演算アクセラレータ)を組み合わせることで、制御性能と応答性を大幅に向上させたミックスド・シグナルマイコンです。産業制御、パワーエレクトロニクス、モーター制御など“応答速度が製品力に直結する領域”で強力なパフォーマンスを発揮します。
高精度アナログブロックと高速制御
STM32G4シリーズはアナログフロントエンドの充実度が際立っています。コンパレータやオペアンプ、DACを搭載し、さらにハードウェア・オーバーサンプリングADCが実現する16bit相当の測定精度により、ノイズの多い環境でも高精度のセンシングが可能です。また、ECC付きデュアルバンクFlashメモリにより製品稼働中でも安全なファームウェア更新ができるうえ、セキュアメモリ領域で機器データやIPをしっかり保護できます。
充実した周辺機能
高分解能タイマ ver.2 による精細なPWM生成は、電源制御やモーター制御の滑らかさを大幅に向上させます。USB Type‑C®およびPower Deliveryに対応するPHYを内蔵しているため、外付け部品なしでUSB‑PDを実装でき、基板スペースとコスト削減の両方に寄与します。さらに、AESハードウェア暗号化エンジンにより、安全性の高い通信処理を高速に行えます。
加えてペリフェラル同士が自律的に通信できる柔軟な相互接続マトリクスも、STM32G4シリーズの大きな特徴です。
これによりCPUの介入を減らしながらリアルタイム処理を効率化でき、結果として消費電力の低減にもつながります。
用途に応じて選べる3つのライン構成
STM32G4シリーズの構成は以下3つラインに分類されます。
- STM32G4x1アクセス・ライン
エントリレベルのアナログ機能を備え、簡易アナログ制御や一般制御用途に適しています。 - STM32G4x3パフォーマンス・ライン
アナログペリフェラルをより強化し、本格的なアナログ制御やモーター制御に最適です。 - STM32G4x4高分解能ライン
高分解能タイマ(HRTIM)とデジタル電源向けイベントハンドラを搭載。高周波PWM、デジタル電源、照明制御、溶接、太陽光システム、ワイヤレス給電など、複雑かつ高速な電力変換を扱うアプリケーションに最適化されています。
パッケージはLQFP、UFBGA、WLCSP、UQFNなど多様な形状に対応しており、使用できるFlashメモリ容量も32KBから512KBまで幅広く選択できます。これにより、コストや基板スペース、性能要件に合わせて最適なデバイスを選べる柔軟性も提供されています。
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ST社製品ページリンク:STM32G4シリーズ
STM32G4ラインナップ
STM32H5シリーズ:スケーラブルセキュリティを統合した高コスト効率マイコン
STM32H5シリーズは、最大250MHzで動作する32bit Arm® Cortex®-M33コアをベースとした性能とセキュリティを高次元で両立したマイコンです。高い処理能力を求めながらもコストを抑えたい開発者に向けて設計されたシリーズで、幅広い製品ジャンルに導入しやすい強みがあります。
高性能×大容量で幅広いアプリケーションに対応
最大250MHzのCortex‑M33コアにより、高速処理が必要な制御・演算に必要な性能を確保しています。また、最大2MBのデュアルバンクFlashメモリ、最大640KBのSRAM、豊富なペリフェラルを内蔵し25ピンから176ピンまでの幅広いパッケージ・オプションにも対応しています。さらに周囲動作温度は最大125℃まで対応可能な堅牢性を備えており、産業機器や屋外設置機器など過酷な環境でも安心して使用できます。
IoT機器のために設計されたスケーラブルセキュリティ
特に注目すべきは、IoT機器に求められる高度な保護機能です。STM32H5は、IoT機器に求められる高度なセキュリティ要件を含め、あらゆるニーズに対応可能な拡張性の高いセキュリティアーキテクチャを提供します。資産を守るために重要なセキュリティ・サービスから、製品ライフサイクル全体を通してST社が保守する認証済みビルディングブロックまで、幅広い選択肢から柔軟に組み合わせ可能です。
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ST社製品ページリンク:STM32H5シリーズ
STM32H5ラインナップ
STM32H7:高性能で充実した機能と豊富なコネクティビティを持つマイコン
STM32H7シリーズは、リッチでコネクテッド、かつ高度な処理能力を求める最新アプリケーションに向けて設計された、ST社のフラッグシップマイコンファミリです。エンドユーザのニーズや市場要件の進化に応え次世代アプリケーション開発に必要な自由度を大きく広げます。
高い処理性能と拡張性
最大600MHzで動作する32bit Arm® Cortex®-M7コアを搭載し、同シリーズにはシングルコアだけでなくデュアルコア(Cortex®-M7 + Cortex®-M4)構成も用意されています。これにより最大3224CoreMarkというCortex®-Mベースのマイコンとして業界最高のベンチマーク・スコアを達成しています。高い処理性能が求められる製品でも、H7シリーズなら余裕を持って対応できます。
さらに、オンザフライでの復号化・暗号化をサポートしており、外部メモリや内部メモリから直接、セキュアかつ高速にコードを実行できる点も大きな特長です。これは大容量データの処理が必要な場面や、セキュリティを重視したアプリケーションで特に効果を発揮します。
高性能と安定性を支えるメモリ構成
STM32H7シリーズでは、64KB~2MBのFlashメモリを内蔵しており、このメモリはST社の不揮発性メモリ(NVM)テクノロジーをベースにしています。40nmプロセスを使用する事で消費電力と性能を両立しつつ高信頼性を実現します。
製品に合わせて選べる豊富なパッケージ
