これまでの電源IC技術コラム電源ICを知るための第一歩!①~⑥では、 主にリニアレギュレーター(LDO)の特性や使い分けについて解説してきました。 リニアレギュレーターは構成がシンプルで扱いやすい一方、
電圧を下げる用途(降圧)にしか対応できません。
一方、スイッチングレギュレーターは回路方式の選択肢が多く、 用途に応じて以下のような電圧変換が可能です。
- 降圧(Buck)
- 昇圧(Boost)
- 昇降圧(Buck-Boost)
- 反転(Inverting)
本コラムでは、これらの方式の中でも 昇圧コンバーターに注目し、回路構成、動作原理について解説します。
昇圧コンバーターとは
昇圧コンバーターは、入力電圧よりも高い出力電圧を生成するための電源回路です。 たとえば、5V系の電源から12V系の負荷電圧を生成したい場合などに使用されます。 電池駆動機器や通信機器、車載機器、LED照明、再生可能エネルギーシステムなど、 幅広い分野で利用されています。
昇圧コンバーターの回路構成
昇圧コンバーターの基本的な回路構成を図1に示します。
図1 昇圧コンバーター(非同期整流)
主な構成要素は以下の4つです。
- インダクタ(L)
- ダイオード(D)
- FET(スイッチング素子)
- 出力コンデンサー(Cout)
非同期整流方式ではダイオードを使用しますが、 効率向上を目的として 同期整流方式 が採用される場合は、 ダイオードの代わりにFETが使用されます。
昇圧コンバーターの動作原理
昇圧コンバーターは、インダクタにエネルギーを蓄積・放出する動作を繰り返すことで昇圧を実現します。
ここでは、FETのON時とOFF時、それぞれの動作を確認します。
- FET=ON時の動作
FETがONすると、入力電圧(Vin)がインダクタ(L)に印加され、 インダクタ電流が増加しながらエネルギーが蓄積されます。 (下図A)
この間、負荷には出力コンデンサー(Cout)から電流が供給されます。 (下図B)
図2 FET=ON時の電流経路
- FET=OFF時の動作
FETがOFFになると、インダクタ(L)に蓄積されていたエネルギーが放出され、 インダクタ電流はダイオード(D)を通って出力コンデンサー(Cout)および負荷へ流れます。 (下図C)
図3 FET=OFF時の電流経路
FETのON/OFFを繰り返すことで、 入力電圧より高い出力電圧が得られます。
図4 昇圧コンバーターの動作波形
Dutyと出力電圧の関係
昇圧コンバーターの代表的な制御方式である パルス幅変調(PWM)方式では、スイッチング周波数を一定に保ちつつ、FETのON時間(パルス幅)を調整することで出力電圧を制御します。
1周期のうち FETがONしている時間の割合を Duty(D) と呼び、昇圧動作では以下の近似式が成り立ちます。
- Duty = (Vout − Vin) / Vout
- Vout = Vin / (1 − Duty)
この式より、入力電圧と出力電圧の差が大きいほど Duty は高くなることが分かります。
計算例
入力電圧:Vin = 5V
出力電圧:Vout =
12V
Duty = (12V − 5V) / 12V ≒ 58%
通常、昇圧コンバーターでは保護機能の一環として最大Dutyが制限されています。
そのため、使用する入力電圧範囲で希望する出力電圧が達成可能かどうかを確認する必要があります。
インダクタ電流とリップル電流
インダクタのリップル電流
昇圧コンバーターでは、インダクタ電流は部品選定、効率、ノイズに大きく影響する重要なパラメータです。
インダクタに流れる電流はスイッチング動作により周期的に増減し、その振幅をインダクタ・リップル電流(ΔIL)呼びます。
リップル電流 ΔIL は次式で求められます。
- ΔIL = Vin × D / (L × Fsw)
計算例
Vin = 5V
Vout =
12V
Fsw = 500kHz
L = 6.8µH
ΔIL = 5V × 0.58 /
(6.8µH × 500kHz) ≒ 0.85A
インダクタ電流の平均値
昇圧コンバーターにおけるインダクタ電流の平均値は 入力電流(IIN)と等しく、次式で求められます。
- IIN = IL(Ave) = (Vout × Iout) / (Vin × η)
計算例
Vin = 5V
Vout =
12V
Iout = 1A
効率 η = 90%
IL(Ave) = (12V × 1A) / (5V × 0.9) ≒ 2.67A
インダクタ電流のピーク値
インダクタ電流は平均値を中心にリップル分だけ増減します。
ピーク値は次式で求められます。
- ILpeak = IL(Ave) + ΔIL / 2
計算例
ILpeak =2.67A + 0.85A / 2 ≒ 3.1A
使用するインダクタは、飽和電流(Isat)がピーク・インダクタ電流を上回るものを選定する必要があります。 飽和電流が不足すると、インダクタが磁気的に飽和し、発熱・効率低下・動作不安定、過電流につながります。
出力リップル電圧
昇圧コンバーターでは、図4の動作波形に示される通り、 出力コンデンサー(Cout)への充電電流は断続的となります。
そのため、出力リップル電圧が大きくなりやすいという特徴があります。
一方、入力電流は連続的となります。
出力リップル電圧の低減には、 コンデンサー容量やESRの選定が重要になります。 詳細については、電源IC技術コラム 「リップル電流とリップル電圧のはなし」もあわせてご参照ください。
リップル電流とリップル電圧のはなし
まとめ
昇圧コンバーターは、電源設計における基本技術のひとつです。本記事では、その基本的な動作について解説しました。
動作原理を理解し、適切な部品選定と回路設計を行うことで、安定した電圧の供給が可能になります。
ぜひ本記事の内容を参考に、実際の回路設計に役立ててください。
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