はじめに
従来の映像/音響機器では、ほぼ全ての機器を 1対1 でケーブル接続していました。また、ケーブルの種類はインタフェースに依存するため、AV機器の周りには、さまざまなケーブルが這いまわされ、ケーブルの多さから見映えの悪さおよび、混乱を招くことがありました。この問題を解決するために、イーサネットが注目されましたが、イーサーネットは、遅延、帯域保証などの通信品質を保証しない、「ベストエフォートの思想」のもとに発展した通信方法のため、リアルタイム性が強く求められる、映像/音楽のストリーミングデータの伝送に適さないという課題がありました。
本コラムでは、この課題へのソリューションの1つである、AVBの概要について説明します。
AVBとは
AVBとは、Audio Video Bridging の略で、米国電気電子学会(IEEE)の802.1規格で策定されえたイーサーネット経由で映像/音楽を伝送するための技術です。映像/音楽のストリーミングデータのイーサーネット伝送を、高い信頼性と低レイテンシで実現することを目的とし、策定されました。
AVBが必要な理由
AVBが必要な理由は主に、下記の3点です。
①映像の途切れ、音切れの発生防止のため
イーサーネットは、ベストエフォート思想のネットワークのため、映像/音楽のストリーミングデータ運ぶイーサーネットフレームが、必ず送信先に届くとは限りません。そのため、映像データががモニターに届かないことによる映像の途切れ、音楽データがスピーカに届かないことによる音切れが発生します。AVBは、映像/音声ストリーミングデータの破棄が発生しないしくみを採用しています。
②映像/音声のスムーズな再生のため
イーサーネットは、ベストエフォート思想のネットワークのため、映像/音楽のストリーミングデータ運ぶイーサーネットフレームが、 必ず要求される時間内に、送信先に届くとは限りません。AVBは、送信元から送信先の間のレイテンシを見積もることができるため、 映像/音楽の再生遅れの発生を防ぐことが可能です。
③再生時間の同期のため
イーサネットのネットワークには、時間という概念が存在していません。そのため、複数のスピーカや映像機器の再生時刻の同期をとることができず、再生ずれが起こりえます。AVBは、時刻同期機能を採用し、各機器が同期した時刻をもつことにより、このような再生ずれの発生を防ぐことができます。
AVBのユースケース
AVBは、イーサーネットケーブルを使って機器同士を接続し、映像/音楽ストリームデータを転送する事を目的としていて、家庭用AV機器、業務用音響&映像システムのネットワーク、又は、以下図1のように、車載マルチメティア系機器の統合に採用されています。

AVBでは、3つの機器の呼び方を定義しています。
①Talker
映像/音楽の送信機器のことを指します。
②Listener
映像/音楽の再生機器のことを指します。
③Bridge
中継機器(例えば、スイッチなど)のことを指します。
なお、AVBでは、映像/音楽ストリームがTalkerからListenerに届くまで、以下のように、6つのBridgeを介した場合でも、最悪2msの低レイテンシを保証しています。

AVBに含まれる規格
AVBは、複数の802.1規格群から構成されています。

Standard | Title | Contents |
---|---|---|
802.1AS | Timing and Synchronization | 時刻同期 時刻を伝送するプロトコルとして、 gPTP(generalized Precision Time Protocol)を使用 |
802.1Qat | Stream Reservation Protocol | Talker-Listener間のストリーム伝送帯域予約 |
802.1Qav | Forwarding and Queuing Enhancement for Time-Sensitive Stream | フレームの送信間隔の不均一性を是正 クレジットベースのキューイングによる低レイテンシ保証 |
表1 AVB規格群
AVBが提供する主な機能
時刻同期
AVBは、ネットワークのデバイス間で、時刻の正確な同期を可能にするIEEE802.1AS規格を採用しています。
この時刻同期により、各デバイスにおける正確な時刻でのアクション実行が可能になります。

ストリーム伝送帯域予約
AVBは、Talker-Listener間において、ストリームの伝送帯域を予約することを可能にするIEEE802.1Qat規格を採用します。ストリームの伝送帯域の予約ができることにより、安定した映像/音楽の再生が可能になります。

フレームの送信間隔の不均一性を是正、レイテンシの保証
AVBは、フレームの送信間隔の不均一性の是正、レイテンシを保証することを可能にするIEEE802.1Qav規格を採用します。フレームか送信間隔の不均一性を是正することにより、フレームを受信する機器で、バッファーのオーバーフローの発生によるフレーム破棄を防ぐことが可能になります。また、低レイテンシを保証できることより、映像/音楽のスムーズな再生が可能になります。

まとめ
本コラムでは、AVB(Audio Video Bridging)の概要について、説明しました。
IEEE802.1Qat(Stream Reservation Protocol)、IEEE802.1Qav(Forwarding and Queuing Enhancement for Time-Sensitive Stream)を、順次、説明していきます。
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