IoT機器間を低消費電力で安全なメッシュ通信を実現するプロトコル
Thread概要
Threadとは
Threadとは、IoT(Internet of things)製品向けにIPv6ベースの低消費電力メッシュネットワーク技術を採用し、安全性と将来性を両立させるようGoogle傘下のNest
Labsが主導して設計されたネットワークプロトコルです。
Threadプロトコルの仕様は無償で入手可能ですが、エンドユーザーライセンス契約(EULA)への同意と継続的な遵守が必要で、「"Thread技術およびThreadグループ仕様の実装、実践、出荷には、Threadグループへのメンバーシップが必要である。」と定義されています。
Threadグループのメンバーシップは、"Academic"や"Associate"メンバーを除き、年会費が必要です。

Thread 「BECOME A MEMBER」(MEMBERSHIP BENEFITS)(参照2024-09-30)
Threadの主な特徴
メッシュネットワーク
無線機器を網目のようにつなぐメッシュネットワークを自己形成することで、通常では電波が届かない場所への通信を可能にします。
そして、ネットワーク内のどの機器が故障しても、バックアップする仕組みのため、堅牢です。
ネイティブIP(インターネットプロトコル)通信
インターネットのIP通信網をそのまま無線通信に使用できます。
ユーザーにやさしいネットワーク管理機能と高セキュリティを両立
ネットワークに新しい機器が参加する際のプロセスが工夫されており、IoTでは特に重要度を増しているセキュリティ対策が施されています。
長期間の電池駆動が可能
Threadのエンドデバイスは、自己の都合でスリープ状態に居ることができるため、長期の電池駆動が可能です。
Threadは、エッジルーターと呼ばれる接続ルーターを利用する、6LoWPAN(IPv6 over Low-power Wireless Personal Area
Networks)を用いていて、ZigBeeなどと同様に、メッシュ通信を行うIEEE
802.15.4の無線プロトコルを使用しています。
一方、ThreadはIPアドレスの指定も可能で、クラウドアクセスやAES暗号化にも対応しています。
つまり、Threadでは認証されたデバイスのみがネットワークに参加できるため、高いセキュリティレベルを維持することができます。
また、ネットワークを介したすべての通信は、ネットワーク鍵によって保護されます。
Thread Group
2014年7月16日、IoT製品が活用できるスマートホームの無線ネットワークプロトコル「Thread」の導入促進を目的として、Threadが業界標準になることを目指し、各社製品にThread認証を提供するワーキンググループ「Thread
Group」アライアンスが結成されました。
初期メンバーは、ARMホールディングス、Big Ass Solutions、NXP Semiconductors/Freescale
Semiconductor、Google子会社のNest
Labs、OSRAM、Samsung、Silicon Labs、Somfy、Tyco International、QualcommおよびYale lock
companyでした。
2018年8月にはApple Inc.が参加し、2020年後半に初のThread製品「HomePod mini」をリリースしました。

2019年には、Amazon、Apple、Google、Zigbeeなどの大手IT企業や関連団体が主導する、Connected Home over
IPプロジェクト(後に「Matter」に改名)が発足しました。
Connected Home over
IPプロジェクトの主な目的は、異なるメーカーのデバイスがシームレスに連携できるようにすることです。
そして、ThreadおよびWi-FiやBluetooth Low
Energyの技術を活用し、家庭内接続の相互運用性を促進するためのロイヤリティフリーの規格と、オープンソースコードベースの作成に向けた幅広い活動を開始しました。
BSDライセンス
BSDライセンス(Berkeley Software Distribution License)とは、オープンソースソフトウェアのライセンスの一つで、主に以下の特徴があります。
- 自由な使用
ソフトウェアを自由に使用、改変、配布できる。 - 著作権表示
ソースコードやバイナリを配布する際には、元の著作権表示とライセンスの通知を保持する必要がある。 - 制限が少ない
他のライセンスに比べて制約が少なく、商用利用も可能。
ThreadのBSDライセンスによるオープンソース実装は「OpenThread」と呼ばれ、Googleから公開されています。また、BSDライセンスは、シンプルで柔軟なため、多くのプロジェクトで採用されています。
近距離無線規格
各技術の比較

上図の通り、高速伝送が特徴であるWLAN、短距離無線が最大の強みであるANT、スマホ連携が得意なBluetooth、国内ではあまり普及していないが世界的には普及しているZigBee、1GHzまでの無線周波数で多様な周波数と通信速度が実現できるSub-GHz無線とその拡張システムなどに分けられます。

上の表から読み取れる通り、国際規格のIEEE802.15.1では、ネットワークトポロジーはP2P、Starです。
これは、IEEE802.15.1という規格をベースにすると、P2P(1対1)やStar(1対N)という比較的簡単なネットワーク構成しか取れないということを示しています。
一方、IEEE802.15.4の場合は、P2P、Star、Tree、Meshといった、すべてのネットワーク構成が可能になります。
ZigBeeとThread
ZigBeeとThreadは、ほぼ同義で使われることがありますが、二つの規格の共通点は低消費電力と低データレートを特徴としていることです。
スマートホーム空間における、無線制御や監視アプリケーションなどの低消費電力を維持しながら、近距離で、かつ少量データの無線通信に適しています。
ZigBeeとThraedの主な違いのひとつとして、Threadがインターネット・プロトコル・バージョン6(IPv6)を活用している点があります。
Threadは、既存のIPv6ベースのWi-Fiネットワークと普通に接続することが可能です。
一方、ZigBeeはゼロからネットワークを構築する必要があり、ネットワーク内の各ノードは16ビットのアドレスを取得し、アプリケーション・レイヤー・ゲートウェイを使ってIPに変換することが必要になります。
下図に示すように、Threadがアプリケーション層を定義していないのに対して、Zigbeeはアプリケーション層までに定義しています。
このため、アプリケーション層の開発容易という点からはThreadの方がより柔軟性が高くなります。

ZCL:Zigbee Cluster Library
BDB:Base Device Behavior
APS:Application Support Sub-layer
もう一つの違いとして、消費電力が挙げられます。
Threadは、バッテリー駆動のIoTデバイスに適した低消費電力プロトコルとして設計されています。そのため、エネルギー効率に優れたルーティングアルゴリズムを使用して、消費電力を最小限に抑えられます。これにより、Threadデバイスは、スリープ期間を最適化し、アイドル時のエネルギー使用量を削減することで、長時間のバッテリー駆動を実現できます。
一方、ZigBeeは、低消費電力動作でも知られていますが、上図で示すようにソフトウェア・スタックが大きいため、Threadよりも消費電力が大きくなる傾向があります。
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