STM32H7シリーズには、64ピン~240ピンの幅広いパッケージ・オプションが用意されています。これらのオプションにはQFN、WLCSP、LQFP、およびBGAパッケージがあり、12の製品ラインにわたって、130種類以上の品名があります。
これにより、コンパクトな家電製品から高機能産業装置まで、あらゆるアプリケーションに適した形で採用が可能です。
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ST社製品ページリンク:STM32H7シリーズ
STM32H7ラインナップ
STM32N6:新たな性能レベルを実現するAIアクセラレータ内蔵マイコン
STM32N6は、最大800MHzで動作するArm® Cortex®-M55をベースにしています。Cortex-M55は、Arm Heliumベクトル演算テクノロジーを導入した初のCPUであり、従来のCortex‑Mシリーズを大きく超えるDSP・信号処理機能をもたらします。そのため、エッジAI、オーディオ分析、ビジョン処理など、より高度なアプリケーションをマイコンレベルで実現できます。
エッジAIを実用レベルで動かす高性能アーキテクチャ
STM32シリーズとして初めて自社開発NPUである ST Neural‑ART アクセラレータ™ を搭載している点が大きな特徴です。最大動作クロックは1GHzで、最大600GOPSという圧倒的な推論性能を提供し、これまで外部プロセッサが必要だったコンピュータ・ビジョンやオーディオ・アプリケーション向けのリアルタイム・ニューラル・ネットワーク推論をマイコン単体で可能にします。
ビジョンアプリケーションもカバーする専用パイプライン
STM32N6は、MIPI CSI-2インタフェースとイメージ・シグナル・プロセッサ(ISP)を備えた専用のコンピュータ・ビジョン・パイプラインを搭載し、さまざまなカメラとの互換性が確保されています。H.264ハードウェア・エンコーダとグラフィックス用のNeoChrom™アクセラレータも備えており、動画処理やGUIレンダリングなど、リッチで表現力の高いアプリケーションにも対応します。
高速処理を支えるメモリ構成と外部拡張性
ニューラル・ネットワークやグラフィックス・アプリケーションに最適な4.2MBの連続したRAMを内蔵し、さらに高速外部メモリ・インタフェース(Hexa-SPI、Octo-SPI、FMC)によって補完されています。これにより、外部メモリ利用時でも高速の推論・描画処理を維持できます。
最新基準に準拠した高レベルのセキュリティ
STM32N6シリーズは、高度なセキュリティ機能も備えています。SESIPレベル3およびPSAレベル3の認証をターゲットとしたセキュリティアーキテクチャにより、AIやビジョンを扱うエッジデバイスでも安心して運用できます。
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ST社製品ページリンク:STM32N6シリーズ
STM32N6ラインナップ
STM32U5シリーズ:高いセキュリティとクラス最高峰の低消費電力マイコン
STM32U5シリーズは、Arm® Cortex®-M33をベースに設計された超低消費電力を強みとする汎用32bitマイコンです。ウェアラブル機器、ヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)、ヘルスケア機器、スマート・ホーム機器、産業用センサ・システムなど、バッテリー駆動や省電力が重要なアプリケーションに最適です。消費電力と性能のバランスが非常に優れていることから、省電力システムでの厳しい要件に対応することができます。
NeoChrom / NeoChromVG GPUの搭載
STM32U5シリーズの上位ラインには、ST社が新たに開発した組込み向けGPU NeoChrom と NeoChromVG(ベクター描画対応) が搭載されています。これらは、UI描画の主要工程をハードウェア処理に移し、CPU負荷と消費電力を同時に抑えることを目的としたGPUです。従来マイコンでは困難だったベクターUIの滑らかな表示が可能になり、スマートウォッチなどのウェアラブルや小型HMIの表現力を大幅に引き上げます。
大容量メモリで多機能アプリケーションにも対応
STM32U5は、最大4MBのFlashメモリ(デュアル・バンク)と3MBのSRAMを搭載しており、高度なグラフィック機能により、より優れた性能を実現しています。
高度なセキュリティ機能で安心を実現
STM32U5は、Arm® TrustZone®に対応し、アプリケーションをセキュア/ノンセキュアに分離することで、機密データの保護が可能です。 さらに、セキュアブートやハードウェア暗号化エンジン(AES、SHA-256など)、真性乱数生成器(TRNG)を搭載し、安全な通信や鍵管理を強力にサポートします。
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ST社製品ページリンク:STM32U5シリーズ
STM32U5ラインナップ
まとめ
本記事で紹介したシリーズのみならず、STM32ファミリは、シリーズごとに明確な特長と強みを持ち、幅広い開発ニーズに応える柔軟な選択肢を提供しています。 処理性能を重視するか、消費電力を抑えるか、あるいはセキュリティやAI処理を重視するか——製品の要件に応じて、最適なシリーズを選定することが、開発効率と製品価値の最大化につながります。
本記事で紹介した各シリーズの特徴を参考に、ぜひ自社の開発目的に合ったSTM32を検討してみてください。
もし「どのシリーズが最適かわからない」「用途に合わせた最良の構成を相談したい」といったご要望がありましたら、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。







