DCDCコンバーターを設計するうえで、リップル電流とリップル電圧の理解は重要です。これらは電源のノイズ、部品ストレス、効率、発熱、さらにはEMI特性まで左右し、安定した電源品質に影響します。Buckコンバーターではスイッチングによってインダクタ電流が三角波状に変動しますが、この変動分をリップル電流と呼びます。リップル電流が増えると出力コンデンサー電流が増え、出力電圧の周期変動(リップル電圧)が大きくなります。
このリップル電流とリップル電圧について基礎を説明し、実際の計算例を見ていきます。
リップル電流とは
DCDCコンバーター(特にBuck型)におけるリップル電流とは、スイッチング動作によりインダクタ電流や出力電流に重畳する周期的な変動成分を指します。
Buckコンバーターはスイッチング素子であるMOSFETを高速でオン・オフし、インダクタとコンデンサーで平滑化して直流出力を得ます。 このとき、インダクタ電流は完全な直流ではなく、平均値の周りで三角波状に変動します。この変動分がリップル電流です。図1に平均電流・ΔIL(pp)・周期を注記した波形概略を示します。
周期:スイッチング周波数に依存
振幅:入力電圧、出力電圧、インダクタ値、負荷電流によって決まる
波形:基本的に三角波(CCMの場合。DCMでは波形が非対称になります)
リップル電流が大きい場合、出力コンデンサーのESRによる電圧降下が支配的となり、出力リップル電圧が増加します。これはノイズ悪化や効率低下の原因となります。出力リップル電圧の発生要因については、後ほど詳しく説明します。
図1 Buckコンバーターのリップル電流
リップル電流の計算式
ΔIL:リップル電流のピーク・ツー・ピーク値
Vin:入力電圧
Vout:出力電圧
D:デューティ比
L:インダクタンス
fsw:スイッチング周波数
リップル電流 ΔIL を決める要因
上記の計算式からもわかるように、
1. インダクタ値 L
L が大きいほど電流の変化がゆっくりになり、リップル電流が小さくなります。
L が大 → ΔIL 小
L が小 → ΔIL 大(すなわち、小型化するとリップル電流が大きくなる傾向があります)
2. スイッチング周波数 fSW
fSWが高いほどオン時間が短くなり、インダクタ電流が変化しにくくなるためリップル電流が小さくなります。
高周波 → ΔIL 小
低周波 → ΔIL 大
3. 入力電圧 Vin と出力電圧 Vout の関係
Buckコンバーターでは、スイッチON時にインダクタへ印加される電圧は
VL = Vin − Vout
となります。この電圧差が大きいほど電流変化率が増大し、リップル電流も大きくなります。
リップル電流が大きい場合のデメリット
1. 出力リップル電圧が増える
インダクタ電流のリップルが大きいほど、出力コンデンサーに流れる電流も大きくなり、コンデンサーのESRによって出力電圧リップルが増加します。出力電圧の変動が増え、ノイズ悪化や電源精度が落ちるなど品質が低下することになります。
2. 出力コンデンサーへの電流ストレス
コンデンサーに流れるリップル電流が増えるとESRによる発熱が増え、コンデンサーの寿命が短くなります。また、小型コンデンサーでは許容リップル電流を超える可能性もあります。
3. インダクタの発熱増加
リップルが大きいとインダクタのAC磁化が大きくなるため、銅損・鉄損※が増加します。温度上昇、効率低下、飽和の危険性が上昇します。
- 銅損: 負荷に比例(電流の2乗)する損失。コイルで発生
- 鉄損: 負荷によらず一定(無負荷損)の損失。鉄心で発生
4. EMIの増加
電流の変化率(di/dt)が大きくなるほど、EMIが悪化しやすくなります。大型フィルタや追加対策が必要になりがちです。
一方、リップル電流が大きい場合のメリット
1. インダクタが小型化できる
リップルを小さくするにはインダクタLを大きくする必要がありますが、逆にリップルをある程度許容すればインダクタのサイズを小さくできます。小さくすることでコストが下がり、部品の高さも抑えられるので特に小型電源向けではメリットになります。
2. 応答性の改善
Lを小さくすると電流スロープが急峻になり、負荷変動に対する応答性を高めやすくなります。
リップル電圧の発生
出力リップル電圧Vrippleは一般的に次の3成分の合計です。概略を図2に示します。
ESR成分:リップル電圧の主要成分で、数mΩレベルのESRでも影響が大きい。低~中域の周波数成分で支配的
容量成分:基本周期の三角波による成分
ESL成分:高周波成分で支配的となる成分。スパイクノイズの主な原因
図2 ESR, ESL, Cによって発生するリップル電圧
リップル電流とリップル電圧の計算例
例として、Buckコンバーターを想定して次の条件で計算を行ってみます。
Vin = 12 V, Vout = 5 V, Iout = 1 A, fSW = 1 MHz, L = 10 µH
ここで、
となるので、リップル電流ΔILは
一般的に、電源ICメーカーは定格負荷電流の20~40%程度をリップル電流の目安として推奨しています。
上記の結果は出力電流1Aに対してリップル電流0.29Aなので約30%となり、おおむね良好な数字と言えます。
次に、出力リップル電圧を計算します。次の計算式で算出します(ESL成分は省略しています)。
算出には出力コンデンサーの容量値とESRの情報が必要になります。
ここでは次の条件で計算を行います。
C=22µF, ESR=10mΩ
① 出力リップル電圧(ESR成分)
② 出力リップル電圧(容量成分)
③ 合計リップル電圧
実際は要求されるリップル電圧に対して仕様内かどうか確認しますが、4.6 mV p-p は比較的良好な値です。
もっと出力リップルを下げたければ:
Cを大きくする(例:22 µF → 47 µF → 100 µF)
ESRがさらに低いコンデンサーにする(例:2~5 mΩのポリマー系)
といった対策が効果的です。
まとめ
DCDC(Buck)コンバーターでは、スイッチング動作によりインダクタ電流が平均値の周りで三角波状に変動しますが、この変動分をリップル電流と呼びます。リップル電流が大きいと出力コンデンサに流れる電流も増え、出力電圧に周期的な変動(リップル電圧)が生じることになり、ノイズや発熱、EMI悪化などのデメリットがある一方、インダクタを小型化でき応答性が向上するメリットもあります。
リップル電流・電圧の計算例では、Vin=12V、Vout=5V、Iout=1A、fSW=1MHz、L=10uHの条件で計算を行い、C=22µF、ESR=10mΩの場合、出力リップル電圧は4.6mVと良好な結果となりました。
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